吐露
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「…俺はハンターなんて職業大嫌いなんだ」
「…」
雨降る夜の洞窟。
知らずのうちに前のめりになっていた姿勢を解く。
転生のくだりや別世界から来た事実は省いものの、彼女が自分の話を理解できているかはその顔に張り付いた無表情から読み取ること能わず。
「本当は狩りなんてうんざりなんだよ…」
力の抜けた声が漏れる。
薪の弾ける音が洞窟をしばらく満たした。
大きく開いた洞窟の口の向こうでは依然として夜の闇が広がっていた。
「…わからない」
薄い唇が開く。
「叶えたかった夢あったこと、それはわかった。でも、」
焚き火の朱で彩られた瞳がこちらを力強く覗き込んだ。
「一度うまくいかなかった。そのあと全部諦めるのはわからない」
「それは…」
青年は反論しようとして口を噤む。
この会話は初めてではない。
社会人をしながらだって専門学校に通う、個人で名を売って技能を確立する人間はいる。それで例えば第一志望に届かなかったとしても第二、第三の転職を経て目標の役職を勤める話は珍しくない。
似たことは何度か指摘されたことがある。
そんな暇があるなら苦労はしない…と一蹴することもできたが、狭き門に手をかける人間ならば無理にでも暇を作って成し遂げることだろう。
要は覚悟が足りていないのだ。
頭では理解していた。
否、真に理解しているとは言い難い。
もし前者であればこの腹の底に広がる不快感は存在しないはずだ。
それは心があの時の…純粋だった頃に尽くした全力と自分自身を否定したくないことに起因している。
進むにはあの時の自分では足りなかったのだと認めることが前提となる。
しかし、心がそれを拒んでいた。
すっかり忘れたはずの矜持を、今でも立派に持ち続けていたということに他ならない。
自負があったのだ。
あの時こそが自分の頂点だったのだと。
矜持を捨てた時、再び新たな頂点を作り出す必要がある。それも、以前のそれを超えるものを。
その実現は途方もなく遠いものに思えた。
「…色々あるんだよ」
言い訳だった。それは青年自身が一番理解している。
それでも、理性と感情のせめぎ合いの果てで形にできる言葉はそれが精一杯だった。
「…」
不意に、外から風が吹き込む。煽られた炎が高く伸び、火の粉が舞った。
その向こうで青年は少女の意地悪そうな顔を見た。
ヒルのような唇の両端を吊り上げた彼女が口にしたのは、単純明快な悪口だった。
「弱虫」
「なっ…」
「弱虫ハンター」
「弱虫…」
「虫より弱いから虫弱虫ハンター」
「こいつ…」こんなに性格悪かったのか…と青年は憤る。
「弱虫、なにも出来ない。何も変えられない。なら、出来ること、やるだけ」




