物理法則を無視してみる
昨日は、地理を習った。
歴史と交互らしい。
「双六みたい」
部屋に貼ってもらった世界地図を見ている。
先史文明がやらかして人類が滅びかかった時、各地に人類が生き残れるような拠点を作り、そこがそのまま国になったり、自然発生的に出来た、強い魔獣が襲来しにくい魔素濃度の薄い地域に人が集まって国になったりしている。
各地にそういう国が点在している。
特徴的なのは、各国を繋ぐルートが限られている事だ。
直線距離は近かったり、地理的に通りやすそうだったりしても、魔素濃度が濃いと魔獣が強くて、人類では行き来出来ない。
そのため、どの国も他国と交易できるルートは、2つ位しか持っていない。
直接交易可能なルートのある国の事を隣国と呼び、距離だけが近い国の事は、東西南北+国で呼ぶそうだ。
人が住む事も行き来する事も困難な地域を、魔境と呼んでいるが、世界の大半が魔境。
この世界の地球儀を見ると、人類の生存地域の小ささが良く分かる。
一方、世界地図はデフォルメされており、国が大きく丸く書かれ、つながりが分かりやすくなっている。
それで双六の盤面みたいなのだ。
「うちの国は、端っこなんだね」
隣国と呼べるのは、北側にある国だけ。
西側に国があるが、ルートが無いので、西国呼び、直接交易出来ない。
東と南は、海。
「おはようございます。
今日は、楽しい楽しい魔術の時間っスよー」
……現実逃避終了。本日は切創の治癒を練習する予定です。
「今日は、物質生成の魔術からにしましょうか」
余程嫌そうな顔をしてしまっていたのか、別の事を提案された。
「お願いします!
……物質生成? とは何ですか?」
「姫様は、メイドさんとかが水を出したりしてるところ、見た事無いっスか?」
「ある。
……あれがそうなのか」
そうだ、この世界、物理法則無視されてるみたいな事があったんだった。
「そうですね。
では、水を出してみましょう」
ボールみたいな器が用意された。
「水を良くイメージして『ウォーター』
さぁ、やってみましょう」
今回は、お手本を見せてもらった、が。
「ウォーター」
出て来ない。
何度かやったが、出て来ない。
「Lv3で物質生成は、ちょっと難易度が高いっスからね。
もっと水をイメージしやすい言葉があったら、使ってみるっス」
水をイメージしやすい言葉、か。
現実の水をイメージしてダメなら、こっちのイメージならどうだ?
「H₂O」
コップに半分位の量が出た。
「聞きなれない詠唱ですが、成功ですね。
慣れてきたら、分かってもらえる詠唱に出来るようにしましょうね」
「Lv3でそれ位なら十分ですよ。
さ、湿布薬作って下さいっス」
……もしかして、そのための予定変更なのか?
まぁ、いいけど。
「結構、匂いが強いから、部屋の中で作るのはちょっと」
「あらあら、窓を開けてもダメかしら?」
「姫様に消臭の魔術を習得してもらうのも有りっス。
さぁ、これに」
ジャムの瓶みたいなフタ付きの容器を渡される。
ガラスも普通にあるんだよね。
窓は開けてもらう事にした。
『前世の知識』の体験知だと、実験後1週間位匂いが染みついてたみたいだし。
水の時と同様、分子構造をイメージして、
「C₆H₄(OH)COOCH₃」
「ケホッ、フタ、フタ」
「確かに、強い香りがしますね。でも嫌な香りではありませんよ。
魔術は成功だと思います。
何をお作りなったか分かりませんので、確実ではありませんけれど」
失敗だと、さっきの水みたいに何も出ないだけらしい。
「どうしたら、目的のものが出来たか、確認できますか?」
「アナライズを使って見て下さいっス」
「アナライズ。
……あ、スゴイ! 分子構造が確認出来る!」
スゴイ! 前世なら、3億円位する機器を使ってやっと出来る事じゃない?
「……大匙1杯位っスかね。
後、どれ位いけそうっスか?」
アナライズの感動は、分かち合って頂けなかった。
というか、
「え?
魔力量はまだ大丈夫だけど、続けるの?」
これまで、魔力消費量的に厳しい事は言われた事なかったのに。
「まだちょっとしか無いじゃないスか。
これだと、湿布1枚分あるかないかでは?」
「薄めて使わないと、皮膚がかぶれると思う」
使い方の知識はあまりないが、結構薄めて使うものだったと思う。
「へぇー、何で薄めるんスか?」
ワセリンとか?
「……ハンドクリームあったから、それでもいいんじゃないかな」
「塗って使っても良いって事スね」
「匂いがスゴイし、ふさいだ方が効果が持つと思うから、塗った後に包帯とかが良いかな?」
使い方は良く分からないので、相談する。
「今日の練習にも使えるでしょうか?」
リュドミラ先生が戸惑いがちに声をかけてきた。
「今日の練習?」
「……切り傷の練習、だったっスね。
行きましょうか?」
「……うん。
あ、サリチル酸メチルは、目とか切り傷とかには使ったらダメな薬だから」
***
「……今日はこれまでで一番、魔力を使った気がする」
「目眩とか大丈夫っスか?
成長期の魔力切れは、無い方が良いっス」
「あ、そうなんだ」
世界観によっては、切らした方が最大値が伸びるとかあるけどね。
「魔力は成長にも関わりますから」
なるほどね。
ランタンに魔力切れにされたのは、割と心配されてたらしい。
ちょっとふらついて見えたらしく、魔力豊富なおやつをもらって、午後はゆっくり過ごした。
パンナコッタみたいなのに、フルーツソースと蜂蜜がかかったもの。
花のような器に盛り付けられ、ソースの色彩が鮮やかで、蜂蜜からは自然な花の香りがする。
舌触り滑らかで、味も上品で美味しい。
双子にもあげようとしたけど、魔力豊富過ぎて、双子にはキツイらしい。
私がふらついてたのは、SAN値が削れてたからだと思うんだけど、お代わりはもらっておいた。
切創の治癒魔術?
ちょっと失敗しましたけど、何か?
目の前で練習材料作られたんで、動揺して、曲がった傷跡になりましたけど?
セルゲイが治してくれた後、完璧に治せるようになるまで、特訓させられましたけど、何か?
体感的には、SAN値ゼロになりましたよ。
***
「お疲れ様っス」
「お疲れ様です。
何かありましたか?」
「これを、中の囚人の瞼に少し塗って、映像記録を残して欲しいっス」
「かしこまりました。
様子を見ていきますか?」
「そうしたいっス」
「ギャアアア! 目が! 目が!」
「……これは何だったんですか?」
「アレクサンドラ様作、打ち身とか筋肉疲労に効果のある塗り薬っス。
目などの粘膜や、切り傷には使用しない、という注意付き」
「なるほど。この映像が無いと、文官が目に使いそうですね」
「やっぱ、そうっスよね」
読んで下さってありがとうございます。




