引き取らなかったんじゃないのかよ
「おはようございます! ナナカです! よろしくお願いします!」
「……殿下? どういう事か、説明して頂いてもいいっスかね?」
セルゲイのこめかみに青筋が幻視出来そうだ。そんなに怒る事ではないと思う。
孤児達に屋台でお好み焼きを焼く練習をしてもらっている。対象は当然、年嵩の子供達だが、6歳のナナカも参加させている。
「仕方ないじゃない。ナナカは運動神経が悪いし」
他の子が慣れてなくて揃ってなかったのと、ナナカの運動神経が悪くて上手く出来てなかったのが、当初は同じ位だった。周囲が上達してきた頃、ナナカだけ悪目立ちする様になっている。
おまけに、前世が日本人だった割に、空気が読めないところがある。
「パレードに組み入れるのを止めまして、屋台をやってもらう事になりました。こちらの方がナナカさんの面倒を見てくれる相手も多くなりますから」
アンドレイが説明しようとしてくれているが、セルゲイが聞きたいのは、多分、それじゃない。
「パレード組にしても屋台組にしても、ある程度の関りはあるよ。今後も転生者は探す方針だし」
恐らく貴人牢のアホ共のせいで、セルゲイは転生者が苦手なんだと思う。なのに何故、私に仕えようと思ったのかが聞きたいのだが、ダイレクトに言うのはちょっと憚られる。セルゲイが居てくれて助かってるのは事実なのだから、不満がある様に響いてしまって、「じゃあ、辞めます」みたいな展開は望んでいない。
「……はぁ、まぁ、俺も分かってはいるんスけど」
セルゲイはため息を吐き、怒りの表情を消してくれた。分かってるけど、愚痴りたかったのね。そんな時もあるよね。うんうん、分かる分かる。
「痛っ!? ちょっと、何するのさ!?」
セルゲイにアイアンクロウを喰らった。
「今、何か腹立たしい事を考えてた気がするっス」
「ただの共感のつもりでしたけど!?」
しばし、非友好的な視線を交わし合う私達。
「あの、セルゲイ様は、転生者が苦手なんですか?」
ナナカだ。よくこのタイミングで切り込んできたな。正直、助かったけど。
「う、まぁ、そうでもな……」
「どうして、そんなに苦手なんですか?」
否定しようとしているセルゲイに被せてきたのは、アンドレイだ。意外と空気が読めない。
「貴人牢の囚人のせいでしょう」
助け舟を出しておこう。何もせずに見てたら、後のセルゲイとの関係がちょっとまずそうだ。
「え!? 何かあったん……、ああ! だから、神官様が、転生者だってあんまり言わない方がいいって仰ってたんだ……」
「そう言えば、セルゲイさんは直接のやり取りがあったんですね。でも、そこまでとは思っていませんでした。すみません。不愉快にさせてしまって」
ナナカとアンドレイが慌てている。元日本人と期待の文官候補なら、もっと前に気付いてほしかったところ。
「まぁ、これからは気を付けて。特にナナカは、セルゲイが醤油持ってても、突撃して行かない様にね。今のところ、セルゲイしか手に入れられないから」
「っ!? かしこまりました」
ナナカがセルゲイに跪き、爪先に口づける振りをする。相手を裏切らない、という意味の誓いの意味を持つ所作だ。古臭いんで、普通使われない。ナナカは、どこでそんな事を知ったのか。要らない事ばっかり詳しいヤツっているよね。
「……却って怖いんスけど」
セルゲイは、ナナカから物理的に一歩引いた。それだと、所作の意味が無くなっちゃうね。
「ナナカにはクセニアさん指揮下で、お好み焼き屋台の取りまとめ役になってもらおうと思ってるんだよ。前世が日本人なら、色々分かる事もあるだろうし、食べ物への情熱も活かせるでしょう。
だから、セルゲイは迂闊に屋台に近付かなければいいんじゃないの」
「……俺がオコノミヤキ食べたい時は、どうするんスか?」
「パレード期間中の事を言ってるの? ナナカの居ない所に行けばいいじゃない」
「パレード終わってからも、孤児達の仕事にするって言ってませんでした?」
試食の時は結構食べてたセルゲイだったけど、以降は特に何も言われて無かったから、そこまでお好み焼きを楽しみにしてるとは思わなかった。
「仕事中にお客さんに迷惑をかけたりはしませんよ!?」
若干、説得力を感じないが、ナナカの言う事は尤もだ。
「そもそも、ナナカはまだ6歳だから、屋台を任せるのはもっと後だよ。
ただ、セルゲイにとってそんなに苦になるのであれば、貴人牢の囚人は処刑にする? これから、転生者が見つかる度にそんな感じだと、仕事にも支障があるでしょう。父上にお願いしてみるよ」
「え!? そんな簡単に処刑?」
ナナカがショックを受けているので、アンドレイに説明を任せた。声量を下げて、二人で話すようにしている。
「え? そんな訳には……。というか、そこまででは無いっス」
二人の様子を見た後、セルゲイに目を向ける。
「貴人牢の設立の事を考えれば、処刑はむしろ減刑でしょ? 無実の人が気分良く働ける方が大事だよ。セルゲイには、自身のストレスがどうしたら減るのかもっと考えて、教えてもらいたい」
「すとれす?」
そこからか。あれ、セルゲイの知らない言葉だったっけ? とりあえず説明をしてから、話を続ける。
「ストレスもある程度はあった方がいいんだけど、セルゲイの場合、常に過剰だと思うんだよね。だから、軽減する方向で考えてほしい」
『前世の知識』で、ストレスが必要な物だとは分かっている。でも、この世界、命の危険が前世よりも高い分ストレスフルなんで、ストレス源からは距離を取った方がいい。
「……分かりました」
セルゲイにこういう事を言う度に、一拍あるのはなんでなのかね。
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