武器
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この世界の武器は重い。
青年がその事実に気がついたのは、観測台に併設された訓練場の武器を手に取った時だった。
以前よりハンターを受け入れてきたこの施設には先人が用済みとなった武器や防具が保管されている。武器種もある程度揃っており、大剣、狩猟刀、槍、弓をはじめとした中古装備が多く眠っていた。
改めて狩ゲーの世界に来てしまったことを呪いつつ、青年は一通り装備を試みる。
こういった場合まず最初にするべきことは手当たり次第試してみることであり、自分の基盤となるプレイスタイルの確立に他ならない。基礎さえできてしまえばあとは敵に応じて攻撃力を打診したり、弱点を叩く方法を模索したりすれば自ずと改善されるのがセオリーである。
武器選びのコツは特にこだわりさえなければそうした試行錯誤の中で一番自分の性格に合致しそうなものを選ぶことで…と、青年が立て掛けられた大剣に手を伸ばした瞬間だった。
「あれ…おかしいな…」
指先の感触でわかる。剣はその場に縫い付けられているかのように、微動だにしなかった。
そのときから〈使い古しの大剣 攻撃125 会心5〉は常人では扱いきれない重量だと判明する。
青年の背丈はある鉄の剣。引っ張ろうが蹴ろうが梃子だろうが動かなかった。
その後、武器選びの奮闘は続く。
狩猟刀。〈東方の鉄刀 攻撃98 会心15〉
持ち上げる、構えることはできても振り上げるのはもっての外。
槍。〈帝国制式鉄槍・古 攻撃110 会心7〉
かが○き撃ち状態。
振り回そうとすれば肩か腰が死ぬ。
弓。〈鹿撃チ 攻撃78 会心20〉
弦が鋼線のように固く、引くことを諦める。
この世界のキワモノ武器枠なのであろう「炸薬槍」と呼ばれる両端の刃に火薬を仕込んだ〈タッドポール 攻撃100 会心10〉にいたっては炸裂一度の衝撃で全身が痺れてしまった。
「重ければいいってもんじゃないんだぞ…」
二度目の大剣チャレンジで剣に押し潰され死んだ青年は死後の世界で呻いた。
「重ければ重いほど強いに決まってるじゃないですか。質量イズパワーですよ」
濡れおかきを口に運びながら女神が言う。
「仮にも武器なんだろ?人が使う前提なんだろ?どこの世界に自重で装備者の内臓潰す得物があるんだよ」
「あったじゃないですかw」
デコピンを食らって額を抑える女神の隣で青年はため息をつく。
この世界で学んだ結論…それは攻撃力と重量(反動)が比例の関係にあり、オフィスワーク六年の一般社会人の手には負えないこと…ただそれだけだった。
「ゲームではあんなに軽々とみんな振ってるのになぁ…」
「まぁ目に見えてないだけで本当は養成所を卒業したエリートですからね。便器が死因のトイレマンと比べても」
「トイレマン言うなよ」
久しぶりに口にした濡れおかきは青年にはすこししょっぱかった。
「でもですね、それは同時にあなたには他と異なる自由があると言うことなのですよ」
急須の玉露を注ぎながら女神は言う。
「そもそもセオリーがないと言うのはセオリーを作る余地があるということでもあるのです。異世界モノの醍醐味じゃないですか?現代知識無双」
「おまえなぁ、そもそも現代知識無双っていうのはそれを実現できるだけの土台をもつチート能力者に許された特権なのであって、凡人がどうこうしても結局は平凡に終わるんだぞ」
「…トイレマン」
女神はわざとらしく首を傾げた。
「あるじゃないですか、チート」
運命による死の回避。それを指して、
「確かに、あなたには少しばかり力が足りないかもしれません。でもそれ以上に」
鈴のような声で、女神は言ったのだった。
「あなたには防御がいらないんです。それをお忘れなきよう」




