料理長のソース
「アレクサンドラ様!
オコノミヤキのソースの件で参りました!」
料理長、元気だなぁ。
成人した娘さんが居る中年で、この世界としてはそこそこの年寄りなんだけどね。
「……っ」
何か言いかけていたらしいセルゲイが、慌てた様子で引いて行く。
目で追ったら、見ないでくれというジェスチャーをされたから、多分隠形を使っているんだろう。
要らない心配だと思うよ。
「料理長、そっち座って。
ソース、どうにかなりそうなの?」
部屋の応接スペースに移動してもらう。
「おお! 流石、アレクサンドラ様。話が早くて助かりますな。
これらが、わたくしめが試行錯誤を凝らしたソースでございます」
「……わ、わぁ、スゴイねぇ……」
ざっと見ただけでも50本以上の小瓶が、料理長によって手早く並べられていく。
それぞれに味見用と思われる小さじが準備されていて、至れり尽くせりっていうか、私の舌がもつか、心配だ。
メイドさんに頼んで、飲み水を用意してもらう。
前世の様なソースは、元日本人農家ゼリマノフさんがある程度、形にしてくれていた。
料理長は、そのレシピを暇を見つけては改良をしていたようだ。
「さ、どうぞ。アレクサンドラ様。
こちらがゼリマノフ様のレシピのソースでございます」
料理長の説明を聞きながら、味見をしていく。
ゼリマノフさんのソースは、サラサラしていて、味もちょっと物足りない。
本人の手記でも、前世のソースは再現出来なかったとあったはずだ。
今では使われなくなってしまったレシピだが、これも再現してくれたようだ。
オタク心を感じる。
それから、今の料理長の一つ前の料理長が改良して、使っていたレシピ3種。
物足りなさは大分解消している。
3つのソースの味の違いは、かなり少ない。
「原料の入手状況によって使い分けていたそうです。
出来る限り、同じような味になる様に心掛けていたとか」
その時の最も美味しいも大事だが、プロの料理人ならば、いつも同じように美味しいも大事だよね。
ぶっちゃけ、この前料理長のソースでそれなりに満足なんだけど、料理長の話がここで終わる訳がない。
「……こちらのソースは、原料に……を使用し、……こちらは辛みを……、……」
「これは香りは良いけど甘味が強すぎて大人より子供向けかも。こっちは味がちょっとくどいけど薄味の料理と合わせると良いかな。そっちは……」
料理長の説明を聞きながら、味見をして感想を言っていく。
「このソース、結構近いと思う」
「そうですか?
でしたら、こちらは原料の魔素量が多いので、平民向けには、これが良いかもしれませんね」
料理長は流石、重度の料理オタクなだけに、持ってきたソースは全てそれなりの完成度があると思う。
一方で、私の舌にはちょっと問題があった。
「殿下は魔力量が高いんで、平民向けの味見には適さないっスよ」
受け入れられる範囲ならば、魔素量が高い方が品質も高く感じられる。
私は生まれた時から、魔力量を上げるために、出来る限り魔素量が高い食事を摂り続けている。
結果として、魔素量が少ない食材だと品質が低く感じられてしまうのだ。
なんか鮮度の落ちた食材みたいな気がしてしまうんだよね。
「セルゲイ、それ、分かってたんだったら言っておいてよ」
料理長がソースの話に夢中になっている間は、自分に興味を示さない事が分かって、セルゲイも隠形を止めている。
料理長の魔力量では、王族用の高魔素量の食事は、ちゃんと味見が出来ない。
それを経験などでカバーしてる料理長は、思った以上にスゴイ。
「いや、殿下は出されたものは特に何も言わずに、何でも召し上がってたんで、それほど味に拘りがあるって思ってなかったっス」
なんと、私が50種にも及ぶソース全てに異なる感想を言っていたのが、衝撃だったらしい。
味以外にも出来るだけ香りの感想を言ったり、向いている使い方の予想を料理長と話したりしていたのだ。私は結構楽しかったが、セルゲイ的にはちょっと引いてたみたいだ。
「セルゲイも、味見手伝ってよ」
「俺は、別に食事に拘りがないんで、そんな何種類も感想言えないっス」
「では、5種類ほどに絞りましょう。
アレクサンドラ様がお選びになったソースと、コストや魔素量から代わりになりそうなソースの味を見て頂ければよろしいかと」
「……ハイ」
料理長が選んだソースは、私が選んだのと合わせて7種類になっていた。
「……これとこれは違うと思うんスけど、それ以上は分からないっス」
「では、候補はこの4種類でございますね」
「これも外してもいいかな、と思うけど、お任せするね」
「かしこまりました」
「……二人は、何故そんなに元気なんスか」
「セルゲイこそ、ちょっと味見しただけで、疲弊し過ぎじゃない?」
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