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次回 翌日0:00に更新予定

「ここをキャンプ地とする」

「きゃ…?」

「…言ってみたかっただけだ。気にするな」

 聞き慣れない単語に混乱する少女を他所に、青年は渓流地帯の中心…中州状に盛り上がった地面に荷物を降ろした。

 樹林と岸壁が主となる土地では珍しく開けており、幾つかの大岩を除いて視界は広い。

 日中は自然の豊かさを象徴するような緑に水の流れる音が加わり、鉄虫や小動物をはじめ独自の生態系を目にすることもできる景勝地でもある。

 しかし、それは異形にとっても同様。ハンターにとっての逃げ場所、隠れ場所を排した死地ともなり得ることを意味していた。

 増してや夜間ともなれば夜目の効く獣の方が有利となる…狩り人であれば本来避けるべき布陣である。

 普段から身を隠し機を伺うように行動することが定石の少女にとって、青年の選択は不思議に思えた。

「ハンター、無策」

「なんだ山田。この機に及んでまだ俺のことを疑っているのか」

 山田と呼ばれた少女は眉間に皺を寄せる。

「疑いしかない」

「お前なぁ…勝手についてきたくせに…そもそもこいつは俺への依頼なんだぜ?」

「ハンターより私の方が強い。言うことを聞く必要、ない」言うなり歩き出そうとした、その時だった。

「いいや」凄みある声がした。

 先ほどと全く異なる青年の口調に一瞬山田はたじろぐ。

「今回ばかりは俺の言うことを聞いてもらう」

 その表情は普段と打って変わって険しいものだった。

 青年は足元に置いた荷を解くと、とぐろ状に巻かれた何かを取り出した。

「こいつを四方に括り付ける。お前も手伝え」

「これは…」

 山田は手渡されたものを確かめる。

 光沢を持った、髪の毛ほどの細い糸だった。長さはちょうど観測台の天辺から地に垂れるほどだろうか。量に対して意外なほど重さを感じることはない。

「鉄虫の糸を加工したものだ。一緒にタリアのところへ取りに行ったろ」

 青年は忙しく糸を木々に巻き付けている最中だった。その背を見て山田は記憶を手繰り寄せる。

『依頼の品々』…『へんちくりんな要望』…『二つまとめて』…

 鍛治職人の言っていた注文とはバグバイトの双剣だけではなかったのだ。

「ほら、早くそっちの方にも巻きつけてくれ。糸を木の間に渡すようにするんだ」

 青年の作った罠は巨大な蜘蛛の巣にも見えた。

 事実鉄虫は蜘蛛にも近い巣をこの糸で作り母体となる女王を中心とした群れを形成する。数十、数百にも及ぶ鉄虫を支える建材はそれ相応の強度を保証していた。

 その特性に青年が目をつけてあつらえたものこそ、いまこの手に握られている代物だった。

 なるほど罠か。

 開けた土地は己を囮にするための策。

 それならば合点はいく。

 しかし、合点を得てなお少女には迷いがあった。

「…でも、」殿猪は警戒心が強い。

 こんな子供騙しの罠では…だが、言いかけるのを青年は許さなかった。

「でもじゃない、さっさとしないと間に合わなくなっちまう」

 山田は渋々頷くと手を動かし始める。

 暫くもしないうちに二人を中心として囲むように罠が張られる。

 罠と共に張り詰められた空気の中、結われた糸の一端が揺れる様を少女は静かに目で追っていた。

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