どっちが悪役?
一か所目到着。
外からは、周囲の建物と同様のちょっと豪華な家にしか見えない。
前世で石造りの建物など身近ではなかったから、あくまで今世基準だが。
この世界は木材が希少な事もあり、土属性魔術や魔法で出来た石の建物が一般的だ。
魔道車から降りるにあたって、クセニアさんに抱き上げられた。
本日は、クセニアさんに一日抱っこされて移動する予定になっている。
セルゲイと違って抱かれ心地が良いので、この方が良いと言ったら、不満顔のセルゲイに
「殿下を止められる人間を手配する必要があるんスよ」
と言われた。解せない。
では何故、今日はクセニアさんに抱かれているのかというと、
「姫様のお歳では、乳母に付き添われているのが普通ですから」
苦笑するクセニアさんに言われたセリフだ。
普段の私が如何に子ども扱いされていないかが再確認される。
ちゃんと子供の振りが出来なくても当然な気がしてきた。
「こ、これは、王女殿下!?
何故、この様な所へ!?」
馬車から降りた私達を見て、孤児院の人が出て来た。
動揺してるのが、魔道車のせいなんじゃないかという気がして振り返ってしまう。
「言っておきますけど、殿下の髪の色のせいっスからね」
こそっと耳打ちして、孤児院から出て来た人達にセルゲイが向かう。
「下達があっただろう。
国王陛下の御命令により、アレクサンドラ第三王女殿下のパレードが終わるまでは、王都の孤児院の子供は王家預かりとする」
……やべぇ。真面目なセルゲイに吹き出しそう。あれだ。葬式とか、笑っちゃいけないって思うと、面白い事なんか何も無いのに、何故かこみ上げてきちゃうヤツ。
手で顔を隠して耐える。今日一日、大丈夫かな、私。
「も、勿論、存じ上げています。
子供達は、間違いなくお届けするつもりでございますので、今日のところはお引き取りを……」
「それには及ばない。
こうして王女殿下自らが御足労下さっているのだ。
孤児達は、このまま引き取って行こう。
邪魔をするぞ」
一番ヤバい所から始める、と聞いていたので、あのオジサンは問題のある人のはずだ。
実際、言動も何かを隠そうとしている様な怪しさがある。
しかし、セルゲイの絵面は善良な下級貴族の家に押し入る悪役みたいになっている。
孤児院の人の見た目も、やや痩せの体型、華美という程でもない服装、顔立ちも含めて、普通のオジサンだし。
黒塗りの鞘に収まった長剣をわざわざ手に持ったのは、威圧感を高める演出なのか。
建物の扉が立派で、蹴り開けるのに無理があるのが残念な位だ。
「では、姫様、わたくし達も行きましょう」
「はい」
返事なんかしたって、クセニアさんに抱っこされてる以上、選択肢なんか無いけどね。
中も普通と言っていいと思う。
尤も、今世で王城に住んでいた経験と前世の日本の住宅事情しか知らない私が言っているので、あまり説得力は無い。
王城の使用人が居る辺りの様子を大きく離れてないと思う、位だ。
先ず、食堂として使っているという部屋に子供を集めてもらった。
「男の子しか居ないね?」
「いえいえ、こちらに女の子もおります」
これは酷い。
男女の生まれる比率は、前世と同じで大体1:1だ。
前世では女の子の方が5%位少なかったと思うが、今世では生存率も低いし、出生率1桁%のデータなど無い。
大体、同じ位生まれてくるし、生存もどちらかに偏ったりしていないと思われている。
故に、人口の男女比も概ね1:1。
なのに、この孤児院の院長を名乗った男性が示した子供達は、31人中5人しか女の子が居ない。
おまけに、数少ない女の子は、2人が赤ちゃんと言っていい位の幼子で、残りの3人は顔に傷がある。
しかも、その3人は他の子よりも明らかに痩せている。
「そっちの3人、顔を怪我しているね。
治してあげるよ。
クセニア、降ろして。
そっちの子から順にこっち来て。
セルゲイはそっちに控えてて」
「え? あ、あの」
孤児院のオジサンは狼狽えているが、セルゲイとクセニアさんは直ぐに指示に従ってくれた。
「アナライズ」
皮一枚分の魔術とはいえ、顔だと普通はもっと抵抗されて効果が得られないんだけど、子供で抵抗力が弱いのか、ちゃんと解析出来た。
「ヒール。
……よし、次。
アナライズ、……ヒール。次
アナライズ、……ヒール、……方法変えて、ヒール、……よし」
腹が立ったので、3人とも無理やり治癒してやったぜ。
3人目はちょっと難しかったが、ちゃんと綺麗な肌になった。
「! あ、あ、ありがとうございます。
では、子供達は後ほど送り届けますので……」
女の子達は、自分の顔が見えないせいかまごついているだけだが、院長は動揺している。
にも拘らず、まだ隠そうとするとは筋金入り。
「そういうのいいから。
隠してる女の子、出して」
「な、何を仰いますか。
子供はこれで全てです」
「そういうの、もういいから。
セルゲイ、お願い」
「……かしこまりました」
「姫様、こちらへ」
こちらへとは言われたが、問答無用でクセニアさんに抱き上げられた。
セルゲイの後を追ってくれたので、文句は無いが。
その後、セルゲイが騎士に指示し、クローゼットから9人の少女が発見された。
「全員、命に別状ありません。
多少痩せていますし、若干の衰弱が見られますが、恐らく健康も大きな問題は無さそうです」
城から一緒に来ていた女性騎士が報告してくれる。
普段は、母の護衛を主にやってくれているそうだ。
見つかった子供に問題無いのは良いとして、
「もう1人か2人、居てもおかしくないよね」
隠し場所を分散させるのは鉄則だよね。
「……この娘で最後、だと思われます」
どこか呆れた顔のセルゲイが、1人の少女を連れてやって来た。
クローゼットの方を人に任せて探ってくれていた様だ。流石。
連れている少女は、十代半ば位。整った顔立ちをしている。
最も商品価値が高いとして、念入りに隠されてたって感じかな。
「セルゲイが大丈夫だって言うなら、安心だね。
子供達を連れて引き上げよう」
「かしこまりました」
子供達を連れて、とは言ったが、別の魔道車に分乗してもらって、孤児を集める場所に騎士と共に向かってもらう。
早く休んでもらいたいし、私達はまた次の所へ行かなくてならないからだ。
魔道車は貴重なので、子供を降ろしたら引き返してもらう。
次へ向かう車中は運転席が別になっているので、セルゲイとクセニアさんと私の3人だけだ。
「一番酷いって聞いて心配したけど、孤児の健康状態がそんなに悪くなくて良かった」
心配した3人も治療が必要な程ではないらしい。食べて休んでくれれば回復できるそうだ。
「……酷いのは、人身売買っスから」
「商品価値があるから、売る前の状態が悪くないってことか。皮肉だね」
「まぁ、そうっスね。
ところで、殿下、自重って言葉、知ってます?」
「……言葉だけなら」
子供の振りを、すっかり忘れてたよね。
「殿下が治した3人目、怪我じゃなくて痣だったって、分かってます?」
「怪我じゃなくて痣?」
「生まれつきの痣は治せない事も多いと言われておりまして、恐らくあの娘の痣はその類でございましたよ」
それまで黙っていたクセニアさんが、おずおずと切り出してきた。
「! 道理で手強いと思った」
普通に皮膚を再生するイメージじゃ治らなかったから、別の箇所の皮膚を育てて移植するイメージでやったら成功した。魔力量は、他の子の3倍はかかったんじゃないかな。
もしかして、やっちまったか、私。
「……まぁ、もういいっス。
次は、殿下に『気配察知』もやってもらいますかね?」
「ごめん」
何故、私は謝ってるのか。
この後2か所回って、「気配察知」も習得出来たとだけ言っておこう。
読んで下さってありがとうございます。




