睡眠負債
まだボチボチと書いていきます。
よろしくお願いします。
ランタン達による魔力切れから回復しました。
意識を失った時間は、30分も無かった。
回復に、王蜂の蜜を使われたらしく、口の中がめっちゃ甘い。
反省したらしいランタン達が、起きたらしょんぼりしていた。
医師の診察を受けてOKをもらったので、大丈夫だよと言ったら、ちょっと持ち直したが、いつもより距離が離れている。
可哀想だが、構わなくて良くなったなら、ちょっと時間を使いたい。
「セルゲイ。もう少し、休んだら?」
ちゃんと話をしたかったから、応接スペースでセルゲイと向かい合っている。
「殿下が言っても、全く説得力を感じないスけど。
突然、どうしたんスか?」
「この間、セルゲイが言ったじゃない。
私が周りに無関心過ぎるって。
ちょっと反省しようかな、と思って」
「……それと俺の休みが繋がるんスか?」
「私付の仕事だけでも、キャパオーバーだと思うんだよね。
なのに時々、夜も別の仕事してるみたいじゃない」
先日みたいに午前中休んでくれるなら、まだ良いのだが、眠そうなまま働いている事が結構ある。
「……」
顔だけ笑みを深くして、沈黙するセルゲイ。
目だけは全く笑っていない。
警戒されてる。
「何をしてるかは聞かないよ。
でも、私の前世には『睡眠負債』って考えがあってさ……」
睡眠が足りない事による、注意力低下と発病リスクの上昇について説明する。
「……」
セルゲイは微動だにしない。
実は、睡眠不足のリスク認識は、日本よりもこちらの世界の方が上だ。
休みなしでキリキリ働かされてる私も、睡眠時間はキッチリしている。1日の時間が前世と違うので、一律に前世と比べられないが、大人用ではなく、幼児に必要な睡眠時間を取るようにされている。
護衛やメイド、洗濯係や下働きの人達は、交代制で残業は基本的に無いし、勤務時間の変更のための休みなどもある。
王妃である母も、最も期待されている仕事が脅威度の高い魔獣討伐であるせいか、仕事に支障がある睡眠不足などあり得ない。理由が何かおかしいとは思うが。
休みは少ないが、睡眠負債が発生しない様な配慮が、当たり前に優先された世界だ。
平日の睡眠負債を土日に返済する人が多数派な日本とは、根本の考えが違う。
なのにセルゲイの働き方だけが、社畜っぽい。
「夜の仕事が外せないのであれば、他に任せる人員を育てるとか、昼を誰かに代わるとか、そろそろ考えるべきじゃない?
30過ぎたら、結構ガクッと来るよ。
セルゲイ、後3年もしたらそれ位の歳になるでしょう?」
「……何で、俺の歳が分かったんスか?」
細くなっていたセルゲイの目が、一気に丸くなる。
そんなに驚く事かね。
「見てれば分かるよ」
顔立ちが日本人ぽいから、という理由もあるが、周りの人間を見ていれば気付かないのがおかしい。
若い相手を身分故に敬っているという様子じゃなくて、実績がある人物を信頼している態度だ。
「……周りに無関心過ぎると言ったのは、謝りますよ」
「そこは事実だから、別にいいよ。
ちゃんと寝て欲しいだけ。
ちょっと計算してみない?」
私の人間の見方は、前世でもちょっと独特だった様なのだ。
だから、周りに無関心なのは、その通り。
「計算?」
「睡眠負債は、足りなかった睡眠時間と同じっていう考え方があった。
こっちの世界では、前世にもまして睡眠が重要だと認識されてるから、同じ考えで良いと思う。
1日分、夜全く眠らなかったとして、その翌日に落ちるパフォーマンスは、どれ位だと思う?
生じた睡眠負債は、最短、いつ解消する?
落ちたパフォーマンス比率と、解消されるまでの日数から、1夜眠らなかったために損失した仕事量が計算できるでしょう。
1夜眠らずに行った仕事の成果は、少なくとも、この計算結果を上回らないと、コストに見合わない事になる。
どう?」
「……仮に半分、いや2割減の、4日かかるとして、どういう計算になるんスか?」
「単純計算だと、1日分の8割に当たる仕事量だよね。
半分だと、丸2日になっちゃう。
それに、健康被害も色々って……ちょっと!」
セルゲイに手で口を塞がれた。
「言いたい事は分かったっス。
……そこまで言うなら、断るのに殿下の名を使っていいんスね?」
「え? 当たり前じゃん?」
寧ろ、そんな事で良かったのか?
「じゃあ、そうします」
セルゲイは、話は終わり、とばかりに立ち上がる。
「……父上とか、母上にも頼んだ方が良い?」
セルゲイは、え? という反応の後、フッと笑うと、
「殿下の名の方が効果があるんで、要らないっス」
と言った。
どういう事だろう?
「ま、いっか。
私もお休みの日っぽい事しよう」
「……一番、不安なセリフなんスけど」
『前世の知識』から、やってみたい事をピックアップしてるのの、何がそんなに不安なのかね?
読んで下さってありがとうございます。




