転倒
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こんなに祈られては神格にでもなりそうだ。
第一志望の企業が三桁を超えた頃から不採用を伝える文面にそう心が動くことはなくなっていた。
誰にも必要とされないことをここまで明言されてはむしろ面白くなってくるというものだ。
違う。
腑が煮え繰り返っていた。
特に、最初の第一志望には心の底からなぜと問いたかった。
「漁士さんはとても良い人だという印象が持てます」
後から知ったがなんら褒めるところのない人間に対して聞かせる言葉だそうだ。
なら正直に言ってくれれば諦めもつくというものを、僅かでも期待して過ごした数日間ほど恨めしく思うものは存在しなくなった。
「過去の自分に居場所を与えてくれた狩ゲームを、より多くのプレイヤーの居場所にしたい」
言った瞬間、嫌な予感はしていた。
それでも正直に話した理想は、それほど稚拙に映ったのだろうか。
正直者が馬鹿を見るのであればなぜ人は皆、正直であることを尊ぶのか。
嘘を騙るくらいでなければ所詮枠を破れないというのか。
解せない。
理解しようとも思わない。
許せない。
逆恨みなのは知っている。
それでも、それでも…言葉にならない何かが、形を得ない感情が、日々沸々と胸を圧迫していた。
人生で初めてご活躍をお祈りされてから、自分は完全に泥沼に嵌った。
来る日も来る日も見知らぬ、興味のなさそうな採用担当に定型分と耳に心地良さそうな言葉を並べる毎日。
そうして得た内定はなんの興味もない業界の、なんのやりがいもない事務職だった。
事務職といっても社内の何でも屋となる。
東会議室で会議の資料がないと言われれば作り西オフィスでPCが壊れたといえば直す。
電話が鳴れば客の無茶に付き合い、上司の気分で無理難題を押し付けられるサンドバッグを担う。
ビルの清掃員は既にやめているので同僚が去った後の机は自分が拭った。
そうして力尽きるように自販機の横で眠った。
まともな神経をしたものは心か身体を病んで職場を去っていった。
だが、それはまだ幸運な部類だ。
残されたのは面の皮が地球の半径をも超えそうな宇宙怪物か、息の仕方さえ怪しい希少生物のみ。
それらと机を並べるのは何かしらの拷問にも思えた。
しかし、青年は耐えた。
何者にもなれなかったから。
必要とされなかったから。
居場所が、失われたから。
この場の他に身を寄せられる岸はなかった。
気を抜けば泥濘へ引き摺り込まれる社会で、自らの純粋と妄念が招いた罰だった。




