この世界の王族とは
「殿下、屋台の手配出来ましたっス」
「あ、うん。ありがとう」
セルゲイのテンションが、驚くほど低い。
そもそも、働き過ぎだよね。
母と相談しようかな。
「かなり早起きが必要ですけど、大丈夫っスか?」
タイムスケジュールを見せてもらう。
営業時間は、夜明け前から朝までだ。
「開始時間、朝と言うよりほぼ夜では?
私は構わないけど、付き合ってくれる人達って平気なの?」
「護衛の交代の時間に合わせてあるんスよ。
試食係兼ねて、殿下が作ったオコノミヤキを食べてから護衛に入る側と、護衛交代して食事休憩に入る側、両方居れば不測の事態にも対処しやすいっス。
護衛は食堂が開いてない時間の食事になって、殿下は試食相手が出来て、一石二鳥かと」
それを城下で行う必要があるのかという疑問が湧いたが、口にするのは止めた。
「食堂って?」
代わりでもないが、別の質問をする。
あってもおかしくないのに、そう言えば、見聞きした事が無かった。
何故かセルゲイが目配せして、進み出てきた騎士のオルガさんが説明してくれる。
「城の食堂の事です。
王城で働いている者に無料で提供されていて、王城を訪れた者も格安で利用出来るようになっているんですよ。
朝から夜までずっと開いているのですが、流石に深夜から早朝は締まっておりまして、夜番から朝番への交代での食事には時間が合わないんです。
セルゲイ様もこの辺りの事はご存知だと思いますけど、利用されてないとお聞きしています」
「セルゲイ、何で使ってないの?」
セルゲイが使ってないから、見せてもらってなかったのかな。
「目立つのが嫌なんで」
「セルゲイって、目立つの?」
ちょっと見慣れない顔立ちかもしれないが、そこまでではないのでは?
「あぁ、まぁ」
「セルゲイ様はそれだけじゃなくて、食への拘りが少ないからですよね。
食事は、ほとんど携帯食で済まされてますし」
「ええ……」
「そんな信じられないものを見る様な目で見なくても、いいんじゃないスかね」
そんな事ないと思うね。
「当日は、セルゲイのご飯の分も頑張るよ」
「それはドーモ。
あ、期間は一週間っスよ」
「ア、ハイ」
夜明け前に起きるの、一週間かぁ。
この世界だと、休み抜かして4日だから、まぁいいか。早起き、頑張る。
という訳で、一日目です。
「ついでなんで、なんかあった時のためにルート覚えておいて下さい」
城から城下の広場まで、秘密の地下道を通ってきました。
「こんなあっさり秘密の道を使うとか……」
「だから、俺と殿下だけで来たんスよ」
「いや、だって出入口抑えられたら、意味なくない?」
しかも、途中の道も別に複雑じゃない。全然迷路とかじゃなかった。他の出入り口もあるから、一本道ではないというだけだ。しかも方向などの表示もあるから、覚えるのも難しくない。
「大丈夫。見られてないんで、正確な場所は分からないっス」
「そうかな?」
城の中庭に行くところを目撃された後、中庭の入り口から地下道に入って、屋台のある広場の近くの建物の一階に出てきた。
広場には、今日護衛してくれる騎士8名が、屋台を運んで来てくれているので、出口の場所もそこそこバレているんじゃないだろうか。
「相手は厳選された騎士だけですし、何よりも通路の目的が、市街に魔獣が入り込んできた時の王族の緊急出動用なんで、そんなに気にしなくていいっス」
「あ、そう」
対人戦争的な事は、考えなくて良かった。思っていた用途と違う。王族の緊急出動用って……。
「アレクサンドラ様、屋台の準備をお願いします」
「あ、はい」
カルチャーショックはひとまず置いておこう。
初日なので、屋台の使い方をレクチャーしてもらう。
魔道具製作第3課所属の職員さんに来てもらっている。
開発員はマッドサイエンティストなので、普通の人をお願いした結果、補助職員さんが選ばれている。
早朝に付き合わせてしまって申し訳ない。
「設置は、流石にアレクサンドラ様の体格では厳しいと思いますので、騎士の方にやってもらっています。
流しが取り付けてありますが、使える水量に限りがあります。
特に排水に注意して下さい。拡張してありますが、それほどの容量がありません。残量の表示がここにあります」
メーターの横に排水が必要な目安が書き込まれている。そこまで行っても使いたい場合、排水タンクを空ける必要がある。今回は営業時間も短いし、最初のタンク容量だけで賄うのが目標。
一方の給水は、魔石を利用しているそうだ。排水タンクに収まる位の魔力量までしか充填されていない。
「加熱のオンオフは、この部分です。
オンの時は、……このようにして安全装置を解除しながら行って下さい。
オフは、このようにワンタッチで出来ます。
火力調整は、弱と強の二段階です。
十分温まったら弱でキープして、冷めてきたら強にして下さい。
目安は、鉄板に取り付けてあるこの石の色で見て下さい。
それから、緊急用の急速冷却がここです」
使い方は前世のガスレンジに似ていて、簡単。
鉄板のど真ん中に、温度計用の小さな宝石みたいなものがはめ込まれているのが、焼くのにちょっと邪魔かもしれないが、温度が分かるのは便利だ。温度の冷→熱に対して、色が青→黄→赤→白に変化する。青だと調理には低温すぎるが、白まで行くと危険で、黄か赤で使えばいい。
「大丈夫そうですね。
後は魔力の補充ですけど、予定の時間ならもつと思いますので、……どうしましょうか?」
職員さんは、私の作業を確認した後、セルゲイに向かって質問している。
「一応やり方だけ、殿下にも覚えてもらいましょうか。
殿下は勝手にやらないで、事前に必ず俺に知らせて、俺が許可してからにして下さい」
「私が勝手にやると、最悪、何が起こるの?」
「爆発ですね。
動力に魔石の魔力を使っていて、魔力の補充が出来るのですが、魔力を込めすぎると爆発します」
セルゲイに聞いたつもりだったのだが、セルゲイと職員さんが軽く見つめ合った後、職員さんが答えてくれた。
「殿下は、魔力を絞るのは得意そうっスけど、加減を間違えて爆発させる位の魔力量は十分持ってますから。
今度、訓練場で爆発させて、加減を確認してもらいましょうかね」
この世界の王族とは、一体……。
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