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歴史の授業 アトラスの崩壊


 ザッ。

 敢えて立てた軽い砂利の音。

 指定された開始位置に立つ。


「条件は平等よ」

 相手はそう言って開始位置に向かったが、全くそんなことは無い。


「こっちは隠形から始めるのが定番なんスけどねぇ」

 聞こえない程度にぼやく。


 隠形から始めればこちらだけが有利だが、こんな開けた場所で視認された状態から開始すれば、こちらが不利過ぎる。

 しかし、不利と分かった戦いであっても、譲れないものがある。

 

 相手が手のひらほどの大きさに見える位の距離を取って、向かいあう。

 こちらの準備は既に出来ている。

 相手の準備が整い、試合開始の合図がされる。


 合図で相手に向かって走り出す。

 あちらからは、合図と同時に熱を持った光の塊が飛んでくる。

 軽く跳んで避けたそれは、速度重視にも拘らず地表の砂をガラス化させて、煌きを残している。


 同様の攻撃が次々と襲い掛かるのを、相手に向かって走りながら避ける。

 1つ、2つ、3つ、4つ、5つ。

「……っ!」

 指の長さ二本分の距離で避けた攻撃は、それでもなお、むき出しの頬を焦がしてくる。

 目の近くの負傷という本能的な恐怖を感じる状況にあっても、幾度となく死線を切り抜けた足運びが鈍る事は無い。

 

 さらに続く攻撃を躱しつつ、走りながら練った魔力を小さな刃にして放つ。

 相手の顔に2つ、胴体に1つ、足に1つ。

 

 開始から100数えるほどで相手に辿り着くと、相手が攻撃を振り払う隙に、斜め後ろに回り込んで煙幕を張った。

「ちょっと! アイテム使うの聞いてないわよ!」


 消さずにいたこちらの気配を頼りに、間髪いれずに放たれた範囲攻撃を利用させてもらう。

 方向を調節、拡散する力を収縮。

 攻撃が向かう先の結界は、部下に弱めてもらっている。



***


「……のホットスポットから、アトラス先史文明後期が始まります。

 その頃にはアトラス魔術大帝国を名乗り、領土を大陸全土からさらに拡大していましたから、新たなホットスポットが国内にあったのも当然だったかもしれません。

 異世界ジェネチカからの転生者達により、今では失われた技術である遺伝子工学が栄え、農畜産業から取り入れられて行きました。

 この技術は魔術と同様に、アトラスから世界中に広がり、最終的に世界の滅亡へと繋がる事になったのです」


「先生、ジェネチカからの転生者は「ドーン!」……何、地震?!」

 そんなに技術者が多かったのか聞こうとしたら、城が揺れた。


 この城は、石造りの建物には縁遠い日本人からすると、スペースが勿体ないと思うほど壁が厚い。

 そんな城が、大規模地震直前の縦揺れ位揺れた。

 慌てて立ち上がる。

「先生! 避難とか必要ですか?!」


「アレクサンドラ様、大丈夫でございます。

 本日は、大規模訓練があると聞いております。

 きっと、その影響と思われます」


「あ、そうなんだ」

 じゃあ、大丈b……いや、駄目じゃね。

 この世界、銃火器とか無いはずなのに、何あの爆発音。


 窓から見ようとしたが、方向が違うらしい。

 見学するかどうか聞かれなかったので、このまま授業受けてなさいって事みたいだし。

 とにかく大丈夫、としか言われない。


 気になるが、授業を再開してもらう。むぅ。



***


「ちょっと!

 避けるから、城が壊れたじゃないの!」


「壊したのは王妃様っスよ」


 煙幕と城への被害に相手が気を取られている間に、首に切りつけたが、施された身体強化でむき出しの皮膚にすら傷つけられなかった。

 開始前の交渉で、首筋に刃を向ける事を勝利条件に取り入れられなかったのが、やはり痛い。


 接近戦になってから、相手は自身の体長ほどもある大剣を右手だけで振るいながら、左手で魔力弾を打ってくる。

 対してこちらは、攻撃を避けながら魔力刃を飛ばしているだけだ。

 このままでは、勝ち筋が無い。

 

「しょうがないっスねぇ」


 魔力刃で牽制しつつ跳んで後退し、先ほど破られた結界から外に出る。


「あ、ちょっと!

 そっちは行っちゃダメよ」


 訓練場の周りに張られた結界は通常破られることは無いから、場外は規定されていなかった。


 

***


「……農作物の魔力含有量を上げるために始まった遺伝子操作は、人類自身の改造にまで及ぶようになりました。

 人類への試みは成功しませんでしたが、主要な大陸全てで生態系への影響が出るようになると、変化は雪崩のように加速し、世界は今のような生態系に変わってしまったのです。

 これが所謂『アトラスの崩壊』です」


 ……先生は何事も無いように授業を続けているが、時折轟音がしていて、集中を保つのが難しい。


「あ、あの、五月蠅くないですか?」


「気になるようでしたら、防音を施しましょうか?」

 折角のアンドレイの申し出だが、根本解決じゃないんだよなぁ。

 一応、やってもらう。

 なんか見に行っちゃダメっぽいし。

 


***

 

「俺の勝ちっス」


「ズルいわ。城内を人質に取ったようなものじゃないの」


「ズルいのは、王妃様っス。

 どっちかが降参するまでが条件で、隠形使えなかったら、王妃様の勝ちに決まってるっス」


「だって、可愛い娘に何かしてあげたいじゃないの」


「戦闘指南役じゃなくても、出来る事いっぱいあるじゃないスか」


「もう少し育てばそうだけど、今はあまり無いのよ」


「王妃様、そうでなくても忙しいから……」



***


「という訳で、姫様の戦闘指南役は俺になりましたんで」


「何が『という訳で』か、全く分からないんだけど?」


 授業終わってやって来て、開口一番にそんな事を言われてもねぇ。


「脳筋の王族は、これ以上要らないんスよ」


「聞いてる?」






読んで下さってありがとうございます。


長くお休みを頂いた割に、上手くなってるわけでもなければ、

ストックが出来てるわけでもなくて申し訳ないです。


キリの良いところまでは、以前位のペースで投稿出来れば、と思ってはいますが。。。

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