盟友
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「本当にいいのか?腕の立つ奴は歓迎するぜ?」
蛮族の男…やがてエイリクと名乗った彼は、別れ際青年に問うた。
「いや。折角の誘いだが、俺はそんなに強くない。どうせお荷物になっちまうさ。それに…」お前等といると命がいくらあっても足りなそうだ、と言いたくなるのを飲み込む。
「いや、なんでもない」
一瞬眉を吊り上げつつも「そうか」とエイリクは言った。
兵士たちが去った後のことだった。
「俺等は北を目指す。海を越えた先に新世界があるらしいんだ。しばらくはそこで身を隠すつもりさ。気が変わったら来いよ」
話してみれば気のいい奴だった。良すぎるくらいで、時折演技ではないかと疑ってしまうほどに。
「ああ」と青年は笑って返した。
青年は過去に職場へ来た営業と彼を重ねていた。話口調そのものは丁寧で姿勢も真摯だったが、一瞬見えてしまった手元の「望み薄。貧乏企業」のメモの内容が衝撃的なまでに記憶に残っている。
人は信用ならない。
「そういえば、これを預かったままだった」
青年は手に持った小刀を差し出した。先ほど獣から引き抜いてきたものだった。
「あぁ、これか」
エイリクは一度はそれを受け取ったものの、すぐに青年に向けて柄を差し出した。
「お前が持っているべきだ」
雲が晴れ、朝日が小刀を照らす。
多少血で汚れていたものの、角と白樺の柄に施された細工が美しい。刃も逆境に晒されながら曲がらず折れない、よく出来た逸品だった。
「これは俺の故郷伝統の小刀でな、俺の先祖なんかはこれと全く同じもの一本で衣服を作り、食料を獲り、村を拓いたという。命の次に大事だったらしい」
「…ならなおさら、貴重なものなんじゃないのか」
青年の心配をエイリクは軽く笑い飛ばした。
「いや、こんな刃じゃ戦いに使えない。それこそ捕まった時に忍ばせておくくらいしか使い道はないさ」
蛮族は手に持った剣を目の前に構える。
「いつになるかわからねえが、俺等は戻ってきてこの国を取る。俺だけじゃねぇ。帝国は数えきれない奴の故郷を滅ぼしてきた。その報いって訳じゃないが、そろそろ帝国も滅ぶ時が来たのさ。それには、この〈狩人の小刀〉は小さすぎる」
エイリクはオートゥスと一瞬視線を交換して言った。
「戦いを共にした仲だろ。記念に受け取ってくれ。これはアンタみたいなハンターに持っていて欲しいんだ」
「…わかった」
青年は差し出された小刀を握る。
刃こぼれ一つない刃が青く光った。
「さて、そろそろ行くか。追手が来ないとも限らない。おい盗人!肉は持ったか!」
「ひぃい…なんでこの俺が荷物持ちなんかに…」
獣から剥ぎ取った肉を縄で背負いながら盗人が愚痴る。
「つべこべいわねぇで運べ!ちったぁ自分の力で働いてみろ!」
その横でオートゥスは獣を丸々一匹背負うと、こちらを一目見てから歩き出した。
「それじゃあな。いつかまた会おう」
エイリクはそう言うと、オートゥスを追うようにして盗人と共に走り出す。
青年はその後ろ姿が見えなくなるまで手を振った。
彼らの旅路に幸が在らんことを。そう願いながら。
しばらくして、振っていた手が自分の額に触れた。すぐに頭へ情報が流れ込む気味の悪い感覚。
《リョウシ=ハンタ 攻撃35 会心40 防御5》
ああ、そうか。改めて絶望する。
女神の言うとおり、自分は異世界転生を果たしていた。それもよりによって狩ゲームにして死にゲーの世界に。
膝から力が抜ける。
「狩ゲーなんて大嫌いだ…」
そんな時だった。青年の後ろから声がしたのは。
「ハンター…」
はっとして振り返る。そこに立つ少女は言葉を慎重に選ぶかのように、しかして絞り出すようにして発音した。
「…仇を、討って…欲しい」




