気配
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大皿から次々と消える天麩羅を眺めながら青年は過去に思いを馳せる。
タコ男との一件の後、二人は揃ってこの観測台へ足を向けた。
柄にもないことをした…かつて勤め先に訪れた所謂「やり手」の営業マンの真似は想像以上に疲労を生んでいた。
すぐにでも拠点へ戻りたい気持ちを逸らせていると、腹の虫が聞こえたのだった。
「…腹、空いてるのか」
それは青年のものではなかった。
「…」
「…来いよ。昨日の余りがあったはずだ」
目元の見えない少女が小さく頷くのを見届けたのが最後、二人は食卓を共有することとなった。
「ホント、味を占めやがってなぁ」
聞けば少女は村の中で食事をするどころか、換金以外で商店を利用したこともなかったらしい。
渓流での自給自足…魚や虫の肉を獲ってそのまま食べる姿が目に浮かぶ。
生まれ故郷を後にした彼女にとって、料理らしい料理を口にしたのはおよそ二年ぶりである。それがたまたま、青年の趣味に合致していたのだった。
「…?」青年の独り言に少女は手を止めていた。漏れ出る程度の音量だったはずだが、相変わらず随分な聴覚である。
「いや、観測台に来るようになってからお前も臭くなくなったよなぁって」
「なっ…!」
頭上の耳が水平となる。普段無表情な一方でそれらは感情を細かに表していた。
「く、臭くない…!」
「だって渓流で水浴びしてただけなんだろ?臭くないわけが…」
「臭くない!」
その顔色はいつかの漁師のごとく。腐っても年頃というわけである。
「はいはい、そうおっしゃるなら臭くない臭くない」
「臭くない!臭くない!」
抵抗する少女にやりすぎたかとは思いつつも弱虫と言われた手前多少やりかえしたって良いだろう。
空となった皿を片付けるのに合わせて少女を観測台の浴場に追いやる。
臭くないと連呼する小さな背が建物の奥に消えるのを確認して、青年は口を開いた。
「…覗きはらしくないぞ。いるんだろ、クロノ」
しばらくして勝手口が叩かれる。
扉を開くと、そこには刀を背負った村長がいた。顔にへばりついたしかめ面はそのままである。
「…いつから気がついていた」
「さぁな」
二人は廊下を進んで階段を登る。
かつてしたように。無言のまま。
観測台の頂上に着くと、冷気が身を包んだ。すでに秋も暮れに近づいている。
「依頼だ」
クロノは村の夜景を眺めながら言った。
「…殿猪が出た」




