憧憬
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「なぁ!お前、〇〇〇倒せた!?」
昼休みだった。
リノリウムの床をかける上履きの音が響く。
食後の一斉挨拶を終えたクラスの面々は友を連れ立って、もしくは一人で思い思いに時間を過ごす。
少年はふふん、と自慢気に笑って見せた。
「倒せたぜ。装備も揃えた」
「マジかよ!俺まだキークエ全然進んでないのに…」別のクラスメイトが机を突き合わせる。
「アイテムを使うのがコツなんだよ。爆弾とか…閃光弾とか」
「えー?俺、使って見たんだけどよく分からなかったんだよな…すぐ死んだ」
俺も、俺も、と少年たちは互い違いに自分がいかにゲームの中で悲惨な死を遂げたか話し始める。
「仕方ないな」
少年は机から独特な寸法の本を取り出す。
「あ!攻略本!やっぱ〇〇〇〇の装備かっこいいよなぁ」
「えー、俺は〇〇の方が好き。〇〇〇〇は派手すぎる」
「お前は侍が好きなだけだろ!正義の騎士っぽいのがいいんだよ」
このように折角取り出した攻略本も、実際には安っぽく印刷されたグラフィックアートや装備の目録を眺めるだけでボスを倒す攻略法を読むのには至らない。
だが、それで良かった。
「おっ、攻略本じゃん。見せろよ」
他クラスからも男子が集まる。
そうこうしているうちにチャイムが鳴り、蜘蛛の子を散らすように各々の席に戻っていく。
余韻を残しながら授業が始まる。時折、会話の断片を思い出して笑みがこぼれる。
次はなんの話をしよう、何を好きだと言おう。
そこには確かに、同じ好きを共有する仲間がいる。
この日常こそ、少年にとっての幸福であり、当たり前だった…
…はずだった。




