少女
次回 翌日0:00に更新
「ハンター、弱い。見込み違い」
少女が太陽を遮った。
「…」
青年は声も出せない。
頭では今まさに四肢を動かさんとしているが、手足は渓流の水に沈んだままだった。
「鉄虫も倒せない。弱すぎる」
仰向けに倒れたままの青年を、弓砲の床で突きながら少女が言う。
獣の骨を加工薬で塗り固めたそれが当たるたび、電気が全身を駆け抜けるようだった。
「ハンター、きっとすぐ死ぬ。ハンターやめた方がいい」言い捨てられると、日の光が目を眩ませた。
しばらくして、肌の表面に振動を感じる。水の流れを背中で覚え始めたのだ。
ようやく鉄虫に受けた毒が抜けてきたようである。
風が木漏れ日を揺らした。樹齢何年になるのだろうか、甘く、青々とした苔むす大樹を嗅ぐ。
未だしびれの残る上半身を起こし、腰に手をやった。持ち込んでいた小刀…〈狩人の小刀〉は健在だった。渓流に落としては探しようもない。
「…弱いのはわかってるっつの…」
背嚢を手に取って立ち上がる。足にかけて水が伝って落ちる不気味に震えながら、青年は再び「狩り」に戻るのだった。
クロノの願いを聞き入れて間もなく。
「見張だ」と前触れもなくその村長は少女を連れてきた。
「俺はお前さんをまだ信用してないからな。お前らどちらかが役割を怠ければ村から追い出す」
彼が宣言したその日以来、観測台の案内人は一変…青年の一挙一動を監視する管理者となった。
ハンターになって欲しいと言ったのはそちらじゃないか…と憤慨もしたが、背に腹は変えられない。
異世界でのスローライフを送る暇もなく青年はあくせく働く毎日を過ごすことになる。
これが少女の小言を聞くのが定常となった経緯だった。
「お前、俺より強いんならどうして村付きにならないんだよ」
渓流での任務を終えた帰りの馬車、青年は少女に問いかける。
相変わらず目深に被った外套の下には異形の獣の素材で出来ているのであろう鎧を着込んでいることを彼は知っていた。
彼女の弓砲に使われているものと同じ、黒い外殻が特徴の装備である。
一見すれば以前いた世界の忍者装束にも似ており、俊敏な行動を可能とする柔軟性と渓流の生物に耐える防護性備えるそれは青年が着る寄せ集めの古鎧より遥かに上等なものに思えた。
その上等な防具に身を包んだ少女は外套を手繰り寄せてよそを向く。
「…」
当然、返事はない。
「…さいですか」
車輪の音だけが響く。
途切れた会話の尾を、ただその道中に残して。




