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天狼のベッド


「アレクサンドラ様、お早うございます。

 大丈夫ですか?

 引っ張りますか?」

 護衛騎士(オルガ)が、小声で起こしてくれた。


「お、お早う。

 ……引っ張って、そっとね」

 目覚めて状況を見て、私も小声で返す。


 天狼(ティラン)が部屋のベッドで一緒に寝る様になってしまった。

 王族のベッドは、キングサイズどころか小さな部屋位の広さがあるので、スペース的には問題無い。


 問題は、巨体の下敷きになってしまう事だ。


 ヤバそうな状態になる度に、不寝番の護衛騎士に引っ張り出してもらっている。


 さっきは、顎と前足の間に挟まっていただけだから、寝てる分には問題無かったのだが、もう起きる時間である。

 ティランにはこのまま寝ていてもらって、屋台に出かける。



 予定では、今日で屋台4日目になるはずだった。


 1日目、お客(アビゲイル)さん一人で中断。メニュー変更アイデア出し。ティランが一緒に寝るようになる。


 2日目、とりあえずレシピetc.そのままで、屋台に行こうとしたら、ティランに付いて来ようとされる。ルートを変更して現地に着くも、機嫌の悪い天狼付きではお客さんが近寄れなかったので、中止。


 3日目、レシピ暫定変更して、出かけようとするが、ティランの反対にあう。セルゲイ曰く「ちょっと長めに様子見したら、働かされてたんで、警戒強める事にしたんじゃないスかね」との事。

 屋台は、セルゲイが気を利かせて、見習い料理人を手配してくれたので、一応開いてはいる。


 2日目も3日目もアビゲイルさんが来てくれて、私が居ないのを残念がってくれたらしいので、今日は行きたい。



「殿下、諦めないんスか?」

 着替えさせてもらって部屋から出ると、外で待ってたセルゲイに開口一番、小声で訊かれる。


「だって、何年待ったらいいか分からないんでしょう?」

 部屋を出ているが、念のため小声で返す。


 来週とかまで待って解決するなら、私も待ったと思う。

 でも、私が成長するまで解決しないだろうと言われたのだ。


 王族が自由に行動できるのは、10歳までだ。

 10歳までは子供過ぎて、本人も周囲も礼儀をあまり問わなくてよい事になっている。


 ティランを待っていると、10歳を過ぎる可能性がある。

 それでは、退屈過ぎる。


「……しょうがないっスね。

 ルートは、こないだと同じで外からにしましょう。

 多分、直ぐ追って来るんで」


 感覚の鋭い天狼が、鼻先にあった()が無くなって、気付かない訳がない。

 引っ張り出された瞬間に気付いてはいるが、直ぐ追いつくから、しばらく微睡んでいるだけだと思われる。その間に、こちらは準備をするのだ。起きればいいだけの天狼と違って、人間は色々と準備が必要だからね。



「よし! やっと屋台だ!」

 護衛騎士とセルゲイの分、加えてティランの味見分もお好み焼きを焼いて、いよいよ本営業開始。

 

「……どうっスかね?」


「……」

 見ない振りをしているが、屋台の後ろにティランが寝そべっている。一昨日と違って機嫌は普通。

 私が進んでやろうとしている、という理解をしてくれたのだと思われる。

 ただ、これでお客さんが来てくれるか。甚だ疑問である。


「いらっしゃいませー。

 焼きたてのお好み焼きと、温かい具沢山スープは、いかがですかー」

 とりあえずは、声出ししてみる。時間が時間なので控えめに。


「「「らんた~ん」」」


「ティランとランタンのおかげで目立ってはいると思うんだよね」

 客引きのためのインパクトはあると思う。


「アレクサンドラ様と我々だけでも十分目立つと思います」

 ……そうでした。


「時間的にまだ来ないと思うっス。

 ……スープもう1杯もらってもいいっスか?」


「えっ、もう3杯食べた後じゃん。

 足りなかったらお好み焼き焼くから、お客さん来るまでスープはとっておいてよ」

 スープは料理長が作ってくれた物なので、追加出来ないのだ。


 結果的に延期になってしまった分、料理長とレシピの検討が出来た。


 お好み焼きは、出汁を干し肉に変更しているが、料理長の工夫のおかげで、ソースをかけた状態だと最初の味とあまり変わらない位になっている。

 出汁のかつお節が節約出来たので、トッピングに少し回した。

 かつおの風味が足されて、個人的には満足である。


「見た目、どう?」

 前世で、かつお節が木屑に見えるとか、蒸気で踊って見えるのが気持ち悪いとかの感想を、外国人が言っていたという知識があったので、聞いてみた。


「……どっちにしろ見慣れない料理なんで」

「多少、ちょっと……」


 ソースでかつお節を塗り込むようにして、動かない様にしてみた。


「ああ、その方がいいんじゃないスかね」

「そうですね。この方が受け入れやすいです」


 このような経緯を経て、かつお節は少な目、ソースで動かない様になっている。


 スープは、やはり干し肉出汁。

 蕎麦粉と卵で作った小さめの団子と、マンドラゴラと人参の「安い」部分、お好み焼きで余ったキャベツ、城の食堂で残ったボア肉が入っている。

 少量の味噌で味付けされているので、和洋折衷的な味だ。

 それなりに美味しいと思う。多分、お好み焼きにもあっている。

「それなり」とか「多分」なのは、材料の魔素量が低くて、私にはちゃんと味が分からないせいだ。

 セルゲイ達の評判は良いので、きっと大丈夫だと信じている。


 個人的に納得いかないのが、マンドラゴラと人参の「高い」部分が、マンドラゴラの顔っぽい所と人参の手足のような部分という事だ。

 魔素量の偏在を考慮した評価だと聞いた。

 結果として、安い方が、材料の真ん中辺り、前世で癖が無くて良い部分とされてた方になる。

 王族である私には当然、材料の高い部分が出されるので、材料の端の方、マンドラゴラの顔とかのエグイ感じの辺りを普段食べている事になる。

 ……何かが釈然としない。



「「「らんた~ん」」」

 ランタン達が鳴きながら飛んで行ってしまった。


「あれ? ランタン達、どうしたんだろう?」


「あの人を迎えに行ったんスよ」

 ランタン達が、女の人を引っ張ってきている。


「あ、アビゲイルさんだ。

 いらっしゃいませ!」


「あああ、ランタンが、天狼が!」


「大丈夫ですよー。

 今日は、オーク肉とクラーケン、どちらにされますか?

 温かいスープもお勧めですよー」


「あああ、怖いー!」


「大丈夫ですよー」




読んで下さってありがとうございます。


登場人物一覧は、不完全かもしれませんが、

週末位には、こっそり最初に入れておくと思います。


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