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引き取らなかった

書き溜まったら、不定期投稿していきます。

少しずつ書いてたら、いつもより長くなってしまった。


「大丈夫っスか? そんなに魔力は使ってないと思うんスけど」

 ぐったりした私にセルゲイが声をかけてくる。


 貴人牢で、治癒魔術の訓練を終えたところである。

 ほぼ毎回思っているが、サド、セルゲイは真正のサドだと思う。


「あっ、アレクサンドラ殿下。少々お待ちいただけますか? ちょっとトラブルがありまして」

 建物の外に出たところで、衛兵が少し慌てた声を出す。


「何があったん……、ああ、あれか。

 殿下、ちょっとここで待ってて下さいっス」

 セルゲイは、抱きかかえていた私を、先程の衛兵の足元に立たせると、足早に現場へ向かった。


「誰か倒れてる?」

 数人の衛兵が人垣となっていたが、セルゲイが近付いて行った時に隙間が出来て、少しだけ見えた。


「子供です。

 殿下より少し大きい位の子供が、正門の方から走って来たと思ったら転んで、それっきり起き上がらないのです」

 ほぼ独り言だった疑問に、衛兵が答えてくれた。


「何処の子かとか、分かってるの?」

 今度は振り返って聞いてみる。


「いいえ、全く。

 服装は神殿関係者の様に見えますが、つい先程、突然でしたので、まだ何も分かっておりません」


「ふーん、そっか」

 どうやら私達が来たタイミングが絶妙だった様だ。そりゃあ、慌てるよね。


 衛兵と話をしていると、セルゲイが戻って来た。

「殿下、ちょうどいいんで、こっちへ」

 抱き上げられて運ばれるから、基本的に拒否権は無い。


 現場に着くと、取り囲んでいた衛兵が場を譲り、半数ほどはそのまま持ち場に戻って行く。


 ……この子、先日の転生者の子だな。確か、ナナカって名だったはず。結局、本人の希望に拘わらず、幼い事と、言動に心配な点があると言う事で、まだ神殿預かりのままのはずだ。何故、こんな所で、頭から血を流して倒れているのか。


「殿下。さ、早く治してやって下さいっス」

 一見すると気遣っている様にも思えるが、本当に心配しているなら、セルゲイ自身が治癒した方が早くて確実だ。幼い子供が怪我をしているのを見て困惑した様子の護衛達と比べて、冷ややかな感じがする。


「アナライズ……、ヒール」

 骨折などの大きな怪我は無い。頭皮を切ったため出血が多くて派手に見えているが、まぁ軽傷だ。

 頭を打った事による脳震盪などの影響の方が心配である。

 皮膚の傷を浄化してから塞ぎ、脳の方も衝撃を緩和する様なイメージでケアを行う。……さっき何度もやってたから、スムーズだ。練習材料を準備する光景が衝撃的で、PTSDを患いそうだったけど。

 

「アナライズ……、大丈夫そうっスね。

 事情、聞いときますんで、殿下は戻ってて下さい」

 

「ハイ」

 機嫌の悪いセルゲイって意外とレアだな。もちろん、見たいものじゃなかった。



 部屋に戻って時間を潰す事しばし。因みに、時間があれば語学の勉強や、曾祖父様達の手記を読んだりしている。


「殿下、戻りましたっス」

 セルゲイの目がいつもより細くなってる気がする。


「お帰り……、そちらの方は?」

 いつもの声掛けだったから油断していたが、聖職者っぽい格好の中年男性を連れている。ていうか、誰か連れてきたなら、言ってよ。


「五柱の大神に仕え、王都の孤児院の責任者をしている者でございます。

 アレクサンドラ王女殿下、大変申し訳ございませんでした。

 ナナカを助けて頂き、ありがとうございました」

 男性が深く頭を下げる。神殿の孤児院関係者だったのか。


「大変申し訳ございませんでした。味噌と醬油の追加をお願いします」

 何のために来たのかと問う間もなく、男性の後ろからすり抜けてきたナナカが、スライディング土下座をきめてきた。


「うあっ……、びっくりした。

 ……何があったか、聞いても?」


 セルゲイ達にパレードの練習での事を確認してもらってあったのだが、ナナカは運動神経が悪い方の子だった。周りの子達が、行進というものに慣れていなくて上手く出来ていないのに対して、ナナカは運動能力が不足していてぎこちなかった。差し引き同程度だったので、目立っていなかったのだ。


 そういう報告が頭にあったせいもあって、今の俊敏なスライディング土下座は、結構びっくりした。セルゲイ達が目を丸くしているのは、土下座の習慣がこっちに無いからだと思うが。

 

 孤児院の責任者を名乗った男性は、セルゲイに許可を取りつつも、素早く床のナナカを抱き寄せた。さりげなく彼女の口を塞いだまま、私の質問に答える。


「申し訳ございません。

 先日は珍しい調味料を下賜して頂き、ありがとうございました。

 皆で美味しく頂きまして、本日は、お礼に上がった次第でございます。

 ナナカがどうしてもと言うので、同行を許しましたが、アレクサンドラ王女殿下にお会いしたかった様で、逸れさせてしまいました。

 ご迷惑をお掛けした事、心よりお詫び申し上げます」


 ……なんか、察し。

 引き取ってはこれなかったものの、釣り餌に使った味噌と醬油は、ちょっと分けてあげておいたのだ。

 それを、どうやら使い切ってしまったものと思われる。今日は追加のおねだりに来たのだろう。そして、どうやったのか私の居場所を突き止めてやって来て転んだ、と。


「構いませんので、気にしないで下さい。

 もしかして、興味のある事になると突然、行動力を発揮するタイプですか?」

 後半はナナカの顔を見つめつつ、聞いてみる。


「! 良くお分かりになりましたね。そうなのです」

 ナナカを抱えた男性が答える。なんか、過去に色々あったっぽい感じする。


「あぁ、殿下もそういうところ、あるっスよね」

 セルゲイは一言余計。


「引き取りを断られた理由は、それですかのう?」

 これまで黙って控えていてくれたサンタウロフさんが、尋ねる。返事は聞くまでもなく、そうなんでしょうね、という感じだが、確認だね。


「左様でございます。ご迷惑をお掛けしてはなりませんので、せめてもう少し落ち着いてくれるまでは、と」


「……そんな日は永遠に来ないと思うので、成人を近付いた頃、もしくは手に負えないと思われた時に、こちらに寄越してもらえますか?」


「そ、そんな……」という男性の反応と、「え?」というアンドレイの呟きが重なる。

 ナナカには前世のアドバンテージがあるはずだから、逆に精神的な成熟は、もう期待できないじゃない?

 セルゲイとサンタウロフさんは分かってるみたいで、頷いている。


「ナナカ殿は、やはりこちらで面倒見ますかのう?」


「え……い、いえ! まだ幼いですし、この子はこちらで世話します」


「分かりました。

 時々様子を見させてもらうし、将来の進路はまた考えてもらいますけど、基本は神殿で預かってもらいます」


 サンタウロフさんと神殿の人の間で、火花が飛びそうだったので、止めておいた。

 多分、あの男性にとってナナカは「駄目な子ほど可愛い」的な感じなんじゃないかなと思う。

 もう少し育つまでは、神殿に居てもらって良いんじゃないかな。

 ぶっちゃけちょっと面倒くさい。


「アレクサンドラ殿下が、そうおっしゃるならば、儂に否やはございませんのう」


「っ! ~~!」

 サンタウロフさんも引いて、落着になりそうな気配を感じ取ったナナカが、暴れ出そうとしている。


「味噌と醬油は、定期的にナナカにあげることにするので、貴方が管理してもらえますか?

 セルゲイ、手配を頼むね」


 前半を言ったところで、ナナカがピタッと大人しくなった。


「輸入品なんで、それなりにするんスけど、そんなに重要っスか?」

 現金なナナカを横目で見つつ、セルゲイが聞いてくる。


 このセルゲイの態度のせいで、神殿の人に対する必要な敬意の度合いが、いまいち分からなくて地味に困ってる。王都の孤児院を任されてるなら、それなりに偉いんじゃないのか。

 

「……味噌と醬油には、中毒性があるんだよ」

「「「「え?」」」」


『前世の知識』の中に、前世の私が本で読んだ内容として引き出せるものがある。

 その中に、外国に行く事自体がまだ気楽に出来なかった時代、日本人留学生が患う、医師の診察を受ける程に重篤なホームシックが、醬油を少し舐めるだけで劇的に改善した、という記述がある。

 何読んでんだ前世の私ってのもあるが、醤油で改善されるなら、それはホームシックではなく中毒状態では? という話である。


 もちろん、味噌や醬油の中毒性もしくは依存症について、正式な研究結果があるとかではない。味噌汁など、むしろ飲んでた方が健康に良いのだ。麻薬などと違って、身体に害を及ぼさない。

 しかし、日本人として生きてきて、突然、味噌と醬油の全く無い生活に切り替えられるか? 無いと耐えられないなら、それもある種の中毒なんじゃないか、と私は思っている。


「味噌と醬油を定期的に味わっておかないと、精神的に辛くなるってだけで、別に害は無いんだけどね」


「……そうですかのう?」

「アレクサンドラ様、それは、ちょっと……」

「入手できない可能性がある以上、結構デメリットが高いっス」

「ナナカ以外の者には、食べさせない様にする事に致します」

 サンタウロフさん、アンドレイ、セルゲイのダメ押しに加えて、神殿の人にまで言われた。


「そ、そう? そうかもしれないね」

 余計な事を言ってしまっただろうか。

 輸入しやすくなる様な対策、早目に取り掛かろうかな。

 



読んで下さってありがとうございます。


ホームシックの話は、私が実際に読んだ記憶からとっています。

医師が書いた読み物系の本だったと思うのですが、記憶が古くて、書籍名などが思い出せません。しかも、読んだ時点で古い本でしたし。

本文にもありますが、中毒とか依存症の話ではないです。

日本人のホームシックが醬油を少し舐めるだけで治るよってだけ。

海外に行くのも帰るのも大変だし、味噌や醬油を送ってもらう事も簡単には出来ない、そんな時代の話の様です。

普通のホームシックは比較的初期に患うのに、醬油で治るのは、もっと期間を置いてからの事、とかも書いてあった気がします。

なんか、へぇって思ったので、その部分だけ記憶に残ってました。

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