キメラのいない世界
「「♪~♪~♪~」」
朝から、双子が歌ってる。
「おはようございます、アレクサンドラ様」
今日は、珍しくセルゲイが来れなくて、アンドレイが来てる。
「……これは、アレクサンドラ様がお歌いになっていた歌ですか?
このような歌詞だったのですね」
双子の『神の歌声』スキルは、なかなかの壊れ性能で、私が日本語で歌っていたものを聞いただけで、ハビタブルプラネット共通語に翻訳して歌う事が出来る。最初は出来なかったが、昨日の夜から出来るようになっていた。
惜しむらく、この翻訳機能は、歌にしか発揮されない。
「……珍しい習慣ですね。
ニホンでは、このような事が日常的にされていたんですか」
「っ違う!違うよ!
そんな習慣も、そんな技術も無いから!
歌の歌詞は想像が混じるから!」
双子が歌っていたのが、たまたま、私の体の一部をあげるから貴方の体の一部を下さい、みたいな歌詞だったので、頭の固いアンドレイに危うく、スゴイ誤解をされるところだった。
授業は、生物学の2週目です。
「アレクサンドラ様には、もっと珍しい生物を学んで欲しいのですがねぇ。
ありふれた家畜など、アレクサンドラ様も退屈でございましょう?」
ポポフ博士のもっと珍しい生物が見たい、という欲望の言葉な訳だけれど、見に行くものは、王城で飼育しているコカトリスと、王城の庭で育てているバロメッツなので、断じて私は退屈ではない。
「アレクサンドラ様、どちらからにされますか?」
「……刺激が少ない方からで、お願いします」
どっちにしろ見ないといけないなら、もうこなしてしまった方がいいかな、と。
「では、バロメッツからですね。
ほとんど動かない、大人しい植物ですよ」
「バロメッツは、実が食用で、果皮に生えた繊維が衣類に使えます。より大々的に栽培できると良いのですが、多量に実っていると、狙ってくるワイバーンが飛来してしまいます。そのため、目立たない、結果的に日当たりの良くない場所で、数を限って育てるしかないのです」
前世のバロメッツは、綿花の事を羊毛の生る草と誤解された想像上の植物だった。
今世のバロメッツは、羊が実るという想像にそれなりに近いと思う。
実っている羊は、擬態した果実でしかないので、何か食べたり行動したりはしない。
ただ、植物自体が動く世界なので、動くことはあるらしい。
果肉は、見た目も味も、魚肉ソーセージにそっくりである。
私は知らずに食べていた。
へぇ、この世界にも魚肉ソーセージがあるんだ、とか思ってた私がアホだった。
外側の毛は、やはり植物なので、油けが少なくて綿に近く、下着にも使える貴重な繊維質である。
実は、真ん中に大きな種がある。形は大きく違うが、アボカドに近いのかな。
「バロメッツは、ワイバーンなどに実を丸吞みされて種子を運んでもらい、広範囲に繁殖していくのですよ」
結構、合理的だよね。
前世でも、そういう植物はいっぱいあった。
スケールが大きく違うが。
「着きましたよ、アレクサンドラ様」
「ありがとう」
今日は護衛騎士に運んでもらっています。
「……キショい」
心の声が、前世の言葉で漏れた。幸い、誰にも聞かれない程度の小声で済んだ。
トウモロコシよりは少し低い位の丈の草が、根をタコのように使って、ウゾウゾと動いている。
その全ての天辺に、大小さまざまな羊が実っている。
「一つの苗に一度に一つしかなりませんが、収穫を終えると別の実を実らせますので、ほぼ通年を通して収穫出来ます」
「バロメッツは大人しいので、柵で囲っておけば逃げ出しませんし、栽培も楽ですね」
「近寄ってみましょう」
大人しいと言われても、気色悪さで、もう心折れそうなんだけど。
護衛騎士に抱っこされたまま、近づいてみる。
擬態でしかないと思うのだが、意外とちゃんと羊なんだな。
近づいたところで、不意にバロメッツ達の顔?が、こちらを向いた。
※後で聞いたら、生物が近くによると実の顔部分がそちらを向く習性?があるとの事。
「!?
ッギャアアアアアア!!!」
「ど、どうされましたか?!アレクサンドラ様!」
「っ目!目の焦点がっ!合ってない!」
一斉にこっちを向いた羊の目の焦点が、生き物としてあり得ないレベルで合っていない。
「ええ?そうですよ。
擬態ですからね。
ワイバーンに羊と思われば良いのです」
……じゃあ、いっそ黒目とか必要ないよね?
心臓がバクバク言ってるし。多分涙目になってるし。
誰にともなく文句を言いたかったが、言える相手が居ない。
これは、ただ、こういう植物なのだ……
「一つ収穫していきますか?アレクサンドラ様」
首を振り、拒絶する私。
アンドレイは、何故平気なのか。
「では、移動しましょうか」
私のSAN値が一気に削られているが、ポポフ博士に気にした様子は無い。
ぐったりして運ばれている間に、コカトリスの飼育場が近づいてきた。
遠近感がおかしいだけで、ぱっと見は鶏か、な?
「着きましたよ、アレクサンドラ様」
近づいてみると、ダチョウ位か、もう一回り大きい。
ダチョウが、首が細かったり頭が小さかったりだったのに対して、鶏をダチョウサイズ強にしただけなので、違和感がスゴイし正直怖い。
「尾に毒がありますので、近づきすぎないように気をつけて下さい」
騎士に抱っこされてるだけだから、要らない心配ではあるので、ポポフ博士の注意もやる気なさげ。
ところで、その尾なんだけど、
「蛇の尾?」
コカトリスって、蛇の頭が尻尾じゃなかったっけ?
「そうです。
コカトリスは、尾が鱗に覆われています。
羽に覆われた生物と、鱗に覆われた生物は、祖先が同じと考えられており、コカトリスはそれが未分化な状態と考えられています」
……確かに、前世でも、鳥と爬虫類は祖先が同じと考えられていた。
私の言語能力が未熟なせいで、爬虫類が分からなくて、爬虫類を鱗に覆われた生物と表現しているなら、こちらの世界も、前世と同じ認識をしていることになる。
「こっちの世界だと、コカトリスの尾は、蛇の頭じゃない、と」
精神力が削られてたせいか、うっかり声に出してしまった。
「何と!
ニホンでは、そのような不思議な構造の生物が居るのですか?!
頭が2つ?もっと詳しく!!」
「ち、違う!想像上!想像上の生物だから!」
***
「疲れすぎてて、どうやって戻って来たか、もう覚えてない……」
「アレクサンドラ様の前世では、色々な空想があるのですね」
「……只今、戻りました」
「セルゲイ?
今日、休みじゃなかったの?」
「いえ、別件があっただけっスけど。
……姫様、随分疲れてますね?」
「バロメッツとポポフ博士の衝撃がね……」
「?バロメッツは特に何もございませんでしたよね?」
「あ~。
アンドレイは、他の動物見るより先にバロメッツを見た方だから。
動物の常識知ってると、バロメッツは驚きっスよね。
結構精巧な羊なのに、目の焦点だけ合ってないから、俺も気持ち悪くて苦手っス」
セルゲイ!なんで今日に限って、居なかったんだよ!
読んで下さってありがとうございます。
本文にもありますが、バロメッツに対する反応の理由など。
アンドレイ:世間知らず、物心つく前にバロメッツを見ているので、そんなものだと思っている
セルゲイ:普通
ポポフ博士:ただのマッドサイエンティスト
です。
歌詞の説明は、元が特定出来ないと思って書いていますが、
運営側に指摘されるような事があれば、消すかと思います。




