謝罪
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「…というわけだ。俺に免じて許してやってくれ」
ワノ村に戻った青年と少女はそのまま村役場に向かった。
「…シビレマス…がねぇ…」
青年の予想通りタコ男は商店へ魚を卸しに来ていた。
頭を下げる二人を前にして、ぬらりと光る禿をなでながら眉間に皺を寄せている。
「あんちゃん…」商店の旦那は両者の間でしばらくもたついていたものの、ようやく自分の役割を見つけたようで、漁師の男へ話しかけた。
「許してやってもいいじゃないですか、漁師さん。確かに問答は起きましたが、おかげで身を痛める者は出なかったんです」
「いやでもな、旦那」男は満足せずと言った口調で反論する。
「果たして俺の捕った魚が本当にシビレマスだったかも怪しい。先祖代々漁師やってきた矜持だってぇある。そのガキのことを信じろって言うのが無理なんだ」
少女は外套を引く。
所詮通じないことはわかっていた。もとより自分ははぐれ者…村に馴染もうと努力したわけでもない。
少女は知っていた。このままではいけないと。
共に住むということは、命を預けるということ。この地に住まう村人たちにとって、自分は命を預けるに値する隣人であったか。それは否。
過去が恨めしい。
歩み寄る一歩を縛り付ける光景が、後悔が、その胸を固く閉ざしていた。溝はそうしているうちに広がり、彼女ではどうにもできない域に達している。
そうだからこそ今、わずかにでも善意で関わろうとした先で、むしろ疑われることは当然の帰結…そう、思っていた。
「しつこいぜ、タコおやじ」
青年は男の隣に腰かけると、その肩に腕を回していた。
「シビレマスだろうがなんだろうが、損はしてないんだろ?なんてったって相場の倍、俺が払ったんだ」
外套をつかむ細い指がわずかに緩む。
「矜持だなんだって、魚はねぇし確かめようもない。どうせ引き返せなくなったからって認められないのが本音ってとこだろ。それとも…」
赤く染まった顔の隣で彼は不敵な笑みを浮かべていた。
「こんなガキをいじめるのが趣味なのか…?」
「なっ…」
顔を赤くした音はばつが悪そうに視線を他所へやる。
「…うん?」
沈黙。
赤みがかるをはるかに通り越して紅色となった頭で漁師の男は思考しているようだった。
だが、最終的に勝ったのは青年らしく、
「................わかったよ」漁師の男は聞こえるか聞こえないかの声音で言い捨てたのだった。
青年はそれを聞くや立ち上がって、わざとらしく大声で叫んだ。
「さぁ!お開きだ!タコおやじもガキもお互いマズッただけだ。困ったことがあればハンターのもとへ、だろ?またなんかあったら声をかけてくれよ、旦那」
「あ…あぁ!また頼むよあんちゃん!」
見え透いた寸劇だった。
責任の清算、強引な解決、そして未来への抑止力。形式的にでもこれを聞いた者はこの一件を今後持ち出すことは出来なくなる。仕切り直された現状、それは少女の孤独という居場所の均衡が再び取り戻されることを意味していた。
極めて政治的、表面的な見せかけだけの劇。
しかしこの劇が他方、一人の運命を変えたことも事実だった。




