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休日


「1,2,3,4,5……248,249,250」

 250のカウントと同時に手を上げる。


「……惜しいっスね。2秒速いくらいかな」


 前世の1秒と今世の1秒を比べています。

 と言っても前世基準が私の体感しかないんだけど、それでも実験してみないわけにはいかぬ、という事で。

 私が日本語で前世の250秒をカウントし、休みだから遊びに来たというセルゲイに、こっちの世界の5分(250秒)と比べてもらってる。

 自分で見ながらにしちゃうと無意識に合わせちゃうかもしれないからね。


 本日は休日。


 マッドサイエンティストに詰め寄られた後に巨大蜂に餌付けされる、というハードな目に遭った翌日だから休ませてあげるね☆

 ではなく、単に日曜日的な日が回ってきただけです。


 この世界は、やけに5を神聖視しているようで、1週間は5日。


「始まりと秩序の神の日から始まりまして、

 芽吹きを司る豊穣の神の日、

 炎の如き勢いを誇る鍛冶神の日、

 繋がりをもたらす商売の神の日、

 終焉と安寧の神の日で、1週間でございます。


 本日は、終焉と安寧の神の日ですので、出来る限り休んで過ごす日になっております」


 秩序の日→豊穣の日→鍛冶の日→商売の日→安寧の日、で1週間。

 安寧の日が前世の日曜日的な日。

 政治的な発表は秩序の日に行われたり、工事の着工を鍛冶の日にしたり、重要な商談は商売の日を選んだり、結婚式は豊穣の日が人気だったり、お葬式は安寧の日に行われたりするらしい。


 王城の勤務は1年中かつ1日中なので、キッチリ交代が組まれているが、それでも出来るだけ、安寧の日は休みになるようにしているそうだ。

 例えば、王妃である今世の母も、秩序の日から商売の日までは、着付けを手伝ってもらわないと着れないドレスを身に纏って公務を行うが、安寧の日だけは、前開きのワンピースなど自分で着替えられるものにしたりして、メイドの数を最低限にして過ごす。


 この世界、自転周期も公転周期も、5を基本単位にしてカウントしている。

 1週間は5日、1ヶ月が25日、1年は10ヶ月になっている。

 この惑星にも月はあるんだけど、丸くない小さい月がいくつもあるせいか、1ヶ月が月の公転周期とは関係無いみたいだ。

 

 代りに、時間にも暦にも、五神教、というこの世界独特の宗教的な表し方をする事が多い。


「最初に全き一柱の神が居られました。

 創世なされた後、神は御自らを御分けになりました。

 最初に分かたれた神は、世界に命の芽吹きをもたらし、今は豊穣を司って下さっています。

 次に分かたれた神は、芽吹いた命を成長させ、今は創意工夫をもたらす鍛冶神となっておられます。

 生まれた命に交流をもたらすべく、神はさらに身を御分けになりました。今は商いの神となっておられます。

 最後に、世界に安らぎをもたらす神を御分けになられた神は、残った御身を秩序を司る神とされました」


 五神教の敬虔な信者っぽいアンドレイが、出来るだけかいつまんで語ってくれた神話である。

 要は、世界の運営は、創世神が自分を5分割して分担制にした、という事ね。


「……俺は、『アトラスの崩壊』後の後付け説明みたいなもんと思ってるんスけどね」


 学院に提出するレポート課題をこなすためにアンドレイが退出した後に、ポソッとこぼすセルゲイ。


 『アトラスの崩壊』とは、先史文明のもたらした世界滅亡の危機の事である。

 先史文明はアトラスという名の王国から始まり、そのまま文明の名になった。

 この文明は、ほぼ世界を統一するほど広がった事があり、世界中で共通語しかほとんど話されなくなるなどの影響があったという。

 

 そして『アトラスの崩壊』にあたって、どうにか人類を滅亡から救おうといくつかの大きなプロジェクトが実行され、五神教はその内の一つ。人々の精神の拠り所として、新しく作られたものだ、とセルゲイは言う。


「つまり、この世界にも神様は居ない?」


「え?いや、居ないと決まった訳じゃ……」


 途端に言葉につまるセルゲイからどうにかこうにか事情を聞きだすと、こうである。


 先史文明によって、アトラス以外の文明・文化は片隅に追いやられた。

 例えば、1週間が5日ではない文化もあったのだ。

 しかし、なくなってはいない。

 セルゲイの様に、細々とではあるが、独自の言語や宗教などを受け継いだ少数民族が世界各地に残っている。

 セルゲイはその宗教の神様を信じているので、五神教の神の存在は信じていないが、神様が居ないと思っている訳では無い。


 私的に重要なのは、別に神様の存在が証明されたりはしていない、と言う事。

 神は信じられてはいるけど、本当に居るかどうかは分からない。前世と一緒だね。


 驚きなのは、閏年とかがない事だよ。

 『閏』という概念自体が無いために、なかなか通じなかった。

 セルゲイが勘が良かったから、何とか通じたって感じ。

 5が神聖視されてるの、このせいじゃないかな。

 アトラス以外の文化でも、時間や暦で5や10を基調にしてるものが多いようだ。


 流石に公転周期に対する自転周期が、そんなに完全にキリがいいって事はないだろうから、ごくわずかな閏があって、『アトラスの崩壊』時のごたごたでついでに調整したんじゃないかな、とか思ってる。


「……姫様は、俺が五神教じゃないの気にならないんスか?」


「私も五神教じゃないから」

 今日知った宗教をどうやって信じろと?


「それ、結構、問題ですから」


 マジで?

 口調がいつもと違う上に真顔なセルゲイに、ヤバさの度合いを感じる。

「……教えてくれてありがとう。今日から五神教信者という事にする」


「姫様は五神教が受け入れられるんですか?」


「……元々、多神教だったから」

 エピソード記憶は無いが、「神様っぽいものは全部神様だと思っとけばいい」みたいな感覚がある。

 しかもその中に、神が居ないなら居ないでそれもアリ、みたいな感覚もある。

 セルゲイにはめっちゃ不思議がられた。


 ヤバい話題のようなので口止めをお願いして、時間計測に戻る。

 流石に1回だけの計測では満足しないぜ。


 今回の時間計測のために入手できたのは、お茶を淹れるための5分を計れるもの。

 前世の砂時計みたいな感じだろうか。

 魔道具で、デザインなどは似ていないが、決まった時間過ぎたら、どの程度過ぎたかが分からない点が一緒。

 時間は正確だそうだ。


 前世のような時計もあるが、今回は使っていない。

 時計のデザインは、前世と似ているが、秒針に相当するものが無いのだ。


 基本的に五角形をしていて、1日50時間を2周で表すようになっている。

 1周に25の目盛りがあり、針ではなく、該当する時間と分がそれぞれ別の色に変わる。

 時間は25か所の何処かしか光らないし、分はその間で光る。

 これは壁掛けタイプの時計のデザイン。

 持ち歩くタイプの時計だと、小さくするために1周5目盛り、1日に10周して5時間毎に盤の色が変わる。

 どちらもデザインや色のバリエーションがある。

 何処が零時か分かればそれ以上の表示が必要無いので、小さいものを中心に数字が使われていないものも多い。


 この世界では、現在時刻を表す際に、5分以内の時間は問わない、というルーズさなのだ。

 魔道具は正確なので、文化的な問題らしい。

 ストップウォッチは頼んだら作ってもらえるかもしれないと思う。


 計測は5回やってみた。

 1回目、-2秒(セルゲイのカウント、以下もそう) 

 2回目、-10秒。

 3回目、-13秒。

 4回目、+6秒。

 5回目、-3秒。


 概ね前世と秒は同じ位、と言っていいかな。

 誤差要因が大きすぎて何とも言えない部分はあるが、倍違うとか、半分とかのスケールの違いでは無いと思う。



「よし。次は、水滴の大きさだ!」

 これも、前世との比較は自分の感覚頼りだから、秒の計測にもまして……という話だが、やらないという選択肢は無いのだ。


 『前世の知識』に、水滴1滴=0.04ml(0.03~0.05ml)というのがあった。

 ビュレットを使う場合、割と正確に0.04ml(0.035~0.044ml)である。

(※ビュレット=滴下した液体の容量を測る実験器具)


 水の表面張力と重力加速度に影響を受ける値だと思うから、重力加速度が違う前提だと違っちゃうけど、参考にはなるはず。

 流石に、前世の水=今世の水、だと信じてる。

 というか、元素の周期表まで違う世界だと、前世の知識とか記憶とか残っててもしょうがない気が。。。


 先ずは、先に計算しておこう。

 水滴はもちろん涙型だが、球形と近似して計算してみる。


 1ml=1cm³なので、

 球の半径をrcmとすると、

 球の体積=4/3πr³=0.04cm³


 円周率πの値は3.141592まで覚えているが、今回は3.14で計算。

 r³=0.03/π≒0.00955cm³

(※記号≒は、完全に同じではないけど、ほぼ同じ、の意味)


 水滴の半径を3乗したものが0.0955だから……

「……3乗の元の数字ってどうやって計算すんの?」



読んで下さってありがとうございます。


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