移動は魔道車?
「アレクサンドラ殿下、やっと孤児院の手配が済みましたじゃ。
時間がかかってしまって申し訳ありませんのう。
回る場所が多いので、手分けしたいのですが、良いですかのう?」
目にハレーションでも引き起こしそうな、鮮やかな赤髪のサンタウロフさんのお出ましです。
ここ数日は、孤児院の手配の為という事で姿を見かけなかっただけに、慣れる間の無かった目への刺激が強い。
……白い服着用禁止令でも出そうか、迷う今日この頃。
「うん、もちろん」
何と言うか、一も二も無いよね。
「僕も祖父と頑張ります」
アンドレイだ。
言葉遣いの丁寧さは、一段階下げてもらった。
若干目が慣れてきたのか、サンタウロフさんの孫を見る優しい瞳に、ほっこりする。
「うん、よろしく」
「いざとなったら、身を挺しても仕える方をお守りするのも、文官の仕事じゃよ」
「分かりました」
「それは、絶対止めて」
先程の和やかな気持ちを返して欲しい。
「間違ってないっスけど」
身を挺するのは俺達の仕事だから大丈夫っス、という何の慰めにならない言葉と共に、準備の最終手配に行こうとするセルゲイ。
「……バリヤーみたいな魔術とか魔法って無いの?」
「魔法だとありますけど、そんなに便利じゃないっスね。
庇った俺らを殿下が治してくれるのが、一番じゃないスか?」
部屋を出ていくセルゲイを見送る。
……やりたい事、一つ追加かなぁ。
「では、儂らはもう出発させてもらいますじゃ。
殿下は、セルゲイ殿と出かけて下され」
「行って参ります、アレクサンドラ様」
「はい、行ってらっしゃい」
先日、話し合った割にセルゲイの勤務状況は、正直あまり変わっていない。
「どうしたもんかな」
「……お待たせしました。
王妃様に声をお掛けして、クセニアさんに来てもらう事になったっス。
……何渋い顔してんスか?」
「セルゲイが休まないなって思って」
「今は殿下付きの仕事しか入れてないんで、殿下次第っス」
「じゃあ、もっと休めるよね?」
「殿下の就寝時と座学の間しか休んでない理由を、察して頂きたいっスね」
「じゃあ、休めるよね?」
「……」
「……」
「そろそろ出かけませんか?」
……本日の護衛も精神力の強いオルガさんです。
今回、移動は魔導車である。
「魔導車ってあんまり使われてないよね?」
初めてちゃんと見る魔導車を前に、ちょっと顔が引き攣っていると思う。
魔導車は、以前使った魔導鉄道の車窓から上の方がチラ見えしただけで、全体をちゃんと見るのは今回が初めてだ。
「グレゴリー様がコウツウ事故を心配されて、許可があまり下りないようになっているっス」
「……気持ち悪いからじゃなくて?」
「?」
魔導鉄道の見た目が、前世と大きく違わなかったから、油断していた。
「車になんで足が生えてるの? 車輪は?」
車と言ってるのに車輪が無いのは?という疑問は、翻訳上仕方ないものだとして、見た目が受け入れられない。
クラシカルな馬車のようなデザインなのに、車体下部前後に人間の素足みたいな足が一対ずつあるのは、なかなかにシュール。足先だけならまだしも、太もも位まであるからね。服無しで。
「足と違って車輪だと不便じゃないスか」
道中での話で、鉄道と異なり魔導車は人工ゴーレムの技術で出来ていると聞く。
車輪じゃなくて足型なのは、ブレーキや悪路対策だと聞く。
スピード重視の魔導車だと、シカや馬のような足の形だったりするらしい。
鉄道と違って運べるものの量は少なくても、道の整備が最小で済むので、車は生物の足などを模倣しているのが普通。
人間の足はなんと乗り心地重視らしい。ホントか、もっと良い形ないのか?
「グレゴリー様は、車両の安全性が高くないのにスピードが出るから危険、とおっしゃってたらしいっス」
車体に前世程の技術が無いのに、魔力のせいでスピードは前世の車よりも出るらしいので、心配も尤もな気がする。
「姫様、本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」
出かける直前になってしまったが、元乳母さんと合流する。
今日は、乳母が居た方が良いのだそうだ。
母の近くで週一位では会っているので、久しぶりではない。
魔道車に乗ってしまえば外観は見えないので、足は忘れる事にして孤児院へ向かう。
「今日、セルゲイの格好が違うのって何でなの?」
セルゲイの普段の格好は、黒地の服の上に黒い革製の防具。左右の太ももに2本ずつの短剣。
顔は覆っていないが、ゲームのアサシンやシーフのイメージが近い。
ラフな髪型といい、護衛騎士の防具が金属製であるのからすると、比較的軽めの格好だ。
なのに、今日は黒い軍服っぽい格好に、髪も後ろに撫でつける様に整えてある。
武器も長剣を左に下げているだけだ。
頬を染めたメイドさんにチラ見されたり、部屋からの移動の際に振り返られたり、大変鬱陶s……私から話題を振る必要を感じなかった。
「……やっとっスか?
やっぱ人に興味無いのかと思ってたっス」
「気付かない訳無いじゃん?
そのうち説明されると思ってたら、ここまで来ちゃっただけ。
それ、戦闘力とか防御力とか落ちてない? 大丈夫なの?」
「……今日は戦闘力よりも政治的な威圧とかが必要なんスよ。
尤も、一番大事なのは、殿下の演技力っスけど」
「は?」
「サンタウロフ様達が向かったのは、比較的問題の少ない場所っス。
今回をきっかけに、孤児院業務を王家や神殿に移管する事で話がついてる所っスね。
殿下に向かってもらうのは、孤児を売り払う事で成り立ってる悪質な所っス。
王位継承権第三位の王女を使ってまでの肝煎事業、というアピールが必要なんスよ」
「……私の身分が必要なのはいいとして、演技力が必要とは?」
そんな悪質な所に4歳児向かわせるな、というツッコミは飲み込んで、水戸黄門の印籠の如き役割は受け入れる。
「色々隠そうとするでしょうから、怪しい箇所を見るために、殿下に純真な子供の好奇心を発揮して頂きたいっス」
「それは荷が重いな。
純真な子供だった頃の記憶なんか残ってないよ」
「……俺が指示しますんで、出来るだけ棒読みにならない様に『○○が見たい』とか言って下さい」
「それ位なら、大丈夫かな? 分かった」
「……」
「王妃様から、お二人の仲が良さそうとはお聞きしていましたが……、この様な感じなのですね」
……どんな感じ?
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