子狼系王女?
「アレクサンドラです。
取次お願いします」
事が思ったよりも大きかったので、父の私室に通される事になった。
「かしこまりました。
少々お待ち下さい」
「殿下、使用人相手には、敬語じゃなくていいんスよ。
他国の人間が居る時は、特に注意して下さい」
「……はい」
教えてもらってるのにとは思うけど、セルゲイにマナーを教わるのちょっとアレだよね。
「お待たせ致しました。
どうぞ、お通り下さい」
目礼だけで通るように、セルゲイに言われた。
初対面の年上に敬語使わない事と言い、意外と辛い。
「お早うございます。
父上母上、アレクサンドラが参りました」
「お早う、アレクサンドラ。
朝からご苦労様」
「お早う、アレクちゃん。
孤児と転生者の事で、お話があるって聞いたわ」
今日は平日で、父も母も仕事があるので、手早く説明せねばならない。
「認可取り消し済みの孤児院で、転生者が名乗り出ないままに亡くなっていると思われる事例について、情報がありました。
日本人の習慣から、転生者が自発的に名乗り出ようとしない可能性も、併せて報告致します」
日本からの転生者は、曾祖父様が最初に確認された80年ほど前から、叔父辺りの20年以上前までは、ある程度見つかっていた。なお、転生者である自覚が芽生えるまでのタイムラグもあり、転生者だと確認されるのは、5~10歳位が多い。
近年では、申請が無かった事から、転生の期間が終わったのだろうと思われていた。
それが、私が見つかった事で、色々と疑問には思われていたそうだ。
「つまり、ヤロスラフの悪評以降20年近くも、ただ申請されなかっただけ、という可能性が高いのか……」
「なんて事……」
父も母も、思ったよりショックを受けている。
「全員が、今回の様に亡くなってしまっているとは思いません。
名乗り出ていないだけ、という可能性が高いです。
事実、曾祖父様が御存命だった期間は、その後よりも多くの転生者が見つかっています。
恐らく、曾祖父様が探していた結果と思われます」
本当はアホが受け継いでいなきゃいけなかった事だよ。
治癒魔術の練習台にするのに、心が傷まなくて済むわ。
「……ニホンからの転生者は、こちらから探し出す必要があるのね」
「アレクサンドラとヤロスラフの年、4歳から30歳位か、もう少し範囲を広げて調査が必要だな」
他の世界ではあまり転生の概念が無かったからなのか、転生者だと言う事を本人が隠す、という事を考えなくて良かったらしい。
実際には、日本人以外でも、黙っていた人は居たんじゃないかとは、個人的に思っている。
「私の5歳のパレードの余興で、孤児院の子供に協力してもらいたいと思っています。
その際に、転生者かどうかの確認と、状態の悪い孤児の引き取りを行いたいと思います」
孤児院の問題も、あのアホのせいだ。
尻拭いだが、孤児院に居る15歳までの子供の対処を買って出た。
苦笑した父に頭をくしゃくしゃされる。
「喫緊の仕事を任せる事になってしまうね。
慣れた文官を手配するから、アリーヤとも相談しながら、無理をしないでやってみなさい」
アリーヤは、母の名である。なお、父の名はセオドアである。二人の名を、直接呼ぶことは無いと思うが。
「はい」
母にも頭をくしゃくしゃされてから、挨拶して退室する。
「ふぅ」
「殿下。予定変更して、今日、治癒魔術の練習にします?」
セルゲイ、それ、八つ当たり……じゃないな、元凶でストレス解消してこいって事?
「それもいいけど、屋台の事も詰めておきたいなぁ。
余ったイカもどうにかしなきゃいけないし」
サイドメニューとか、持ち帰り容器とか、見つかった課題も考えておきたい。
「料理長っスね。
ちょっと調整しますよ」
移動のためにセルゲイに抱きかかえられる。ついでに髪を直してくれたみたいだ。
「あと、キックボードとか欲しいな」
そろそろ、自分で移動したい。
移動をちょっとだけ楽にする道具、と説明したら、
「魔道具製作第3課っスね。
それも手配しておくっス」
ありがたいんだけど、何かしようとすると、マッドサイエンティストとの出会いが避けられないのは、何故なのか……。
「アレクサンドラ様! セルゲイ様!
ルーフに天狼が来ています」
戻る途中で、見慣れない騎士に声をかけられた。
「了解。
殿下、ちょっと急ぎますんで、しっかり捕まってて下さい」
注意の割に、こっちの動きも気にせず、いきなり走り出すセルゲイ。
前世の廊下よりは広いが、全速力を出すには狭い所を、結構なスピードで走っているらしく、怖い。
フリーフォールとかの絶叫マシンで、目に入る近景が、森林よりも高層ビルの方が遠近感を実感できて嫌だ、みたいな感じだろうか。
埒も無い事を考えていたら、あっという間に着いた。
「うああ」
思わず声が漏れ出る。
ティラン、何か血の滴る物を咥えてるよ。
本人?も、返り血で結構ひどい事になってるし。
汚れてるからか、ティランが光って見える事に、初めて気がついた。
白い毛並みが輝く様だと思っていたけど、反射とか比喩では無かったのか。
魔力量が高くて光って見えるってこういう事ね。
血濡れで光ってるから、ホラー感が酷くなってる気がする。
「龍種の尻尾の先でも持ってきたのかもしんないっスね。
ちょっと血を舐めて厳しそうだったら、受け取って、これに入れるといいっス」
「血を舐める!?」
あの、滴ってるヤツを!?
「諦めて下さい。はい、これ」
他人事だと思って。
「これ?」
差し出された物の見た目は、小さいウェストポーチだが、見覚えがあるような。
「殿下用のマジックバッグっス。
ここの魔石に魔力を流し入れるだけで使えるんで」
「ありがとう」
幼児体型で落ちそうだったからか、肩に掛けて調整してくれた。
「入り口の大きさが、とても入らなさそうなんだけど」
ファンタジー世界だと分かってて、抵抗を感じてしまう。
思ったよりも前世の感覚が残っているのだろうか。
「ちょっと強めに魔力を流すといいっス。
骨折を直すか、もう少し弱い位」
「分かった」
意外と具体的なアドバイスだった。
「先ず、血を舐めるんスよ」
「うう……」
……舐めました。
だって、先にしまおうとしたら、ティランが駄目って感じで首を振るんだもの。
「う、ケホッ。
全然、味分かんない」
発泡感強すぎて味が分からないってこんな感じか。炭酸苦手な人が、甘味料ゼロの強炭酸水を間違って飲んだ様な感じか? でも、味が分からないの、今回はちょうど良かったかも。
「しまう前に、これで洗浄した方がいいっス」
解体の時に教わった洗浄用魔道具だ。
私の身長の倍近くと、サイズ感は大きく違うが、トカゲの尾みたいな物を洗う。ついでに自分も洗った。
血も止まったようなので、マジックバッグに仕舞う。
身体強化で、両手なら一人で持てるようになったが、バッグに仕舞うのは片手になるので持てない。セルゲイに手伝ってもらう。
「……よし、これでOKかな。
ねぇ、ティランも洗ったらダメかな?」
「ティランに許可取ったら、いいと思うっス」
ティランに魔道具を見せて、大丈夫そうだったので、洗浄した。
「うん、やっぱり奇麗な方がいいよね」
主に安心感が違う。
ティランも奇麗になってサッパリしたのか機嫌が良さそうだ。モフらせてもらう。
「そうして見ると、殿下とティランは似てるっスね。
ティランの光属性が強いのもあるんでしょうけど、親子感あるっス」
「はぁ!?」
セルゲイの言葉に驚いて振り返ると、他の護衛騎士も頷いている。
神獣とは言え、基本の見た目はただの狼と親子感あるってどういう事!?
読んで下さってありがとうございます。
そろそろ、登場人物一覧を作ろうと思っています。
位置的にネタバレにはなるけど、やっぱり一番最初に入れるのがいいかな?




