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骨を折ってもらう

前話の内容を主人公はまだ知りません。


 本日は、魔術の授業の2週目。


「アレクサンドラ様の『光属性魔術』がLv3になったとお聞きしています」

 ニコニコしているリュドミラ先生。


 おあつらえ向きに、『光属性魔術』はLv3になっております。

 なってるというよりは、させられたのかもしれないが。

 毎日、王城の人に治癒魔術を使いまくり、先日の孤児院訪問でも頑張った甲斐があった。


「ここからは、Lvが上がりにくくなってくるっスけど、めげずに頑張って下さい」

 逆に言うと、Lv3未満とかは、ほぼカス。


 あと、ゲーム世界ではないので、「治癒魔術のLvが上がった!→エクストラヒールを使えるようになった!」とかは無い。

 習得出来る素地が出来たので、頑張って習得しましょうね、という事だ。


「Lv3であれば、『アナライズ』が習得出来ます。

 アナライズが出来れば、可能な治癒の幅が大きく広げられます。

 頑張りましょうね」


 アナライズは、前世で言うところのCTスキャンみたいな技。


 何と言うか、この世界の魔法的なものは、色々世知辛い。

 前世の魔法は存在自体がファンタジーだったから、MP消費だけで何でも治せる設定だったけど、この世界の魔術は、術者にちゃんと知識が必要だ。


 なので、

「けがを治します!」

「どこをどう治すか分かってる?」

「分かりません!」

 とか、


「CTスキャン撮れました!」

「で、どこがどう異常なの?」

「分かりません!」

 では、話にならない。


 初日に、人体模型が部屋に運び込まれたのも、さもありなん。

 

「アナライズの難易度は、相手の同意があったり、相手の意識が無かったりすれば、それほどでもないっス。

 サクッと習得して、今日中に単純骨折を治せる位まで、頑張ってほしいっス」


 この世界の生き物は皆、自身の体を魔力で防御しているので、魔術を使う場合に、相手が生きているかどうかや、同意があるがどうかで、難易度が違う。

 同意が無い場合は、魔力量で圧倒的に上回る必要がある。

 あと、気絶していると思った以上に危険。


「魔物に攻撃を加えるのに、魔術は結構難しいって事?」


「そうですね」

「本体に向けて使うんじゃなくて、周りに使ったり、戦闘技巧とか戦術も重要っス」


 Lv5の『前世の知識』には、戦闘技巧はもちろん、戦術っぽいものが全然無いので不安。


 セルゲイが楽勝みたいに言った「アナライズ」も、同意があっても、けがや病気も無いのに内臓や脳などを見せるのには無意識の抵抗があって、それほど楽勝でもない。


 アナライズをセルゲイ相手にやってみる。

「……見てもいいよって言われた右腕は見れたけど、他は全然見れないよ?」

 右腕は、骨だけ確認する、筋肉などを見る、血管を確認する、など色々な見方が出来るのだが、右腕以外は魔力が通らない抵抗感があって、シルエットみたいにしかならない。


「最初はそれで十分っス。

 先ずは、手足の単純骨折から」


「では、移動しましょう」


「移動?」


 疑問に答えてもらえないまま、結構移動する。

 何故かリュドミラ先生は付いて来てくれない。


 普段いる建物を裏から出て、さらに少し行って、塔のある小振りの建物に向かう。

 石造りなのは、他の建物と一緒。

 

「大きな柵みたいな感じのする建物だね」


「そうっスね。

 裏庭とか王城を守る目的もあるっス」


 建物に入ろうとすると、衛兵が居てチェックされる。

 挨拶されたんで、こっちも挨拶返して、ヒールをかけさせてもらう。

 衛兵さん達の愛想は結構良い。


 中はあまり、人の気配が無い。


「あんまり人が居ないみたい?」


「そういうのに気付けるのは良い事っス。

 ……ここは貴人牢で、囚人の数も少ないですから」


「……防衛にも使う施設に囚人が居るの?なんで?」


「……」

 沈黙が怖い。 


「さ、着きましたよー」

 扉の開けられた一室に着いた。


「お疲れ様です」

「アレクサンドラ様、こちらにどうぞ」


 中には、衛兵?さんが何人も居て、一人がセルゲイに降ろされた私を案内してくれる。


「この踏み台をお使い下さい」


 言われるがままに踏み台に乗ると、寝台に金髪の男の人が乗せられているのが見える。

 眠っているのか、意識は無さそうだ。


「ご要望通り、両手足を単純骨折にしております」


「今、何て?」


「姫様の教材用っス」


「……折ったの?」


「そうっスよ。囚人スから。

 アナライズから始めて下さい」


 有無を言わさない感じのセルゲイ。


 ……しょうがない。


「アナライズ。

 ……おお、全身が見える!」


「……姫様の適応力が高くて何よりっス」


 煽ってきたくせにちょっと引いてるセルゲイに、ムッとする。

 ちょっと好奇心が上回っただけじゃん。


「……右脚の折れ方だけ、ちょっと難しそう」


「じゃあ、俺が手本でやってみるっス。

 アナライズかけながら見てて下さい。

 ……ヒール」


 この世界の詠唱は、魔術の発動のためというよりは、周りへのアピールのためだ。

 攻撃魔術などは、フレンドリーファイアを防ぐために重要。

 したがって、どんな治癒も大体「ヒール」などの短い掛け声で行われるし、周りに分かってもらえるなら、他の言い方でも構わない。


「どうっスか?」


 何となく分かった気がするので、頷いて、やってみる。


「ヒール」


「診てみますね。

 アナライズ……ちゃんと治ってるっス。

 この調子で、腕もやってみて下さい」


「ヒール」「ヒール」


「アナライズ……大丈夫。

 筋が良いっス。

 続けますか?」


 ……それは、この人の骨を折ってもらう(文字通り)って事だよね。

「それは、ちょっと……」


「じゃあ、今日はここまでにしましょうか。

 流石に、多少は魔力が減ってるでしょう?」


「……確かに」

 何となく、手をにぎにぎしてみる。

 Lv2までのヒールと違って、魔力が減った感はある。

 まだ余裕もあるが。



「またのお越しをお待ちしております」

 ……衛兵さん達の挨拶は、何か違う気がする。



***


「ご報告致します」


「アレクサンドラの事だね。どうだった?」


「治癒用アナライズの適性が大変高いようで、気絶状態のヤロスラフ殿下の全身を見る事が出来たようです」


「……ほう。他に何かあるか?」


「好奇心の強さが、倫理感を上回る可能性が御有りかと。

 人を傷つける事への忌避感は、普通にお持ちでした」


「そうか。

 引き続き、頼む。

 君達の一族のお眼鏡にかないそうかい?」


「……まだ、何とも」


「そう?」



読んで下さってありがとうございます。


地球の医療技術が、命の犠牲なしにはあり得なかったように、

この世界の医療も、習得に犠牲が必要、というつもりです。

グロい表現はしないつもりですが、

生体実験という概念が許せない人は、今後ご注意下さい。

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