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付き合いの悪いセルゲイ


「殿下、今日の魔術訓練スけど、戦闘訓練に変えていいっスか?」

 朝、意気揚々とやって来たセルゲイが、こんな事を言い出した。


「意見を取り入れてくれる気があるなら、嫌だけど」

 普段も戦闘訓練だけど何が違うのか。嫌な予感しかしない。ところで、「嫌だ」と返しておいてなんだが「~でいい?」という言い方って、そもそも拒否可能なもんなのかね。


「昨日の一件で、俺も色々考えたんス。

 で、殿下に武器の取り扱いを教える事にしました」


「何かが省略され過ぎてて、全然意味が分からない」

 ぶっちゃけ「昨日の一件」もピンとこないのに、文と文の間に驚くほどの隔絶がある。今日のセルゲイはどうしたんだろうか。


「アレクサンドラ殿下の為人を知るため、ですのう」

 サンタウロフさんには、分かったみたいだ。納得してないで解説プリーズ。


「時間勿体ないんで、移動しましょう」

 問答無用で私を抱え上げて、移動を開始するセルゲイ。

 こんな時だけ、物理的に4歳児扱いな私。

 というか「嫌だ」と言ったのは無視ですか、そうですか。


 そして、サンタウロフさんとアンドレイはついて来ないのね。



 移動した先は、いつもの外の訓練場ではなく小さな体育館みたいな所だった。剣道や柔道の道場みたいと言った方が近いだろうか。裸足ではないのが違和感がある。

 こんな所もあったんだ。城が広くて、把握出来てない所がまだまだありそう。


「訓練にはこれを使って下さい。重たいとか持ちにくいとか、気になる事は言ってくれていいっス」

 セルゲイが、幼児でも持てる小さくて軽い短刀を渡してくれた。


 しかし、疑問がある。

「はい! セルゲイ先生、質問です!

 何故、私は、両手に短剣を持たされてるんですか?」


「……え? 突然、どうしたんスか? 殿下」


「……そこは、子供のごっこ遊びに付き合ってくれるところじゃない?」

 真顔になるの、止めて欲しかった。


「あぁ、そういう……、分かりました。

 ……で、何でしたっけ?」


「私、なんで両手に武器持たされてるの?」

 セルゲイが両利きだからって、私まで巻き込まれるのはおかしいと思うのだ。


「? 殿下が両利きだからっスけど」


「……右利きだけど」


「「「え?」」」

「え?」

 セルゲイのみならず、護衛達からも疑問の声が返る。なんでよ。字を書くとか、食事とか、右手でしかやってない事だらけじゃない。


「……卵を割る時とか、両手でやってたっスよね?」

「デンタークは左手で扱っておられましたよ」

「書類仕事でも、器用に両手を使っていらっしゃいました」


「……卵はともかく、他は普通では?」


 私の返答が気に入らなかったのか、セルゲイと護衛達は、腑に落ちなさそうな表情で、互いに顔を見合わている。

 

「……分かりました。殿下は右利きって事でいいっス。

 でも、訓練は両手でやりましょう」

 ややあって、何とも言えない表情のセルゲイがこんな事を言いつつ、道具の準備に向かおうとする。


「いやいや、流さないでよ。

 右利きが両手使うのに、注意点とかメリットとか、説明無いの?」

 大体、「右利きって事()()()」て、何だ。


「……そうっスね。

 両利きのメリットとしては、当然、手数が増やせます。一撃の攻撃力が低くても、数で補えるって事っスよね。

 殿下はまだ子供ってだけじゃなく、将来的にもパワータイプより器用さを売りにした方が良いタイプだと見ました。

 基本、母親似だと思うんスよね。王妃様は、ゴリゴリのパワータイプっスけど、体格に恵まれた方では無いですよね。つまり、身体強化でやってる訳っス。


 殿下の場合、転生者っスから、魔力は身体強化に振り分けるよりも、『前世の知識』のために取っておいた方がいいでしょう。

 あんまり器用ではなかったら、選択肢は無かったんでしょうけど、前世の上乗せ分のせいなのか、殿下はかなり器用な方っス。まだ子供で、伸びしろが大きい今から鍛えておくといいっス。


 そもそも王族が必要とされる戦いで、武器による直接攻撃なんて、求められてないんス。もっと広範囲、高威力の効果が期待されてるんで。王妃様の長剣は、直接の武器というよりも、そのためのトリガーっスよ。


 という訳で、この戦闘訓練は殿下の器用さを伸ばすためであり、俺らが殿下の為人を知るためのコミュニケーションの場っス」


 準備をしつつ、いつも通りの低コストな雰囲気で語りだしたセルゲイだが、最後は私にちゃんと向き直った。


「お、思ったより真面目な話だった」

 コミュニケーション方法は他にもあると思うのだが、セルゲイが考えてた事は、とりあえず分かった。


「納得してくれたんなら、始めましょう」


「どうするの?」


「先ず、短剣を持ちやすい様に構えて下さい。

 順手でも逆手でもどっちでもいいっス」


「ふむ」

 何となくで順手で持っていた短剣をひっくり返し、逆手に持ってみる。先ず、右、次に左。両手とも逆手になったところで動かしてみる。やって出来ない事は無さそうな気もする。もう一度、順手に戻す。しっくりくる。


「こっちでやってみる」


「……先ず、それが出来る時点で、器用とか両利きとか言われるって自覚有ります?」


「?」

 首を傾げたら、護衛達から「え?」とか「ウソでしょ」とか「そこから?」とかの声が上がる。この世界、「不敬」って無いのか。


「順手から逆手、逆手から順手に替える動作、片手だけで出来てますよね?

 しかも、利き手じゃないはずの左でも出来てるんスよ?」


「……ちょっと器用かも?」

 そう言えば、卵の時は片手で割れるとか左でも出来るとかは、器用だと思った。

 でも、持ち替える位は出来る様な気がする。手の中で回すようにして持ち替えるだけだ。


「……じゃあ、始めましょうか。

 このボールを投げてくんで、短剣使って攻撃して下さい。

 ちょっと触っただけでも弾ける様になってるっス」


 セルゲイの話す内容は問題無いが、口を開く前にため息を吐いたのは何なのか?


「行きますよ」


 トスを上げる様に放り投げられるボールを短剣で攻撃していく。魔法的な何かなのか、弾けた後に何も残らない。軽く当てただけで無くなっていくボールが面白くてどんどん捌いていく。最初は私の届きやすい辺りに投げられていたボールが、徐々に離れた場所や、左右どちらを使うか迷う様な所に飛んで来る。


「はぁふぅ」

 夢中になっていたら、準備してあったボールが尽きた頃には、ちょっと息切れしていた。


「今、投げたボールが全部で100個、右手で処理したのが50、左も50スね」

 

「それは、だって、そうなる様に調整したからじゃない?」

 最後の何球かは、左にしか飛んでこなかった。


「それでも、出来るヤツと出来ないヤツは居るっス。しかもノーミスでしたし。

 殿下は、他人が出来ない事を責めた事は無いっスけど、自分が出来る事にも無頓着かもしれないっスね」


 こうして、本日の戦闘訓練は、私がメタ認知出来ない子呼ばわりされて終わったのだった。




読んで下さってありがとうございます。


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