ワイバーン戦
私達を乗せて、穏やかに魔境の上空を飛行していたティランだったが、どうやら手頃な獲物を探していたらしかった。
群れで行動するのが基本のワイバーンが、一頭だけ飛んでいるのを見つけるや、それまでも結構なスピードだったのを急加速して、はぐれワイバーンの元へ。
というか皆、察知早いな。
私は、天狼にしろワイバーンにしろ、あんな離れてるの見つけるの無理。
翼竜は、翼の皮膜以外の全身を緑の鱗に覆われている。嘴のように尖った口からは、鋭い歯が並んでるのが覗ける。胴体の大きさは天狼より二回りほど小さいが、しっかりとした翼と長い尾の分、全体は天狼より長い。
飛びながらでも、長い尾を器用に動かし尖った先端で攻撃が出来る他、口からバスケットボール位の火球を吐く事が出来る。尾の先端には毒があるそうだ。
……何で、こんな解説出来るかって?
ティランが、ずっとワイバーンと付かず離れず並走するように飛行してるからですよ……
「姫様に倒させようとしてるんスよ」
「……それは、もう分かるよ」
飛行能力は天狼の方が圧倒的に上らしく、ワイバーンの攻撃を容易く避けながら、ワイバーンの斜め上という優位な位置をキープしている。
そして、時々私達をというか私をチラチラ見てくる。
……普通、初戦ってもっと雑魚じゃないですかね。
最初は、しがみついているのが精一杯だったのが、流石に慣れて観察できるようになったけど、どうしようかねぇ。
「向かってる方向が不味いっス。辺境の集落に向かってるっス」
「私達のせいだね……」
最初にワイバーンが向かっていた方向は違ったのだが、ティランとのやり取りで、向きが変わってしまっている。
ワイバーンは好戦的な肉食獣なので、人里を見つければ間違いなく襲ってしまう。
「……っ伏せて!」
考え込んでる間に、ワイバーンが真上に移動しつつあった。
先に気付いたセルゲイが体で私を庇ってくれるが、
「射線空けて!
紫外線レーザー!!」
外れても上空に飛んでいくだけならば、遠慮はいらない!
波長が短ければ短い程強力だが、放射線までにはしたくないから、紫外線が限界。
その分、魔力を込める!
狙いは、翼の付け根だ。
「ギョアアア!!!」
聞き苦しい悲鳴をあげるワイバーンだが、
「っく。思ったより効かない」
「いや、効いてるっス。
もう翼には飛行能力は無いでしょう。
風魔術は、飛行に割り振るしかなくなってるっス」
「っく、ここまでか」
ワイバーンが徐々に高度を下げてきたため、再び外れたレーザーが地表に向かってしまう可能性が高くなってしまった。
「このままでも落ちる可能性はありますけど、集落が襲われる危険が増してると思うっス」
「そう、……セルゲイに任せた方が良い?
被害を最小限に出来る?」
「いや、俺だとまぁ、相討ちってとこスかね」
「分かった」
***
この世界に転生して、魔術を教わって、気付いた事がある。
思った以上に容易く操れる魔力。
分子式を思い描くだけで生み出せる化合物。
然したる苦も無く射出出来るレーザー光。
……私は、この世界でどれ程効率的に、殺戮、破壊が出来る事だろう。
この世界の生き物は丈夫だから大丈夫、と言ってもらったが、それはうっかりで傷つけてしまわない位の安心感。
生き物の体内に働きかけるならば、それは困難だが、外側はそうじゃない。
『前世の知識』と合わせれば、何とでもなる。
例えば、建物の中に一酸化炭素を充満させれば?
容易く、大量殺人が出来るだろう。
そして、さらに気付いた事がある。
私の前世は、恐らくそれほど一般的な日本人ではない。
怖かった、自分自身が。
前世で意図的に人を殺した人間が、この世界に転生した事は無いというし、私の前世も殺人者では無いという確信がある。
でももし、犯人が今まさに誰かを殺そうとしていて、止める方法が犯人を殺害するしかないんだったら。
判断の後ならば、躊躇なく犯人を殺すことが出来る。
私は、そういう人間だと思う。
そんな人間が、こんな弱肉強食な世界に転生して、生まれつき大きな力を持っていて、それを振るう事を求められる環境に居る。
はまりすぎじゃないか。
何処で止められるだろう。
止めてもらえるのか。
前世の普通の日本人のように命を傷つけるのが怖いと、口にしながら、ずっと悩んでいた。
同時にずっと考えていた。
例えば、
強さでランキング20位くらい。
人間一人に対して、効果を発揮する必要量、わずか0.5g。
特筆すべき即効性。
あまりにも有名であるためか、大した事ない、なんて意見も時々見られるが、十分大した事ある。
そして、ランキングにある他のものに無いある特性。
***
「ティラン、お願い!
ワイバーンの斜め前に行って!」
通じるかどうか分からなかったが、意図通りに動いてくれた。
ワイバーンの体に、一瞬だけレーザーを打って、口を開けさせる。
「ギョア!」
ワイバーンの体重を、前世の小さめの象と同じ位とすると5000kg位。
致死量LD₅₀は、その量で死ぬ確率50%。
さらに、この世界の人間の大きさが、前世の半分位の可能性を考慮。
これ位あれば、オーバーキルのはず。
「KCN!」
有名どころの毒物の中で、圧倒的に簡単な分子式。
ワイバーンの開いた口の前に、必要量を生成、狙い通りに口内に吸い込まれていく。
強いて言えば、酸素を必要とする生き物にしか効果が無いが、ワイバーンでそれは杞憂でしょう。
「ギョフッ」
泡を吹きしばらくもがいた後、体の動きを止め急降下していくワイバーン。
絶命したか確認するためにも目を背けない。
後悔はしない。しないと決めた。
手負いのまま、人里にたどり着いてしまったなら、回復するために人を襲って食らうはず。
この世界の生き物は丈夫だからこそ、中途半端に傷つけて放置すれば、後難を残す。
でも、正義は名乗らない。
言い訳はしない。
正義という言葉に酔いしれれば、命を奪う懊悩を感じずに済むだろう。
でも、それを受け入れてしまえば、味方ではないと断じたものを際限なく殺戮していくだろう。
正義感が強いと、暴力的であるという事実は、現実的にはよく似てるよと、私の前世が囁いている気がする。
あのワイバーンが、この弱肉強食の世界に生きて、弱い人間を襲って生きていたのと同じように。
私もまた、この弱肉強食の世界に生きて、自分が生きるために、自分より弱かったワイバーンを倒しただけだ。
そうして、あのワイバーンがそうだったように、生きるのに必要な分だけ殺す。
私は、この世界でそうやって生きていく。
読んで下さってありがとうございます。
クライマックスの方向性が違っててすみません。
念の為、繰り返しますが、
主人公の前世は犯罪者ではありません。
完全犯罪だった、とかも無いです。
でも、警察や自衛官だった知識も持っていません。
前世設定はあるんですけど、面白くないので、書くかどうかは微妙。
青酸カリの致死量は、資料により違ってまして、
成人一人0.2gという記述もあります。
現実的には、桁が合ってればもういいって感じなんでしょうね。
実験して確かめる様な事でもないですし(^^;)
ちなみに、対処法は大雑把に
直ちに吐かせる→亜硝酸アミルをかがせる→チオ硫酸ナトリウムを飲ませる
です。
使わないと思いますけど、この説明は大雑把なので、これだけで対処しないで下さい<m(__)m>




