不合格、のち……
「ッギャアアアーーーーー!!!」
目~が~ま~わ~る~。
***
「そろそろ、大丈夫っスか?」
「うっ、ま、まだ、もうちょっと」
「しょうがないっスねぇ」
斃したワイバーンを目で追っていたのだが、突然ティランが落下するワイバーンの周りを高速で回るように動きを変えたのだ。
セルゲイが言うには、落下の衝撃でワイバーンがダメにならない様に、風魔術で落下をコントロールしていたらしい。
そんなティランに乗っていたこっちは、たまったもんではない。
すっかり目を回してしまい、地表に着いた後、休ませてもらっているところだ。
天狼という強者が近くにいるため、魔獣に襲われる心配は無い。
「「らんた~ん」」
ちなみにランタン達は、私がティランに攫われた時もワイバーンを斃した時も、ずっと一緒にいた。
天狼に付いて来れる飛行能力を持ってるようですよ。
邪魔にならない位置取りをしてはいるものの、気が散るので、意識の外に出していた。
赤ん坊の時からいつも一緒に居るから、居るのが当たり前になってるし。
「らんたん?」
「うん、ありがとう」
さっきランタン達が何かしてくれたようで、ようやく回復してきた。
「はぁ。よいしょっと」
完全に寝転んでたのを、半分起き出して、足を投げ出して座った状態になる。
「やっと起きました?」
ワイバーンの体に時間経過を緩やかにする魔道具を取り付け、王城と近くの集落に連絡を入れて待機していたセルゲイがやって来る。
私の傍に寝そべっていたティランも、のっそりと立ち上がる。
「初戦だし、良くやりましたって言ってあげたいとこっスけど、
不合格っス」
「は?」
「毒物使って斃したんスよね」
「勿論」
「肉が食べれないんで、不合格っス」
「え?」
いつの間にかセルゲイの隣に移動したティランが、同意するように溜息を吐いているのが、そこはかとなく腹立たしい。
本来なら絶命したワイバーンの処理は、セルゲイだけでも最低限は行えるものだそうだ。
しかし今回、私がかなり強力な毒を使用した様だったので、手が出せなかった。
ワイバーンの肉は、魔素量的に貴族以上でないと食べれないが高級食材だし、皮も防具に適しているし、翼や牙を含めて全身かなり利用価値が高い。
しかし、危険度が高くて正体不明な毒に侵されているため、手が出せない。
利用度の高い物が利用出来なくなったため、不合格、との事。
「い、いや、解毒出来る! 解毒出来るよ!」
そのために、ヒ素は選ばなかったんだし。
「どうやって?」
「え、たしか、何とかを嗅がせて、何とかを飲ませる……」
シアン化合物は誤飲した場合、そのものよりも発生するガスの毒性の方が危険とかのような。
「思い出せないんスね?」
「いや、解毒出来る! 解毒出来るよ!」
そもそも、評価が厳しすぎるんだよ!
***
「ったく、4歳にしてワイバーン楽勝とか、規格外過ぎ」
セルゲイの見つめる先には、仕留めたワイバーンを解毒しようと奮闘しているアレクサンドラの姿。
「魔力もまだまだ余裕って感じ」
目を回しただけだと言うので、特に回復も行っていないのだ。
先程のワイバーン戦、回避は全てティランが担っていて、防衛を考えなくて良かったとは言え、攻撃は全てアレクサンドラが一人で行って斃している。
なのに、明らかに手加減して攻撃していた。
翼を傷つけたいなら、弱い皮膜部分を狙えば簡単な事を分かっていて、付け根にしか攻撃が当たらないように調整していた。
思ったより効かないと言っていたのは、生体防御を計算に入れそびれたからだろう。
完全に切り離されると回収が面倒だから止めたが、翼を落とす事を考えていたと思う。
毒は、必要量を計算して使っている。即座に解毒出来ると言っている辺り、事後を考えて選んでいる。
弱肉強食のこの世界であっても、生き物を殺したり捌いたりするのは、最初は抵抗がある。
生きるために必要だから、慣れていくだけだ。
ニホンからの転生者の中に、命を奪う事への忌避感が強すぎてどうにもならない者が見つかってから、十数年が経っている。
平民階級であればまだ、他の転生知識を駆使して役に立ってもらえれば良い。
しかし、貴族階級並みの特権を享受しながら、前世の感覚を振り回して周囲の秩序を乱し、義務を一切果たさない者達が居た。
「『そんな残酷な事、出来ません』、ねぇ」
その内の一人の口癖だったセリフを思わず口ずさむ。
平民出身ではあっても、奨学生として学園に入学した時点で、貴族に近い特権を与えられていたはずだ。
なのに自覚がない。
周りの状況を見ていない。
前世の期間が十数年しか無かったため、前世の記憶で有用なものもあまり無い。
魔力量の豊富さを買われて、奨学生になったはずなのに、実践の訓練で動こうとしない。
解剖学も学ぼうとしないので、碌な治癒も使えない。
せめて後方支援として、獲物を捌かせようとしたら「そんな残酷な事、出来ません」
そのくせ、料理された肉は我慢して食べる。
魅了魔術を駆使して何人もの人生を狂わせた罰として、魔獣との戦いに引き出されたが、足手まといでしかなかった。
魔獣に倒された者を目にしながら、攻撃命令に対して「そんな残酷な事、出来ません」だ。
倒された味方は、残酷な目に遭ってるんじゃないのか?
理解出来ない。
今は、平民出身としては異例の貴人牢で、魔力を搾り取られたり、様々な実験の被験体になったりしている。
セルゲイは、人生を狂わせられた訳ではないが、十分不愉快な目に遭わされた。
「あれで、未だに魅了魔術では国の女性で一番の使い手とか、タチが悪い」
研究が進んで魅了魔術が使えるようになった者は、相手の自由意思の範囲で、自分への好感度を上げられるだけ。問題を起こした者の魅了魔術とは違う。
「『隠しキャラ』って何スか?って聞いたら、姫様は答えてくれますかね?」
何となく、半目になったアレクサンドラが想像されて、ちょっと笑ってしまう。
思えば、アレクサンドラは最初から、少し様子が違った。
ニホンからの転生者が嫌がりそうな状況は、確かに嫌がって見せる。
解剖学とか、王蜂に近付けたりとか。
それに対して、悲鳴をあげたり、後で怒って見せたり。
でもちょっと余裕がある感じがする。
唯一本気で怒ってるみたいだったのが、バロメッツの目の焦点の事を予め伝えなかった件な辺り、何かがズレてる。
そして、慣れるのが早い。
「命を奪う事が怖い」と言う時の心のこもらなさも、気にかかっていた。
命を奪う事に忌避感を感じているのは間違いない、命を奪ったり傷つけたりを出来るだけ避けようとしている。
しかし、本気で命を奪う事を怖がり続けていた者と、逆に慣れ過ぎで何とも感じなくなりつつある事を危惧していた者、両方を見てきたセルゲイからすると、アレクサンドラの様子は、後者に近い。
極め付きが、今回のワイバーンを斃した後の眼差しだ。
「一体どんな前世を送ったんスかねぇ?」
長い人生の中で、守るために命を奪う側に立っていた時間があったのは確実だろうと思っている。
***
「解毒出来たよ!」
力技で、全てのCN三重結合を切ってやってやったぜ。大変だった。
「マジっすか? 調べますよ」
小型の魔道具を取り出して調べるセルゲイ。
小型とはいえ、腰に付けた鞄に普通に入るサイズではない。マジックバッグだぁ。
マジックバッグをよく見ようとして近づくと
「毒見終わりましたよ」
早い。
「大丈夫だったでしょう?」
「まだ、毒味が必要ですけどね」
「?」
道具や魔法で調べるのを毒見、食べて確認するのを毒味。
発音の差、ビミョー。
大分しゃべれるようになったとはいえ、まだ外国語状態の身には厳しすぎるヒアリング。
取り敢えずの安全は確認が出来たという事で、応援に来てくれた騎士達が、解体して持って帰って来てくれるそうだ。
その後は、囚人を使って毒味して大丈夫だったら、食卓に上がるとの事。
囚人、ねぇ。
一応、ワイバーンをもう一度「アナライズ」、大丈夫なハズ。
「認めて差し上げますよ、アレクサンドラ殿下」
上から目線ですねぇ。セルゲイの立場って割と謎だよね。
帰りましょう、と言うセルゲイに促されて帰る。
元より、こんな所に長居するつもりはない。
ところで、何で呼び方変えたの?
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
他の作品とは異なり、この作品は、
書く事を辛いとしか思えなかった私が、
自分のために、書く事自体を楽しむために書き始めた物でした。
そのため、読んでみて「なんか違うコレ」みたいな事を減らすために、
門戸を広げておくべき第一話で門戸を狭めてみるとか、
あらすじに注意書き入れてみるとかしてありました。
そんな物を投稿するな、というところですが、
誰にも読まれる予定の無い物を書く気にはならないもので、
行きずりの誰か、ほんの何人かが読んでくれるかもしれない、
そういう状態にする事ではじめて、
書き続けたり、見直したりする事が出来ました。
思ったよりもずっと多くの人に読んでいただけて感無量です。
ありがとうございます。
完結みたいな事を書いていますが、
この話は、むしろこれからが本番。
ここまでは、世界の説明と主人公の紹介です。
それだけで9万文字使ってるとか、文才無いにも程があるよね。
色々拙いので、書き直しも考えてはいますが、
まだしばらくは、書き続けるつもりです。
よろしければまたお付き合いください。




