屋台をやってみよう
気を取り直して、屋台を始めよう。
鉄板を温め始める。
「最初にこっちの4人の分を焼いてあげて欲しいっス」
「はーい」
名目上、勤務前扱いの騎士の分だね。
ボールに先ず、粉を取る。
筒を斜めに切って作ったスコップの様な器具に擦切り一杯で、一人分。粉は篩済み。粉が入った袋にかかった状態保存の魔法のおかげで、手間が少し省ける。
さらに、料理長からもらったベーキングパウダー的な粉を小さじで入れる。
次は卵。
平民向けの卵は小さいので、一人分で2個使う。
「8個か、割るのがちょっと面倒だな……。
セルゲイ、しばらくボール抑えててよ」
前世でどうだったかは分からないが、今世の体は結構器用で、少し練習したら、左右どちらの手でも片手で卵を割る事が出来るようになった。尤も、卵が小さいのに殻がしっかりしているからこその技だとは思う。
両手を同時に使って、どんどん卵を割り入れていく。
「これで8個、もう抑えなくて大丈夫」
「殿下、器用っスね」
「ありがとう」
セルゲイは練習してるのを見てたはずなのに、ちょっと目を丸くしてるし、騎士の中には「え! どうやって?」とか言っている人も居る。リアクション大き過ぎでは?
最後に、水と料理長作の濃縮出汁を入れてかき混ぜる。
生地の材料はこれだけ。
母達に振舞った時は、天かすや山芋が入っていたけど、屋台ではコストなどの問題で入れない事になった。ちょっと物足りない感じがするが、最初は様子を見る様に言われている。
混ぜるのは、4歳のこの体だと結構大変なので、身体強化を使っている。
今までそんなに使えてなかった身体強化が、このせいで急に上手くなって、セルゲイにはちょっと呆れた顔をされた。
キャベツは切ってもらったものを、状態保存魔法付きの箱に入れてもらっている。
粉もそうだが、状態保存魔法はそこそこコストがかかる。私が一人でやる事になっている今回はともかく、パレードで他の人にやってもらう場合は、人手を増やして、下拵えも屋台でやってもらう事になると思う。
ちなみに、今回のお好み焼きで一番値が張る食材がキャベツだ。収穫しているところを見せてもらったから仕方ないのは分かるが、前世の感覚的に釈然としない。
代替品も考えたが、そもそも葉野菜が全体的に高価だった。
一方、肉はすごく安い。
前世と比べると、肉と野菜の値段がちょうど逆転してるような感じだ。
前世の感覚で、メニューをオーク肉とクラーケンの2種類にしてもらっているが、値段的なメインがキャベツなら微妙な気がする。
メニューのバリエーションは少しは欲しいが、今回の様子を見て、見直しも考えるかな。
「最初は全部、オーク肉でもいいかな?
失敗しにくい方で様子を見たいんだけど」
「もちろんですよ」
快く了承してもらえたが、元より断る選択肢も無かったかも。
4人分を、一気に焼いて行く。
焼いてる間に、カット済みクラーケンを混ぜた生地を準備する。
メニューを聞かれて、定番は豚系と海鮮系だと思う、と答えて、片方はクラーケンになったのだ。
「何時でも手に入るような物じゃないスけど、傷みやすいんで、手に入った時の値段は結構安いっス。
今、ちょうどあるんで、平民向けに魔素量の低い部分を使えばいいんじゃないスかね」
デカいんで、仕留めるのは大変だけど、仕留められた時には、腐る前に食べ切るのが大変、という事だ。
ちなみに、クラーケンには2種類あって、タコ型とイカ型がある。
呼び分けは接頭語が付く。脳内変換でタコ型とイカ型と呼んでる。
今回使うのは、イカ型だ。
タコ型だったら、別の料理にしたいと言ったら、セルゲイに変な顔をされた。
でも、タコはたこ焼きにしたいじゃない? 通じないのは分かるけど。
焼きあがったお好み焼きにソースを塗る。
ちなみに、ひっくり返す時もチヤホヤと褒めてもらった。
接待っぽかったけど、王族だし、しょうがないのかね。
「青海苔は無いから仕方ないとして、かつお節かけられないのが不満」
「出汁に使ってるだけでも、原価的にキツイみたいっスからね」
輸入品だから、かつお節も高いんだよね。
味の再現を妥協して、出汁に使うのを諦めた方がいいのだろうか。
「味、どう?」
食べてる騎士達に聞いてみる。
「美味しいです」
「食べた事ない味ですけど、美味しいですよ」
「魚の味がしますね。美味しいです」
「ソースの味が濃くて、美味しいです」
褒めてもらった事にお礼を言いつつ、セルゲイを呼んで、小声で話す。
「何スか?」
「味見役って話だったけど、考えてみたら、気を使って褒めてくれるのが当たり前じゃない?」
「あー、まぁ、でも、美味しいってのは嘘じゃないと思うっスよ。
騎士は野営のために、調味料無しの料理とか、ある程度何でも食べられないと務まらないですし。
焼き加減とかは失敗してたら、正直に言う様に伝えてあるっス」
……味見役のハードル低っ。肉が生、とかじゃない限り、何でも受け入れてくれるレベルじゃん。
交代した護衛達には、クラーケンの方を食べてもらったが、感想としては割と一緒。
クラーケンの物珍しさがちょっとプラスされてる位だ。
「次は、セルゲイの分だね」
「クラーケンで、2枚お願いします」
「クラーケン好きなの?」
「余らせない様に、言われてるんで」
「あっそう」
「あの、自分の分もお願いしていいですか?」
最初に振舞った方の騎士が声をかけてきた。
「いいよ。両方食べたいよね」
「あ、僕もお願いしたいです。具はどっちでもいいですから」
交代して、クラーケンの方を振舞った方の騎士さんだ。
「男だと、量が物足りないかもしれないっスね」
「だから、そういうの先に言って欲しいって」
「わたくしはちょうど良かったです」
「わたくしもです」
「自分も、朝はこれぐらいがいいです」
「ありがとう」
そうすると、サイドメニューとかがあった方がいいのかな。
飲み物は、母からもらった王蜂の蜜を水で割った物をセットにしている。
作ろうとしたら、濃度を好みにしたかった様で、セルフサービスになってしまった。
接客の練習的には、いまいちだったかも。
「次は、オークで」
「え?」
男性騎士リクエストのクラーケンを焼いて、騎士達には満足してもらったはずなのに、セルゲイからリクエストだ。
「セルゲイさん、普段、全然食べないですからね」
「食べられる時に食べておいて、そうじゃない時は、食べないんスよ」
「それは、体に悪いよ」
「そうスかね?」
それで、良く瘦せてられるな。
気に入ってくれたらしいのは嬉しいけどね。
「そろそろ、お客さん、来ないかな?」
ちゃんと感想を聞きたいよね。
「「「らんた~ん」」」
「あ、誰か、来た?」
読んで下さってありがとうございます。
11月23日は、別の話を上げたいので、お休みさせて下さい。
次回更新は、11月28日のつもりです。
よろしくお願いします。




