荷物
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夜の帳が未だ上がりきらない道中。
馬の引く幌の中で青年は鎧の留め具を締め直す。
急所を金属と皮で覆う胸当てが少し軋んだ。軽量化と保護の平均を取った選択だった。
傍にはバグバイト。馬車の振動で細かに揺れる様は果たして武者震いか、あるいは。
「なぁ、どうしてもついてくるのか」
青年は対面する相手に問いかけた。
その視線の先には弓砲〈ファルクル〉を膝に抱えた少女が佇む。
「ハンターには関係ない」
闇の中では表情まで読めない。
青年はため息を吐く。
こうなっては恐ろしく意固地になることは知っている。
心中では彼女を連れていくことには反対以外の感情はなかった。
しかし、安易な言葉ではその心が動かないだろうことは感じ取れた。
何かが…何かが、彼女を余剰のない崖の先へ突き動かしているようにさえ思える。
仄かにけぶる息が、生気そのもののように流れていく。
「…わかったよ。だが」
具足を前に出す。
「なら連携は必要だ。名前を教えろ」
「教えない」
顔が見えないことを蓑に青年は苦い顔をする。
「お前なぁ…」
「…名前、大事。支配の証。だから教えない」少し早口気味に少女が付け加える。
青年にとって、それは意外に聞こえた。
狩りを目前に少女も動揺しているのか。
「じゃあお前、『山田』な」
「ヤマ…」
「そうだ。山田。いいだろう、山田」
「…ハンター、馬鹿にしてる」
「馬鹿にしてなんかねえよ。山田さんに失礼だろ山田」
「…」少女は無言に戻る。
幾分か緊張は和らいだ。
だが、青年は自分の鼓動が未だにしずまらないことを自覚している。
幌馬車の行く先…冬に差し掛かる渓流は、まだまだ闇に沈んでいた。




