迷宮貨
「この大きさが小貨、こっちが大貨、これが半貨っス。
平民の普段の生活だと、ほとんど銅貨しか使わないっスね」
大貨が小貨の10倍の価値がある。
半貨は、大貨の半分の意味らしい。
イメージ的には、小銅貨が100円、銅半貨が500円、大銅貨は1000円を硬貨にしたような感じだろうか。
小貨は、前世の1円玉よりも少し小さい気がする。
逆に半貨は、500円玉よりも大きい。
「大貨が小判型なのはともかく、半貨が正円なのが紛らわしいかな」
大貨の上に、半貨を二つ並べて奇麗に乗る。
「そうっスか?
価値と重量が合ってるんで、手に取って間違う事は無いと思うっス」
大貨1枚は、半貨2枚分、小貨10枚分の重さがある。
合わない面積の分は厚みが違う。
同じ材質同士なら、重量比と額面比が等しい。
これらのコインは、本来は通貨では無かったらしく、模様はあれど、額面の表記は無い。
半貨が小貨5枚分というのは、覚えておく必要がある。
この世界は、先史文明のやらかしのせいで、一周回って物々交換に近い本位貨幣に戻っている様な状態だ。
コインの材質は、銅、銀、金、そして特殊な魔石が確認されている。
完全な本位貨幣と言えないのは、これらのコインが迷宮産だからだ。
「迷宮貨は、特殊な魔力でコーティングされてて、同じ物を作る技術はもう伝わってないんスよ」
つまり、偽造のみならず、造幣が不可能。
迷宮産の貨幣だから、迷宮貨と呼ばれている。
世界的にこの迷宮貨が使われているようだ。
本格的に流通が行われると、色々困った事が起こりそうである。
経済圏が小さくて、交易が物理的に大きく制限されている、今のこの世界ならではの通貨だと思う。
実際の価値は、小銅貨1枚が前世の100円かな、と思っている。
世界の事情が違うせいで、物価が前世と一律に比べられる訳じゃないから、予想だけどね。
肉串の屋台だと、お試し用の小さな串一本が、小銅貨1枚。小さな串、と言いつつ、前世の焼き鳥の串よりもちょっと大きい。
BBQ用の鉄串の様な、1本でそれなりにお腹いっぱいになる大きな串が一本で、小銅貨3枚。
大きな串に、パンやスープなどとセットで、銅半貨1枚、つまり小銅貨5枚。
串や容器は返すのが基本。持ち帰る場合は別料金で、本体と同額が多いらしい。
宿は一泊、大銅貨1枚から数枚程度。
サービス内容によって価格が違う。
全体的に、前世のような行き届いた宿では無い様なので、安いとは言えないと思う。
曾祖父様が結構頑張ったらしいのを、囚人その一が駄目にしたんで、計算がほとんど出来ない人も多く、価格設定で端数が無いのが基本のようだ。
なお、大銅貨10枚で小銀貨1枚分の価値、大銀貨10枚で小金貨1枚に相当するので、計算は楽である。
これは、本当に助かる。
前世の江戸時代とかの銀から金の換算も、10倍や100倍じゃなかったからね。
「迷宮の事は前に少し聞いたと思いますけど、迷宮の中には魔物や魔獣みたいなのが居るんス。
見た目も脅威も、魔物や魔獣と一緒なんスけど、倒した後に死体が残るんじゃなくて、アイテムと迷宮貨が残るんスよ。
そんで区別のために、迷宮の中に居るのはモンスターって呼んでるっス」
自分の中では迷宮=ダンジョンなのだが、残念ながらダンジョンと発音してしまうと、地下蔵の事になってしまう。
諸々が、ゲームのダンジョンと良く似通っているので、脳内変換でダンジョンに出来ないのが残念だ。
「何でアイテム化するのかは、良く分からないっス。
モンスターが迷宮の魔術で出来てるんで、斃すとその魔術が破れて材料に戻るってのが、一般的な説っスね。
迷宮が何のための施設なのかも分かってないっス。
迷宮が、先史文明の終わり頃に造られたらしいのは分かってて、世界中に似たような迷宮があるんスよ。
この国にも何か所もあります。
その内、連れていきますよ。
モンスターは普通は迷宮から出ないし、もし出ても数日でアイテムになるんスけど、迷宮をあんまり放っておくと、モンスターが溢れてきちゃうんス。
普段は迷宮探索者任せっすけど、手に負えなくなったら、王侯貴族の出番っス」
何か、この世界の王族って、最終兵器みたいな扱いだよね。
迷宮の攻略法を軽めに語ってくれるセルゲイの話を、改めてダンジョンぽいと思って聞きながら、迷宮貨を手に取って見る。
教材兼お小遣いとして、金銀銅各種の迷宮貨を一揃いどころか、ある程度もらった。
大金貨とか子供のお小遣いの額では無いのだが、どうせ一人で勝手に使える状態にも無いので、構わないらしい。
ちなみに、プラチナは、この世界にあるかどうか微妙なところ。前世のプラチナは、隕石由来で地球に元々無かったという説に加え、融点が高いため、利用される様になってからの歴史が金銀より圧倒的に浅い。今世は機会があったら、探すのもアリかも。
「……殿下は、何で銅貨が一番のお気に入りなんスか?」
「気に入ったとはちょっと違うと思うけど、魔力コーティングの影響が一番分かりやすいからかな。
酸化してなくてピカピカしてるじゃない」
もらった銅貨はそれなりあるのに、黒ずんだ銅貨が一切無いのが、前世の感覚からすると少し不思議である。
「……殿下は、銅が何故黒ずむのか、分かってるんですね」
「? 金属は、錆びるものじゃない」
「鉄が錆びるのは知ってますけど……」
「アレクサンドラ様!
オコノミヤキのソースの件で参りました!!」
突然、凄い勢いでドアが開いたと思ったら料理長がやって来た。
本来、取り次ぐはずの係の人が素通りされて、オロオロしている。
護衛騎士達は、呆れた顔で料理長の肩を掴んでいる。
ま、やって来るとは思っていたさ。
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