死
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意を決してゲームハードの電源を入れた。
夏の暮れ。茹だるような残暑が残る休日だった。
長ったらしいロード画面を踏破すると、そこにはたかだか携帯ゲーム機のピクセル数でしか描かれない狭い世界が広がった。
圧縮されたハードウェアの中でも効果を得られるよう、わざわざ熱排出口を蝸牛のように延ばした小型冷却ファンが必死に呼吸をする。
有機ELを誇張する画面の向こうは彩度ばかりが目立って安っぽかった。
今となっては珍しくないフルオーケストラ調のBGMが流れるホームマップは小学校の校庭よりも狭く感じる。
定型モーションを繰り返すだけの3Dアニメーション。レンダー範囲を外れて仕舞えばただの2Dグラフィックに成り果てる様はとても冷ややかに青年に映った。
受注できるクエストもテキストも所詮は誰かが書いたもの。
逐一リアクションを挟んでくるキャラクターモデルまで白々しく思えてくる。
生態系を演出するマップも、そこに潜む敵の造形も、音声や攻撃モーションも。
全部全部が作り物だった。
それは知っている。
何百時、何千時間もかけて、百も承知のつもりだった。
ただその一つ一つと相対するたびに活躍を祈られている気がした。
淡白なオンライン面接。
上半身だけで浮遊する採用担当の作り笑い。
採点シートだったのだろう書類の擦れる音とチャット内で蠢く意味深なやり取り。
その世界は、青年にとって死んでしまっていた。
気分を変えようと別のソフトを挿し込むも、ゲーム内で何か指示されるたびにその向こうで薄ら笑いを浮かべている採用担当の机がチラついた。
意図せず画面が暗転した時、青年は電源が切れたことへの憤慨よりも、これ以上ゲームに触れなくても良い言い訳を得たことへの安堵を覚えた。
目の見えないところへ。
手の届かないところへ。
ワンルーム六畳間の安アパートに仕舞う場所などなく、部屋の隅へ押しやったゲーム機に、その後彼の手が触れることはなかった。




