イカ焼き
「これ、結構イケるっス。
屋台、これでもいいんじゃないスか?」
ティランが帰らないので、引き続き、屋上に居ます。
セルゲイが齧っているのは、蜂蜜と醤油で作ったタレを付けた焼きイカだ。
お好み焼き用に細かく切ってしまったので、前世の焼き鳥みたいに串にしている。
「イカって、いつも手に入るとは限らないんでしょ?
パレードの時に無かったら、どうするの?」
イカ焼きはティランも欲しがったので「体に悪いかもしれない」と伝えつつ、ちょっとだけあげた。
あまり気に入らなかったのか、最初の一口からは食べてない。
セルゲイによると、
「魔物は自分にとって害のある物は食べないらしいっスよ。
今回は、殿下が焼いてたからちょっと味見したかったんじゃないスかね。
どっちにしろ、魔素量が低くて美味しく感じないでしょうし」との事。
イカとかネギとか、自分で気にしてくれるなら、楽で良い。
「別の肉、いや、何とか探して……」
セルゲイが思いの外、真剣に悩んでいる。
イカ焼きとかスルメとか好きなのかもしれない。
イカは私が魔術で焼いた。
遠赤外線も結構慣れてきた。
でも、欲を言えば、炭火焼したい。
「セルゲイ様がそんなに気に入ったのでしたら、食堂のメニューに加えましょうか?」
料理長に来てもらっている。
さっきのタレも料理長に調節してもらった。
「それもいいんスけど、酒と合わせたいんスよ……」
セルゲイには、私が居れば料理長も平気、という謎の認識をされる様になった。
「食堂のメニューは原則として、勤務中の方のお食事ですから……」
料理長が、城の食堂でアルコール類は出せないという、常識的な事を言っている。そういう感覚はあるんだな、という感想は声に出していない。
でも、
「ああ、東国のお酒とか合うだろうね」
この体、前世の味覚とか覚えてるんだよね。まだ4歳だと、これから辛そうだな。
この国の成人年齢は20歳だが、その他に準成人年齢という設定があり、お酒はこちらの18歳から飲める。それでも、飲めるのは14年後。。。
「……殿下。なんで東国の酒の味知ってるんスか?」
「味噌と醬油があるなら、米で出来た酒もあると思っただけ。
無いの?」
「……あるっス」
「スルメと合わせたいよね」
「スルメって「アレクサンドラ様、詳しく!」……」
「料理長、顔近い。
スルメは、小さなクラーケンと似た生物の、内臓をとって全身を干した物だよ」
「小さ「小さくないと出来ないのですか!?」……」
「前世には、クラーケンみたいなサイズのが居なかったんだ。
クラーケンでやるなら、小さく切ってからだと思うけど、やってみないと分からない」
サイズよりも、厚みが不安だよね。切っちゃうとその部分に皮が無くなっちゃうから、それで干して大丈夫なのか、とかもね。
料理長から、スルメについて質疑応答を受けた後、
「では、わたくしめは、スルメの試作に取り掛かりますので!」
料理長が立ち去ろうとする。
「待って! 屋台のサイドメニュー手伝って!」
「おっと、わたくしめとした事が、目先のアイデアに囚われて、貴重な異世界料理のお話を聞けるチャンスを逃そうとするとは。
失礼致しました、アレクサンドラ様。
さ、お話をどうぞ」
……内容が謝罪じゃないし、サイドメニューもいつの間にか、異世界料理限定になってる。言ってもしょうがないかなと思うが。
「お好み焼きだけじゃ足りない人のために、腹持ちするスープとかを考えたいんだけど……」
逆に、朝からお好み焼きはちょっと、という人にも良いかなと思っている。
「腹持ちするスープ……汁気の多い麦がゆに具を入れた様な物ですかな。
出汁をカツオブシにするのは、コストが厳しいかもしれません」
「かつお節は、逆にお好み焼きに使うのを、干し肉でもいいかなと思っている。
スープは、パスタの類を入れたい」
「オコノミヤキの出汁を! 是非、試させてください!
……パスタは、小麦粉が高価ですから、小銅貨2枚では厳しいかと」
「蕎麦で団子みたいな物を作って入れられないかな」
前世のすいとんみたいな物を考えている。
「コナで出来た粉は、まとまりにくいですから……」
名の由来が、粉にして使うからコナ、なので、発音すると紛らわしいな。
「つなぎとか使ってもダメなのかな?」
コナは、前世の蕎麦っぽいから個人的に蕎麦と呼んでるけど、サイズ感といい、別の特性があっておかしくない。蕎麦粉も小麦粉よりまとめにくかったのだから、こちらの世界ではもっとまとまらないのかもしれない。
「ツナギ?でございますか?」
「卵とか小麦粉、すりつぶした山芋とかを混ぜて、まとめやすくするの」
「ほう! ハンバーグでは使っておりましたが、粉をまとめるにも使えるのでございますね!
では、早速、試作を!」
「あ、ちょっと、スープは出来れば野菜とか他の具も多めに入れたいんだ!」
「かしこまりました~」
ちょっとドップラー効果がかかってそうな位の勢いで去っていく料理長。
「……行ってしまった」
「どっちにしろ、昼の準備の時間も近付きつつあると思うっス。
料理に関する事を忘れたりしないでしょうし、勘弁してやって下さいっス」
「勿論構わないけど、セルゲイが料理長を庇うの珍しいね」
「……」
「セルゲイ様は、結構、料理長に配慮されてますよ。
何でも、以前お世話になった事があるそうで」
護衛騎士さん、意外と気持ちが強いのかな。セルゲイに軽く睨まれてるけど。
「……前に具合を悪くした時に、差し入れしてもらったんで」
「料理長は結構、職業意識高いからね。
気になるなら、お礼にレシピとか食材とかあげたら?」
料理オタクなだけじゃなくて、城の人の健康にも気を使っているのだ。だからこその、料理長の地位である。義務感というよりは、料理に対する情熱の延長線上にある行動っぽいが。
「……今更とか思われないスか?」
「全くの杞憂。
何か当てがあるの?」
私見だが、合法である限り、オタクが欲しい物が手に入った理由を気にするとは思えない。
「幼馴染に聞けば多分」
「今度休んで聞いてきなよ」
「……そうっスね。
先ずは、殿下のパレードが終わってから考えるっス」
「たまには、ちゃんと休めばいいのに」
「……」
何か迷う理由があるんだろうか?
読んで下さってありがとうございます。
設定まとめと登場人物一覧は、もう少々お待ち下さい。
まとめていたら、主人公がまだ知らない事まで書いてしまい。。。
もうネタバレでもいいか、迷い中です。




