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ランタンツリー

 

「「「らんた~ん」」」


「ハイハイ。本日は、どんな映像がお好みですか?」

 顔面の邪魔な所に貼り付いたランタン1匹をそっと外しつつ、聞いてみる。

 ランタン達は、『前世の知識』の映像記録を私の頭から読み取って、映写するのが好きだ。

 私の方は、映像を『前世の知識』から出してくるのに、多少の集中が必要である。


「らんたん!」

「らららんたん」

「らんたんたん」

 ジェスチャー付きで元気良く答えてくれるランタン達。


「……統一してよ」

 何を言っているは分からないが、意見がバラバラな事だけは伝わってくる。


 ランタン達が寄り集まりだした。

「らんたん?」

「らんらんたん」

「らん! たん!」

「「らんたんらんたん」」


 どの様な会話だったのかは分からないが、一番元気な鳴き声の1匹がやって来た。

 リクエストを受け付ける。

 頭にランタンが貼り付くと、何を言いたいかなんとなく分かるのだ。

 クリスマスイルミネーションだね。

 ランタン達は、光に関係するものが好きだ。

 


「……すげぇな」

「今日の護衛仕事は、役得だけど集中出来なくて困ります……」

 セルゲイの呟きに、護衛のオルガが返している。


 ランタン達が、プロジェクションマッピングの映像を壁に投影しているのだ。

『前世の知識』Lv5は、私の前世記憶ベースのはずなのだが、必ずしも完全に前世の経験と一致しているのでは無さそうである。所々、あっても良さそうなものが無かったり、このプロジェクションマッピングみたいに、見に行った事が無さそうなものがあったりする。

 確信が持てる訳ではないが、なんとなく自分の性格上、こんなに長く冬の戸外に居た気がしない。

 つまり、それ位この映像は長かった。


「らんたーん」

 馴染みの1匹が残念そうな声で鳴く。


「終わっちゃったみたいだね」

 シンデレラや白雪姫などをモチーフに、ストーリー仕立てだったプロジェクションマッピングは確かにちょっと名残惜しい。ちょっとだけ、だけどね。


「らんたん」

 他のランタンが、私の前に飛んで来る。

 次のおねだりだ。


「あ、イルミネーションじゃないんだ?」

 おねだり映像は、……コートスタンド?

 いや、何かちょっと違う。


「セルゲイ。

 ランタンのリクエストなんだけどさ」

 ホワイトボード代りの小さな石板に、ランタンの欲しい物を書く。

 ランタンに投影してもらえば良かった事に気づいた時には、ほとんど書いた後だった。


「ああ、分かりました。

 今日、冬至だったっスね。

 普通は、ホールかエントランスに置くんスけど、小さいのを用意してもらうっスよ」

 そう言って、セルゲイは自分で手配しに行ってしまった。



「「「「「らんた~ん」」」」」

 いつもにも増して鈴なり感のあるランタン達である。


「クリスマスツリーっぽいな」

 ベースは土属性の人が作ったと言う金属製なのだが、オーナメントをつけたクリスマスツリーっぽい。

 葉が無いのと、オーナメントが全てランタンという点が違いだ。

 巨大な燭台の様とも言えるが、ランタン達が色を変えながら光るのが、クリスマスツリー感を出している。


「殿下の世界に、生物のランタンは居ないんじゃなかったスか?」

 私の呟きに応えたセルゲイの感覚は、この世界の常識による。


 今日はこの世界の冬至である。


 ランタン達は、属性が光と火に偏っているせいか、太陽の影響が弱くなる季節との相性が悪い。

 そのため冬至の頃は、寄り集まって過ごす。

 このように考えられている。


 実際のところ、理由は良く分からない。

 はっきりしているのは、冬至の頃にランタン達が一か所に集まってしまう事だ。

 

 集まった場所によっては火事になってしまうので、人間にとって都合が良く、ランタン達も許容できる場所に、専用の宿り木を置いておくのだ。

 建物の外に出たがらないランタンの為に、エントランスやホールに設置される事が多い。

 リクエストは、その宿り木の事だったのだ。


「ランタンは居なかったけど、似たような季節に似たような飾りをする風習があったんだ。

 元は外国の宗教行事だけど、日本では楽しむ部分だけ取り入れられてたと思う」

 何の記憶が残っているでもないが、懐かしい気がする。


「……エントランスとホールも見に行きましょうか。

 日没後は見学者で混むんスけど、今ならまだ空いてると思うっス。

 殿下の為なら、ランタンも火を灯してくれるかもしれないですし」


「「「らんた~ん」」」


 返事も待たずにセルゲイが私を抱き上げると、馴染みのランタンも3匹ほどツリーを離れてやって来た。


「先にエントランスに行きましょう」

 オルガが部屋に控えているメイドさんと軽く何かを打ち合わせた後、同行してくれる事になったようだ。


 エントランスのツリーは、平民にも開放されているそうだ。

 警備は大変だが、王都の平民を中心に評判が良いらしい。


「グレゴリー様が始めたんスよ」

 何故か得意気なセルゲイが、教えてくれた。


「セルゲイが曾祖父様を好きなのって、何でなの?」

 グレゴリー様は私の曾祖父なので、年代的にセルゲイとの直接の関りが多かったという事は無いだろう。

 でも、言動の端々に、曾祖父様への好意が感じられる。


「俺達の一族の恩人なんス。

 そのうち、ちゃんと聞いてもらうっス。

 ちょっと長い話なんで」


 曾祖父様の手記が、もう少し読めたら面白そうなのに。

 今度時間のある時、トライしてみるか。



「時間が早いせいか、ランタンがあまり集まっていませんね」

「見学の平民もほとんど居ないから、良し悪しだな」

 オルガに応えるセルゲイは、私に対する時とちょっと口調が違う。


 エントランスのツリーはランタン達に不人気で、冬至の夜しかクリスマスツリー状態ではないそうだ。


「これはこれで面白くて良かったよ」


 20~30m位かなというサイズの燭台の様な物が、エントランスにドーンと立っている。

 部屋のツリーは直ぐにランタンで埋められてしまったので、骨格が分かって良い。

 あと、今の自分が住んでいる建物の入り口だけで、前世のアパートなどよりも大きそうなのが、ちょっと理解し難い。


「そろそろ、ホールに移動っスね」


 エントランスのツリーと違ってホールでは、冬至の前後の数日に亘って、ランタン達が集まる。

 こちらも、見学者用に開放されている。

 尤も、ホールの開放は実質的に貴族限定だ。

 各貴族家の当主の紹介状を手に入れられる者だけが、ホールのツリーを見る事が出来る。


「デートスポットに良さそう」

 思わず呟いてしまう。

 奇麗な夜景に、特権階級しか手に入れられないチケット。

 プロポーズに利用されそう。


「冬の王都なら、プロポーズはここが定番ですね」

 私の予想通りの事を口にして、憧れだと言うオルガさんは、ちょっとキラキラしている。


「……殿下、辞書を読むの止めてないんスね」

 セルゲイは、私がデートスポットに相当する言葉を知っているのがお気に召さない様だ。どんよりした表情になっている。


 オルガさんとセルゲイの表情の落差が酷い。



「おお、綺麗」

 そうこうしているうちに、ホールに着いた。

 エントランスのツリーと違って、ランタンがみっしりしているし、飛び交っているのも多い。

 ツリーのサイズは、エントランスよりは少し小さいそうだ。

 今の自分が住んでいる建物の中に、こんなサイズの(以下略)


「灯ってるランタンがまだ少ないから、本当に綺麗なタイミングじゃないスけどね」


「らんたん!」

「「らんたん!」」

 馴染みの3匹が、私にくっついて、何か合図っぽい鳴き声をしている。


「「「「「らんた~ん」」」」」

 ホール中のランタン達が、色とりどりに輝きだす。


「わぁ……」

 オルガが、ポカンと口を開けて見惚れている。


「これは、壮、観、だ、ね……」

 意識がフェードアウトしていく。

 多分、ランタンのせい。


「殿下? 

 ちょっ、ストップ! ストップ!

 殿下が……」


 セルゲイのこんな焦った声は、初めて聞いたかもなぁ、と思いつつ眠りについた。




読んで下さってありがとうございます。


主人公の傍のランタンは、もう少し居るのですが、

セリフ?を3匹より多くするのは、ちょっと鬱陶しいかなと思いますので、

省略されてるだけで、もう数匹居るという感じでお願いします。


本年はお世話になりました。

よいお年をお迎えください。

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