日常
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「おっ、あんちゃん今日も仕事かい?精が出るねぇ」
恰幅のいい男が声をかけてくる。
「ああ。依頼ついでにいくつか素材も採ってきた。買い取りをお願いしていいか?」男は村商店の若旦那だった。
「おっ、どれどれ…渓流マスに、薬草、あと発破草だね。手数料差し引いて銀貨一枚ってところかな。いいかい?」
青年は頷く。
「毎度。悪いねぇ、ホントは銀貨二枚って言いたいところなんだけど…いかんせん景気がね。代わりといっちゃなんだけど今朝いい感じの山菜が入ったんだ。ちょっと持っていってよ」
「ありがたい。また頼む」
銀貨と一掴みの山菜を受け取ると青年は村役場を出た。
依頼分の報酬と合わせて本日の稼ぎ銀貨三枚。およそ三日分の食費相当となる。
新たに設えた財布…といっても巾着に近い…に仕舞うと、そこそこの重さになった。
「これで復活一回分かな…」
死を回避する加護。
女神に提案された復活の時点を変更する取引に応じてから、青年はただ復活するだけでも対価を払う必要があった。
もし払えなければそこでゲームオーバー。女神曰く、普通であればいくら金を積もうが生き返ることはできないのだからむしろありがたいと思え、とのこと。
有限となった復活回数を少しでも増やすため、青年は日銭を稼ぐことを日課としていた。
「文字通り死ぬ気で働く、か…」
観測台への帰り道、先の丸まった山菜を振りながら歩く。
「前世と比べてどっちがマシかな…」
青年は林を抜けた先、観測台の見える丘に辿り着いた。
澄んだ空気の、よく晴れた昼下がりだった。
頼み事がある。
そうクロノに言われて青年は身を正した。
「この村付きのハンターになっちゃくれねぇか」
帝国首都の一件以来、村にハンターが不在なのは聞き及んでいた。
「問題となっていた殿猪はいなくなった。それは確かだ。だがこの先またいつ現れるとも限らない。そんな時、ハンターがいるのといないのでは皆の心持ちが違う」
殿猪は野山を荒らすだけでなく、その凶暴性から人を敵とみなして襲う。それ故に行商人も獣を恐れて村の流通が滞っていた。
「そこでだ。お前さんがいてくれれば安心材料になる」
仮でもいいからハンターの、その具体的象徴が欲しいのだとクロノは言うのであった。
小柄ながら眼光の鋭い老人だった。
断ればその刀で叩き斬られるのだろうか。流石にそんなことはないかと思いつつも、彼の発する圧は相手を緊張させる何かを含む。
答えいかんでは運命が変わる。
女神の影響を受けたつもりはないが、これもまた因果を繋げ、呼び寄せる瞬間なのだろうと青年は理解した。
「…いいぜ。引き受けよう」青年はしばし考えてから答えた。
だが、どちらにせよ答えは決まっていた。
ハンターとして世界を救う。女神から与えられていた使命はともかく、新たな約束のためにも青年に他の選択肢はなかった。
村付きのハンター。
本来は帝国からの助成金が出るはずだったが、先の一件でそれは見込めないらしい。実質村の雑事や採集依頼をこなして得る報酬で生活することになる。
だが、観測台やその設備を自由にしていい条件は十二分に魅力的だった。
晴れてその職を手にした青年はそれから日々渓流に赴き、素材や魚を採って暮らしていた。
そうして半年。
村にも馴染み始めた青年は今日も拠点となった観測台に帰り着く。
半開きの戸に手をかけ、平和なものだ…と青年は思う。
「お前さえいなければな」
その視線の先には、今まさに食卓からおかずを盗まんとする少女の姿があった。
「おか…えり…?」
「ただいま、泥棒猫」




