イルミネーション系王女?
ようやくゲットした最初のお客さんは、仕事上がりの娼婦のお姉さんだった。
串と持ち帰り分を注文されたので、串を食べてもらっている間に、持ち帰り分を焼く。
持ち帰り用の容器をもうちょっと考えておくべきだったな。
他の客がいなかったので、焼いている間に、お姉さん、アビゲイルさんとは話も出来た。
「お買い上げありがとうございましたー」
「「「らんた~ん」」」
アビゲイルさんを見送る。
時間帯のせいか、他のお客さんはまだ来ない。
「セルゲイ、さっきの娼婦さん?の話だけどさ」
「待って下さい。その単語、何処で覚えてきたんスか?」
「この間、もらった辞書で」
そう言えば、娼婦とか娼館とかの単語は、アビゲイルさんも口にしてなかった。
格好とか聞いた範囲の仕事内容とか、水商売ぽかったから、娼婦さんかなと思っていたけど、幼児だと思われて、気を使わせてしまったかな。
「……辞書を読むの、止めないっスか?」
「何で?」
どっちにしろ、概念を知っているなら、こっちの世界の単語を知らなかったところで意味ないと思うよ。
こっちの世界の辞書をもらってから、暇を見つけては、まるで本を読む様に辞書を読んでいる。
自分でもおかしいとは思っているが、娯楽が少ないせいと、早く言葉を覚えたいせいだ。
「殿下は、一応まだ4歳なんスけど」
「こんな早朝の時間設定とか、普段4歳児扱いしないくせに」
時間的に、仕事上がりの水商売の人と出会うとか、仕方ないよね。
「そんな事よりさ、あの貴人牢のアホ、もう処刑でいいんじゃないの?」
アビゲイルさんの孤児仲間の元日本人が、名乗り出られずに亡くなってる件だ。
叔父とは言え、そのやらかしのせいで、同郷の人間が死ぬとか、許容できない。
「処刑だとそれで終わるんで、もっと有効活用してからっス」
「……そう」
「納得してもらったところで、俺は転生者の件で、報告まとめるんで」
「報告?」
「転生者の件は優先順も高いっス。
しかも今回、当事者が死んでる上に、最後まで申請がされてないんで、最悪っス」
「……申請?」
「転生者は、色々と問題を起こす可能性があるんで、本人と家族に優遇措置をする代わりに、名乗り出てもらう事になってるんスよ」
「名乗り出るだけ? 調べてないの?」
「かなりの優遇措置なんで、普通、名乗り出るでしょう」
「日本人なら、名乗り出ない可能性はあると思うよ。
実際、アビゲイルさんの孤児仲間は、名乗り出なかったんでしょう」
私は気付いたら転生者だってバレてたけど、転生ものでカミングアウトしないのはデフォだよね。
「えっ。……殿下、今日は予定変更して、報告に付き合ってもらうっス。
屋台は必要なら、日数延ばしますんで」
「ア、ハイ」
実質、接客一人だけど、帰る事になってしまった。
戻って来た王城で、早朝過ぎて母がまだ起きてなかったので、待っている。
起きてもらう程の緊急性でも無かったのと、どっちにしろ起床時間が近かったからだ。
今は、身支度してもらうの待ち。
「ところで、アビゲイルさんて、なんで私が王女だって分かったの?」
その場でこの疑問を口にした時、周りの護衛から「え?」とか言われたが、答えは聞いていなかった。
「殿下の髪と目の色は、ほぼ直系王族に特有なんで」
「え? リュドミラ先生とか、白髪白目の人は時々見るよね」
「リュドミラ様は、生まれた時点では直系王族っス。
グレゴリー様の末娘で、殿下の大叔母に当たります。
代替わりで傍系になって、結婚の際に継承権を破棄してるはずっス。
王族の仕事には、光属性が必須な事が多いんで、光属性の王族は降嫁とかせずに、城に留まって、仕事してもらう事が多いんス」
先史文明から引き継いだ重要魔道具には、光属性の魔力でないと動かせないが、外国とのやり取りなどに外せない物がある。
我が国の様に、王族を光属性にして、親族を動員する国が多いそうだ。
つまり、光属性の特徴である白髪白目と金髪金目は、王城には多少居るが、他ではほぼ居ない。
「あと、魔力量が多い存在を、魔力量が低い者が見ると、光って見えるんスよ。
だから、王族だって直ぐ分かるっス」
「平民からアレクサンドラ様を見ると、周りがキラキラして見えるはずですよ」
セルゲイのセリフが信じ難くて、護衛のオルガさんを振り返ってみたら、ダメ押しされた。
「キラキラ光って見える!?」
「そんなにショックを受ける事スか?」
「ショックに決まってるよね!?」
キラキラ光るとか、イルミネーションか!?
あと、なんで言っておいてくれないんだよ。
「でも、生活には支障無いでしょう?
自分じゃ見えないんだから」
「支障はあるよね!?
平民の中に紛れてもモロバレじゃん!」
髪と瞳の色が属性によるから、染髪とかで色が変えられないのも今回初めて聞いた。
「紛れる必要が無いっス。
光って見えるのは、魔力量的に絶対敵わない相手に攻撃を仕掛けない為の本能だって言われてるっス。
貴族にはギリ普通に見えてるんだからいいじゃないスか」
「……『ギリ』なの?」
「そうっスね。
俺だと、殿下達が光って見える事は無いスけど、異性を感じる事も無いっス」
「それは、私が4歳だからでは……」
「王妃様とか胸がデカくて、俺好みのハズなんスけど、体術の試合で胸を押し付けられても、何も感じないっス」
「色んな意味でコメントに困る事を言うなよ!」
さっきは、娼婦って単語を知ってるだけで、4歳児なのにとか言ったくせに。
「ま、王族と下級貴族が恋愛関係になる事は、ほぼ無いって事っスよ。
俺が殿下のお付きを出来る理由で、天狼が殿下を孤児扱いしてる理由っスね」
「つまり『平民に紛れてスローライフ』はほぼ無理って事かぁ」
「そんなのどっちにしたって無理っスよ。
殿下の事は、俺が地の果てまででも追いかけて、王族の義務に戻ってもらいますから」
笑顔だが、目が本気だ。
「……何故、そこまで」
「自分の一族を守ってもらうためっスね。
俺とか貴族家の当主が、王家に仕えてるのは、それが理由っス。
俺は少数民族の総領なんで、貴族家の当主とはちょっと事情が違いますけど、今のところ、殿下に仕える代わりに王妃様が、一族を守ってくれる約束になってるっス」
「そういう契約なのか。
……他の護衛さんとか、メイドさんは?」
「昔は、各家の働きに含まれてたんスけど、グレゴリー様が、当主以外は給与制にしたんスよ」
「なるほど」
「知らせが来たみたいっスね。
移動しますか」
「はーい」
読んで下さってありがとうございます。
『ヤロスラフ殿下』の回が記憶に残ってて、アレ?って思った方へ。
その内、本文でも説明するつもりですけど、
思い込みヒロインの魔力量が多かったのもあるけど、
ヤロスラフの鍛え方が、王族として致命的に足りなかった、という話です。




