得物
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タリアは村の鍛治職人だった。
釘や金具細工をはじめ、鍋、釜類といった日用品、そして勿論ハンターの武器をも扱う技量はこの村に置いておくには勿体無いと噂されるほど。
元々は帝国首都の出身らしいが…本人は自らのことを多く語らない。
持ち前の快活さと度胸を得物に、ただ己とその客、そして作品に全てをかける背は他の鍛治見習いにはもちろん、村の娘達にまで憧れを抱かせている、とは酒場の盗み聞きで得た情報だった。
「ハンターじゃないか!それに嬢ちゃんも。いらっしゃい!」
村の中央からいくらか離れた職人街へ赴くと、タリアが出迎えてくれた。
健康的な小麦色の肌とその奥に隠れた筋肉。衰えを感じさせぬ笑顔が汗と共に輝いていた。
「言伝を聞いてきてくれたんだろ?入りな、依頼の品々が待ってるよ」
工房の奥へ進むと、鍛治見習い達が鉄を打つ作業場を抜けて仕上げ台に案内される。
そこに置かれていたのは、見た目がほぼ同一の、一対の双剣だった。
「名付けてバグバイト。鉄虫の素材を使ってるよ。持ってみな」
鉄虫とは村周辺の渓流に住む、昆虫型の異形の名前だった。虫と言いつつ大きさは子犬程度もあり、その名に恥じぬ堅い甲殻を持つ。
青年は促されるまま、二振りの剣を手に取る。それと同じくして意識に直接その剣の威力が示された。
〈鉄虫双剣バグバイト 攻撃64 会心30〉
両刃を取り付けた刃が工房の薄暗がりで輝く。
質素な刀身は、遠目からでは鉄の両刃剣を二つ揃えたようにも見える。
しかし、近くで見る虹色の反射や装飾も兼ねた地の素材での補強はため息が出るほどの美しさを備えていた。
「…軽いな」思わず口元が綻んだ。
切先で弧を描く。
鋭い刃が音もなく空気を切り裂いた。重心を調整された剣身は素直かつ機敏にその操作に応えてくれている。それでいて不必要な重量も感じさせない。
「要望通り重心を調整してるよ。レシピにもある程度手を加えてる」
軽さと加工のしやすさこそ鉄虫素材の真価であり、青年がたどり着いた解答でもある。
「ありがとうタリア。最高の出来だ」
「よしとくれよ。そんなのでよければいくらでも作れるさね。あたしゃてっきりもっとすごいのをつくってくれって言われるのかと思ったよ…まぁ、へんちくりんな要望はあったっちゃあったが…」
青年は工房の隅に置かれた包みにも気が付いていた。
「…流石だな。じゃあ全部まとめて貰えるか?このまま引き取る」
「あいよ」
支度するタリアへ渡す剣にこれ以上ない満足感を覚えながら、青年は改めて思った。
狩りゲー世界は嫌いである、と。




