ヤロスラフ殿下
番外編的、別視点。
胸糞表現や胸糞社会制度がありますが、
後々、本編主人公に何とかさせる予定です。
わたしは、ヴァレリア・レグラス。
このサムサーラ王国のレグラス侯爵家の二女です。
***
「お姉様、ズルいわ。
わたしも、お姉様みたいなキレイなドレスやアクセサリーが欲しい」
「ヴァレリア、我儘もいい加減になさい。
これはエリザベータの嫁入り道具でしょう」
「お母様!
だって、いつもお姉様ばっかり!」
「ヴァレリアはまだ幼いからなぁ。
今のエリザベータ位の年頃になったら、綺麗なドレスも買ってあげよう」
「お父様、嬉しい!
でも、すぐ欲しいの。
8年も待てないわ」
「……仕方ないな。
ヴァシリーサ、見繕ってやってくれ」
「……仕方ないわね。
エリザベータ、また後で来るわ。
自分で進めておいて」
「はい、お母様」
お嫁入り間近のお姉様が優先されるべきなのは、子供心にも分かってはいました。
でも、年が離れていて忙しかった姉に、親近感はほとんどなく、何とはなしに張り合うような気持ちばかりがありました。
お母様は、当時のわたしにも合うような衣装とアクセサリーを注文してくれました。
後日届いたそれらは、とても素敵だったのですが、
「お父様。やっぱり、お姉様のドレスやアクセサリーの方が素敵だわ」
「エリザベータのは、侯爵家に嫁ぐためのものだからね」
「侯爵様にお嫁入りするから?
だったら、わたしも侯爵様にお嫁入りするわ!」
「侯爵か……。
ヴァレリア。いっその事、王子殿下に嫁ぐのはどうだい?」
「王子様?
侯爵様よりも偉いのね?
そうしたら、キレイなドレスやアクセサリーもいっぱいもらえるかしら?」
「ヴァレリアが王子殿下に気に入られればね」
「わたし頑張るわ!お父様」
***
「君がヴァレリア・レグラス侯爵令嬢?初めまして。
僕はヤロスラフ、名前で呼んでくれ」
「初めまして、ヤロスラフ様。
ヴァレリア・レグラスですわ。
ヴァレリアとお呼び下さい」
ヤロスラフ様は、異世界転生者です。
ヤロスラフ様の前世の話は、平和で豊かで、キレイなものや美味しいものがいっぱいで、まだ子供だったわたしは瞬く間に夢中になりました。
わたしの居る国は、戦乱の世が明けて国が興ってから、まだ歴史が浅く、侯爵令嬢であるわたしも思う程の贅沢は出来ません。
ヤロスラフ様の前世のような暮らしがしたい。
あんな風に何でも手に入るような生活がしたい。
そういう気持ちが湧き上がってきます。
「ヴァレリア、手伝ってくれるかい?
この世界を、僕が前世で思い描いていたような世界にしたいんだ」
「はい、喜んで!」
当時のわたしは、ヤロスラフ様が思い描いている事が、この国をヤロスラフ様の前世のように豊かにする事だ、と思い込んでおりました。
***
学問の習得などの努力が実り、ヤロスラフ様の婚約者となりました。
妃教育も、進んで受けました。
けれど、学園に上がってからは、幼い頃は良好な仲だと思っていたヤロスラフ様とは、明らかに溝が出来てきました。
「ヤロスラフ様、何故ですの?
このサムサーラを、ニホンのように豊かにするのではないのですか?
何故、魔力量を上げようとされませんの?
何故、スキルを鍛えようとされないのですか?
何故『前世の記憶』をお使いにならないのですか?」
「うるさいなぁ。
ただのハーレム要員なんだから、黙ってろよ」
「ハーレム?
この国は一夫一妻制ですわ」
「フン、そんなもの、王太子たる僕なら何とでも出来るさ」
「な、何を仰っているのですか?
セオドア殿下がいらっしゃるではないですか」
「兄さんは、隔世遺伝で、光属性を持ってないから、僕が王位を継ぐんだ!
母上だって、子供を産みながら女王は大変だったらしいじゃないか。
やはり、王は男で妃を何人も迎えるのが合理的なんだよ」
「それで、最近、ピンクの髪の平民の娘をずっとお側に置いておりますの?」
「うるさい!
せっかく異世界に転生したんだ!
チーレム無双出来ないと意味ないだろ!」
ヤロスラフ様が仰っている事がもう、半分も理解できません。
ただ、学園に平民ながら奨学生として入ってきたピンクの髪の娘もまた、異世界転生者と聞いては、わたしがひくしかありませんでした。
***
頭がぼうっとして、記憶が曖昧です。
気が付いた時は、ヤロスラフ様とピンクの髪の娘は、貴人牢に入ったと聞かされました。
貴人牢は、グレゴリー前陛下がお作りになった特殊な囚人用の牢で、前陛下が広げようとしていた「基本的人権」を適用する必要が無いと判断された者が入れられる牢です。
二人は、グレゴリー前陛下と同じ世界からの異世界転生者だったのですが、前世の期間が短く、十代後半という成人になるかならぬかの頃に亡くなっていたそうです。
そして、二人ともこの世界の事を、前世で見聞きした物語の世界だと思っていたそうです。
二人ともそれぞれ、別の物語の世界に、主人公として生まれ変わったと思っていたようです。
不思議な事に、ヤロスラフ様は学園に入る2年程前まで、平民の娘は学園の卒業近くまで、物語の世界と辻褄が合っていたそうです。
「とても信じられませんわ、お父様」
「そうだな。
しかし、二人がこの世界に無かった魔術を使ったのは、残念ながら、本当なのだ……」
「この世界に無かった魔術?
でも、ニホンは魔素の無い世界なのでしょう?」
お父様の隣で、お母様はずっと泣いています。何故?
「ニホンでは想像力が豊かで、色々な魔術を使った物語が、何種類もあったそうだ」
「でも魔術を実際に使うためには、知識が必要ですよね」
「……近年、学園付近の大気中の魔素の量が多くなっていたらしくてな。
精神に作用する魔術は、強い想像力だけで、ある程度効果を発揮するようになっていたそうだ」
二人が使った魔術は「魅了」。
誰にでも効果を発揮したりはしませんが、元々ある程度好意を抱いている相手、逆に術者を利用しようという下心を持っている相手、には強い効果を発揮します。
ピンクの髪の娘は、学園で何人もの高位貴族令息相手に、この魔術を使用した事で、貴人牢に入れられました。
魅了を使われた者達は、ある面被害者ではあっても、貴族として致命的な行いをしてしまい、それまでの未来は無くなってしまいました。
ヤロスラフ様が魅了を使った相手は、わたし。
元々ある程度の好意を抱いており、王子の妃という姉よりも高い立場を得るための下心を持っていた私は、魅了魔術の影響を最も強く受けたのです。
「……ヴァレリア。セオドア殿下の側妃になるかい?」
「側妃……」
セオドア殿下は、王族に必要な光属性をお持ちでは無いので、即位のためには、光属性の王妃が必要です。
そして、わたしは、光属性ではなく。
魅了魔術で支配されている間に、ヤロスラフ様に身体を穢されていました。
魅了魔術が解けて、自我を取り戻した時には、選択肢はほとんどありませんでした。
本来はどこにも嫁げないまま一生を終えるのが、順当です。
しかし、今回、二人が起こした事態をどうにか丸く収めるために、皮肉にも、ヤロスラフ様が言っていた一夫多妻制度を取り入れる、という案が出たのです。
それでもわたしは、本来該当しないのですが、セオドア殿下の側妃、という選択肢を与えられました。
悩みましたが、受ける事に致しました。
これまでの諸々が、無に帰すことを恐れて。
読んで下さってありがとうございます。
ちょっと中途半端ですが、今回はここまでにさせて下さい。
私事ですが、繫忙期に入ってしまいまして、
今週分は書き上げたのですが、ちょっと来週以降は不透明です。
そろそろ冗長な展開を何とかして、サクサク進めたいとは思っています。
よろしくお願いします。




