植物が動くという事は
「姫様、今日言ってた事、もうちょっと詳しく聞いても良いっすか?」
「?
コピー機の話は、あれ以上は無いよ?」
「いや、他に色々言ってたじゃないっスか、冒険者ギルドとか、治癒魔術使いながら何とかがあればって」
「あぁ、何で湿布が無いのかな?って思ったんだよね」
「湿布?
神殿で貼ってもらう事はあるっス」
「前世だともっと手に入りやすかったんだよ」
湿布薬の原料って、そんなに手に入りづらいイメージ無いんだよね。
「あ~。
これは、俺も聞いた話なんですけど。
この世界、姫様達の世界よりも薬の原料が手に入りにくいんスよ。
植物が動くのをゼリマノフ様がよく嘆いていらしたって、姫様も読みましたよね?」
「うん」
しょっちゅう愚痴っぽく書かれていた。
「この世界の植物は、基本的に皆動くんス」
「皆?
植わってなかったら、植物とは言わなくない?」
「夜とかは植わってるんス。
逆に昼間は日差しを求めて動いたり、夜でも養分になりそうな魔物を見つけたら仕留めに行ったりするっス」
「……仕留めに行ったり?」
「そうっス。
樹木だと、枝で獲物を殴り倒して自分の根元に埋めるんスよ。
叫び声上げるだけのマンドラゴラとか、野生でも大人しい方っス。
まぁ、叫び声はうるさいスけど。
野生の人参とかは、攻撃魔術使ってきますから」
マンドラゴラも気絶した生物を根元に埋めるみたいだから、全然大人しくないけど。
「……この世界の植物って、人間を養分にして育つの?」
「人間に限らないっス。
流石に栽培されてるのは、人間が養分じゃないんで安心して良いっス」
とは言え、人間を食べたかもしれない野生生物も食べていかないと生きていけない世界らしいので、覚悟が必要である。
「強い植物は、倒そうとしても反撃してくるし、弱い植物は逃げ足が速くてなかなか捕まらないっス」
「つまり、植物系の素材が、手に入りづらい……」
「薬の原料が手に入りにくいのは、そんだけじゃなくて、植物に毒が無いからってのもあるらしいっス」
「植物に毒が無い?
なんで?」
「逃げた方が得だから、とゼリマノフ様はお考えでしたっス」
植物に毒があるのは、自分が食べられても、自分達に毒がある事が天敵に知られる事により、仲間が食べられなくなる、というメリットがあるから、と考えられる。
しかしこの世界では、前世と違って、植物は植物のまま、動くことが出来る。
体内に毒を作るのも、それなりにコストのかかる行為である。
つまり、毒を作るコスト分も逃げるコストに振り分けてしまって、逃げる方が得。
「という事は、薬草が無いのか……」
薬とは、基本的に毒である。
症状があって、その症状に合わせて処方されて初めて、薬として作用する。
健康な者が飲んで、より健康になったりはしない。
便秘の薬が下剤、あたりが一番分かりやすいかな。
「薬が全く無い訳じゃないっス。
蛇とか、攻撃に毒を使う魔物も結構いますから。
ただ、姫様達の世界と比べて、極端に手に入りにくいものがいくつかあるんだと思うっス。
ゼリマノフ様は、砂糖が手に入らないっておっしゃっていたそうっス」
砂糖?
サトウキビとか甜菜とか煮詰めて……
「原料が少ししか手に入らないから、砂糖まで辿り着かない?」
「そうっス。
一応、作り方も分かってるし、作った事もあるらしいスけど、蜂蜜で代用が利くんで、ほとんど作られないっス」
蜂蜜の品質も結構良くて、そんなに癖もないしね。
「じゃあ、湿布薬も材料のハーブとかが手に入らないのか」
「姫様、湿布薬用の薬、作れないんスか?」
「サリチル酸メチルとか?
……アスピリン、アセチルサリチル酸から作った事があるみたいだけど、『前世の知識』Lv6じゃないと細かい事までは思い出せないし、アスピリンが手に入らないんじゃない?」
「嫌だな、姫様。
魔術で、ですよ」
「え?」
***
「陛下。何をご覧になってますの?」
「アリーヤか。
セルゲイの報告書だよ。
アレクサンドラの話をまとめてある」
「報告書にするほど、何かありましたの?」
「冒険者ギルドの話だよ」
「冒険者ギルド?
……ヤロスラフ殿下が入りたいと言っていた?」
「そうだね。
ヤロスラフが入りたいと言っていた時には、何をおかしな事を、としか思っていなかったけどね。
見てごらん」
「……『冒険者』に2つ意味があるのね。
娯楽世界の中の冒険者が、ヤロスラフ殿下の言っていたものね。
ギルドが冒険者と契約し、出自問わず登録料のみで身元保証を行う。ギルドが、仕事の依頼を取りまとめ、冒険者に委託し、報酬を払い、依頼先とのやり取りを行う。
仕事内容は、依頼された素材採取、移動の際の護衛、拠点防衛、単発の力仕事や、清掃など人手が必要な際の日雇い労働など。
魔獣を倒すだけでは無いのね。
ギルドの仕事内容は、迷宮探索者ギルドよりも範囲が広いわ。行政が行った方が良い内容を含んでいる。
ヤロスラフ殿下が言っていた事と、結構違うわね。
身元保証とか、セーフティーネットみたいな側面、何も言ってなかったじゃない」
「その辺はまぁ、しょうがない。
アレクサンドラ案の冒険者ギルドを、国営で設立してみようかと思う」
「名前は『冒険者』じゃ分からないから、変えないといけないわね」
「アレクサンドラは、何でも屋のようなもの、と言っていたらしい」
「何でも屋、ね」
***
後日。
「姫様、国営の『何でも屋ギルド』が運営される事になったそうっス」
「? 何の話?」
読んで下さってありがとうございます。




