屋台の営業許可
「……という感じですので、お好み焼きのレシピは料理長にお任せしたいと思っています」
「良いわよ。
この国では王族であっても、野営に必要な事は習得しておく必要があるけれど、逆に言えば、それ以上は要らないから。
あ! でもアレクちゃんが作ったオコノミヤキは、食べてみたいわね」
「わたしも! わたしもアレクの作ったの食べたい」
「私は構いません。どうやったら母上と姉上にお出し出来ますか?」
今日は安寧の日、つまり休みなので、母と姉と過ごしている。
母の私室スペースなので、女性の護衛や使用人は居ても、セルゲイは居ない。
ちなみに、ランタン達はもちろん私に憑いている。いつ見ても機嫌良さそうで羨ましい。
「アレクちゃん。報告が終わったら、口調は戻して良いのよ。
焦らなくて良いけれど、公式の話し方はまだ練習が必要ね。
アレクちゃんのオコノミヤキは、レシピが決まったら、安寧の日の昼食に出来るように手配しましょうね。
そう言えば、屋台で作るって事は、野営でも出来るのかしら?」
「鉄板があれば、出来そうですかね?」
BBQ的に作れそうな気もするが、前世の設備がそれなりに整っている場だった気もする。
「じゃあ先ずは、わたくし達相手にお外で作ってみましょう。
屋台の準備が出来たら、城下でしばらく実際にやってみると良いわ」
「え? そんな事、してもいいんですか?」
王族の教育で、平民相手にお好み焼き作るとか、随分先鋭的というか、前世の感覚的に馴染まないが。
「良いわよ。
セルゲイ達の言う事をちゃんと聞いてね」
「はい!」
「……という訳で、期間限定で屋台の営業許可が下りそうなんだけど」
「…………分かりました」
セルゲイは、手で目元を覆っている。
「セルゲイ、大丈夫?
無理してない?」
「無理はしてないけど、無茶をさせられてるっス」
今世の辞書で、無理と無茶の意味を調べてみた。
無理:困難な事。
無茶:度を越している事。
「セルゲイ、大丈夫?
ダメならダメって言ってね」
「いや、大丈夫っス。
色々やってみて欲しいって言ったのはこっちですし。
人があんまり居ない早朝とかになると思いますけど、それは勘弁して下さい」
「……それは、逆に何か練習とか、データ取りになるの?」
周りに無駄に負担かけてるだけでは?
「少しは客も居ますし、夜勤明けの騎士の飯になれば良いかと」
「じゃあ、よろしくね」
周りのメリットになるところがあるなら、こっちに文句は無いよ。
その後先ず、料理長監修で母と姉にお好み焼きを振舞う事になった。
「本日のレシピは、王妃陛下と王女殿下に召し上がって頂きますので、平民向けとは異なります。
焼き方は一緒でございますね」
生地は既に料理長が用意済み。
前世のお好み焼き屋で、焼きだけ客がやるみたいな感じかな。
使っているのがコカトリスの卵なので、卵を割ってかき混ぜるのを焼く直前にするのは厳しい。
「焼く前の生地を冷蔵保存しておかないといけないかなぁ」
「平民向けの卵は小さいので、都度作るのは可能でございます。
手間が増えますので、むしろ待ち時間を長くしない様な工夫が必要かもしれませんね」
「そうかぁ」
材料の保管とか、手間とか手順とか、実際にやってみた方が必要な事は分かりやすそう。
やっぱり、屋台はやらせてもらおう。
きっと子供の頃しか出来ないと思うし。
生地を温まっている鉄板にのばし、銀の覆いで蒸し焼きにする。
「アレクサンドラ様! こちら、準備したマヨネーズでございます!」
料理長がテンションが殊の外、高い。
私が、卵を紫外線で殺菌し、医療用アナライズで確認してから作ってもらっている。
作成後も、確認済みである。
「平民向けに出来る事じゃないっスね……」
その通りなのが、残念。
私が管理する屋台で、問題無く出せるようになったとしても、平民が勝手に自分で作って食中毒を起こすと問題なので出す訳にいかない。
マヨネーズのレシピが、かつて一度は広まってしまったせいだ。
今は忘れている人の方が多い様だが、覚えている人もいて、今でも時々マヨネーズの食中毒報告例があるそうだ。
平民でも出来る食中毒対策とセットにしないと、マヨネーズは解禁できない。
こちらの世界のサルモネラ菌が、前世より強力なので、道のりは遠い。
「マヨネーズの容器も、アレクサンドラ様のご要望通りに作っていただいておりますよ!」
料理長の言うマヨネーズの容器は、前世の一般的ものではなく、お好み焼き屋で店員さんがパフォーマンス的にちょっと離れたところからかけてくれるタイプのである。
話はしたが、断じて要望はしていない。
「そう言えば、屋台とかマヨネーズの容器とか作ってくれた魔道具第3課の人達が、アレクちゃんに会いたがってたわよ」
「……屋台が落ち着いてからでもいいですか?」
マッドサイエンティスト系の人間の相手は、一度に一種類までにしておきたい。
お好み焼きの片面が焼けたので、肉を乗せてひっくり返す。
「わぁ! アレク、すごーい」
「え? ありがとうございます、姉上」
難易度の低い広い鉄板でひっくり返しただけだったけど、思いの外、褒めてもらった。
再度、クロッシュで蒸し焼きにする。
「アレクサンドラ殿下は、……器用っスよね」
「セルゲイ? 今の間は何かしら?
何故、一度わたくしを見たの?」
「いいえ? 何も?」
セルゲイと母の間に、目には見えない火花がちょっと散っている。
平和な休日の昼にやめて欲しいものだ。
今日は、天狼と初めて会った屋上で鉄板を出してもらっている。
プライベートスペースでは無いので、セルゲイも居る。
「やぁ、やってるね。ちょっと寄ってみたよ」
「お父様だー」
今世の父がやって来た。父に駆け寄った姉を抱き上げている。平和な光景だ。
「間に合って良かったですわ。
仕事はもう大丈夫ですの?」
「いや、ちょっと抜けて来ただけだ」
姉を抱いたままの父に母が声をかけている。
「父上、お休みの日もお仕事しないと間に合わないのですか?」
母や護衛の勤務を見る限り、前世の様なブラックではないと思っていたが、やはり国王ともなると違うのだろうか。
「間に合わないというのではないかな。
どうしても気になってしまってね」
「気持ちは分かりますが、休む時は休んだ方が仕事の効率も良かったりしますよ」
子供のセリフではないと思うが、なんか言ってしまう。
「そうだね」
ちょっと苦笑しながら姉を下した父に、頭を撫でてもらう。
「今のアレクサンドラ殿下が言っても、説得力は無いっスけどね」
「わたくし達のお昼を作っているものねぇ。
お休みを潰しちゃったかしら。大丈夫? アレクちゃん」
「好きな事してるだけなので、大丈夫ですよ」
生地が焼きあがったので、料理長が用意したソースを刷毛で塗る。
「アレクサンドラ様! マヨネーズです!」
テンション上がり過ぎの料理長から、パフォーマンス用マヨネーズを渡される。
「上手く出来るかなぁ」
多分、前世でもやった事無いよね。
「よっと、お、いい感じ」
「すごーい!」
「まぁ!」
「ほぉ、アレクサンドラは器用だね」
かつお節を乗せて完成。
残念ながら、青海苔は今回は無し。
料理長が悔しがっていたので、きっと近いうちに手に入ると思う。
一度に4枚焼いたのを、皆で食べる、と言いたいところだが、材料の魔素量的に食べられるのは、両親と姉と私だけだ。
セルゲイや護衛達の分は、料理長が焼いてくれている。
「おいしー!」
「本当に美味しいわ。ありがとう、アレクちゃん」
「うん、美味しく出来てるよ、アレクサンドラ」
良い休日のひと時だった。
読んで下さってありがとうございます。




