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『安寧の日』は休日という事になっています


「「「らんた~ん」」」

 夕暮れ時、辺りが暗くなると、ランタン達に灯がともる。


「もう、こんなに時間が経ってしまいましたじゃ。

 年寄りは話が長くていけませんのう。

 アレクサンドラ様、今日は、これでお暇致しますじゃ」

 話に付き合ってもらった事への礼を丁寧に付け加えて、サンタウロフさんは辞去して行った。



「「……はぁ」」

 扉が閉じた途端、セルゲイと同じタイミングで、思わずため息が出た。

 護衛の人達も、少しだけど同じ様なリアクションをしている。


「殿下、すんません。

『テラコーヤ』の話、してなかったっスね」

 セルゲイの謝罪は珍しい。

 サンタウロフさんの長話が、思いの外しんどかったかもしれない。


「いや、どっちにしろ避けられなかったと思う」

 予備知識があれば、最初のタイミングで「テラコーヤ」とは言わなかっただろう。

 しかし、今日を乗り切っても、いつかは食らう、そんな気がする。

 それなら、最初に聞いた方が、目新しい情報が含まれている分、マシだと思う。


「そう……かもしれないっスね」

 セルゲイの表情が、見慣れない申し訳なさそうなものから、見慣れている気怠げなものに戻る。

 なんだろう、何か早まった気がする。


「それよりさ……」

「テラコーヤ」語源の寺子屋が宗教施設という点と、「デンターク」の語源が必ずしも計算機とは言えない点について切り出した。


「……マズイっスね」

 セルゲイの何とも言えない表情から、全く深刻ではないが、面倒くさい事が予想される。やっぱりか。


「あの、アレクサンドラ様が上書きするのはどうでしょうか?

『テラコーヤ』と『デンターク』を改良したものに、それぞれ別の名前をつければよいのでは?」

 おずおずと、護衛のオルガが話しかけてきた。


「ああ、アリっすね。

 殿下の改良案が出るまで位なら、誤魔化せるっス」

 じゃあヨロシクとばかりに話を切り上げて、セルゲイは交代の護衛騎士に引継ぎをして退出して行った。切り替え早いな。


 ……私、また仕事増えた?



「ウォン」

「あ、ティラン」


 夕食と入浴を済ませつつ、小学校と電卓の事を考えていたら、結構時間が経っていたらしい。

 帰ってきていた天狼(ティラン)に咥えられて、ベッドに運ばれる。

 元々、夜更かしには厳しめの周囲の対応だったが、ティランはもっと厳しい。

 お休みなさい。



「お早うございます。大丈夫ですか?」

 護衛騎士に起こしてもらう。今日は、落ち着いた感じのお姉さんだ。城の護衛騎士は、新米っぽい人が多いからレアキャラかもしれない。


「お、お早う。

 あんまり大丈夫じゃない。

 なんか絡まってる気がする」


 ティランの翼代わりの長毛が、体中に絡みついている。

 毎朝思うけど、人間、結構どんな状況でも眠れるもんだな。


 そんなに複雑に絡まっていなかった事もあって、助け起こしてもらっても大体いつも通りの起床時間だ。

 本日の着替えは、自分でしてもいい事になっている。


「ウォフ」

「あ、行ってらっしゃい」


 天狼(ティラン)は、私が身支度を済ませて朝ご飯を食べてる頃に起きだして、私の様子を見てから何処へともなく出かけて、私の就寝時間に合わせて帰って来る。

 獲物を持って来る時だけは、もっと早く帰って来る。

 就寝時間ギリギリに汚れて帰って来られるのも微妙だが、獲物を持って来られるのも、出来ればご遠慮したいのが本音だ。



「アレクサンドラ様、『ドラムライン』に編曲しましたので、確認頂いてもよろしいですか?」

 天稟スキルが『音楽の申し子』のタチアナである。

 パレード用に国歌の編曲を頼んでいたのだ。

 私のお付きになる予定なので、呼び捨てが良いらしい。ちょっとまだ慣れない。


「良いと思う。ありがとう。流石だね」

 楽譜では分からないので、演奏をしてもらって確認した。


「畏れ多いです」

 タチアナが明るい緑の髪を揺らし、はにかんだ笑顔を見せてくれる。

 髪と同系色の瞳を輝かせてマイペースに音楽に取り組んでいる、普段の様子からするとレアな反応だ。

 私が学問としての音楽に詳しくなくて、ドラムラインの説明がふわっとしていたのに、ここまで仕上げてくれて、本当に感謝。


 パレードをドラムラインに合わせて行い、要所要所で、孤児達に私と一緒の行進を披露してもらう、という企画をしている。

 曲は、私の『前世の知識』で最初からドラムラインだった2曲、転生先の国歌を編曲した1曲の、合計3曲。

 もちろん、国王と王妃である父母にも相談済。



 こちらの世界では、音楽に合わせて行進を行うという文化が無かった。

 滅亡前はあったのかもしれないが、滅亡後の世界では、練兵よりも突出した戦闘力持ちの育成の方が重要だったのだと思う。

 魔力量豊富な一部の人間を、特権階級として育成し戦わせ、魔力量の低い大勢には、逃げて生存してもらう。その方が、足並み揃えての行進が出来るようになって全体が戦うよりも、生存効率が良かった、という事だと思われる。

 ……戦う人間側に生まれ変わった身としては、複雑な気持ちだけどね。



「「♪アレク~サンドラ~様~♪、♪わたしたち~の歌も~聞いて~ください~♪」」

『女神の歌声』持ちの双子、ミュージカとピエスニャである。

 許可する前から歌ってるじゃん、などと言ってはいけない。


 パレードに向けて、双子にドラムラインの歌を習得してもらっているのだ。

『前世の知識』の曲は当然日本語なので、彼女達のスキルでこちらの世界の言葉に翻訳してもらう予定である。

 タチアナさんに任せた編曲よりも重要かもしれない。

 尤もタチアナさんには、企画の運営に加わってもらうつもりだけど。


「「♪♪♪ ♪♪♪ ♪ ♪ ♪~」」

 双子の天稟スキル『女神の歌声』は、歌に関してはチートなので、日本語どころか混ざる英語まで、いい感じの歌詞に置き換えてくれる。

『女神の歌声』を使えば、双子が理解していないはずの日本語も、歌にすれば会話も可能、という訳の分からなさだ。どこで使えるかは知らないけど。


「凄く良いよ! 本番が楽しみだね。

 タチアナに伴奏つけてもらって、そのまま完成度を高めていって欲しいな」

「「♪ありが~とう~ございます~♪」」


『女神の歌声』の良さは、やはり歌声を聞いてこそ。

 ドラムラインをアカペラで歌ってるのを聞いていて、感動してしまう。

 小柄なピエスニャがソプラノ、スラリとした手足のミュージカがアルトと、神の名を冠したスキルの歌声が二重奏になっているため、相乗効果も大変な事になっている。

 セルゲイが、仕事に支障が出ない様に護衛騎士達に耳栓を配っている程だ。


「あれを、『スゴイ』程度の感想で、普通に聞いてられる殿下は、ちょっと鈍いんじゃないスかね」

 セルゲイに普段通りの表情のまま、シレッと失礼な事を言われた。

 おまけに、他の護衛騎士達も苦笑しているから、同意らしい。

 耳を塞ぐのも護衛業務に不利なので、耳栓を配ったセルゲイ本人を含め、使っていない人の方が多いが、歌に集中を持っていかれない様に苦労している、と言うのだ。

 私の場合、前世のせいで、歌を作業のBGMにするのに慣れているだけだと思う。


「アレクサンドラ様。

 わたしはミュージカとピエスニャが覚えて歌の伴奏に取り掛かろうかと思いますので、二人と一緒に失礼してもよろしいですか?」

 双子が翻訳した歌の伴奏のため、タチアナと双子は、城の音楽室みたいな場所に移動したいらしい。


「もちろん構わないけど、無理しないでね」

 まだ7歳位の双子はもちろん、タチアナもまだ成人前、準成人の手前位だ。


「好きでやっている事ですから、無理はしていません」

「「♪楽しんで~いま~す♪」」



「「「らんた~ん!」」」

 3人が退出すると、今度は自分達の番、とばかりにランタン達が貼り付いてくる。


 今日は『安寧の日』で、学院が休みなタチアナさんとのやり取りがあるだけでなく、普段は遠慮してくれているらしいランタン達にも構ってあげなくてはならない。

 ……休み?



読んで下さってありがとうございます。

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