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第七話「探索者ランカーの人々」

——とある上位探索者視点・その1——


「え? 探索者ランキングが更新されたって?」


 ロサンゼルスのとある豪邸のプールで泳いでいた男は、タブレットを手にやってきた使用人の言葉を聞いて思わずそう尋ねた。


 探索者ランキングはここ最近はずっと横ばいで、久しく順位変動はなかった。

 その男は第十一位のアベル・ガードナー。

 第十一位という称号はアメリカの一等地に豪邸を建てられるくらいには大きい。

 それでも虎視眈々と一桁を狙う彼にとって、順位変動はホットニュースだった。


「はい。突然、第一位が大幅に更新されました。レベルは231。現在ランキング第二位のレイナ・ルーカスの151レベルと大きな差がついております」

「…………は? 231だって? しかも突然? ちょっとタブレットを見せてみろ」


 アベルはプールから上がると、使用人の持っているタブレットを奪い取った。

 しかしそこには確かに第一位231レベルと書かれていた。


「名前は……斉藤レン。何者だ、こいつは」

「いえ、私どもにも分かりません。分かっていることは突然現れたということ、そして圧倒的なレベルを手にしたこと、くらいです」

「要するに何も分からないということか……。至急、こいつについて調べろ」


 アベルの指示に使用人は頷くとタブレットを持ってプールから去っていった。

 誰もいなくなったプールでアベルは軽く舌なめずりすると、こう呟いた。


「誰だかしらねぇが、これには裏があるはずだ。それを突き止めれば俺だって一桁に……」



   ***



——とある上位探索者視点・その2——


 ここはロシアにある最大級のダンジョン《深淵迷宮》。

 その第八層でジェネラルオークを何とかして討伐したパーティー《黄金の水平線》のリーダー、レイナ・ルーカスはふとスマホを確認して目を見開いた。


「……探索者ランキングが更新されてる」


 それを聞いたタンク役のガイラム・ググリスは目を見開いてレイナの方を見た。


「それは本当か? もう十年も変動がなかったランキングが更新されたのか?」

「うん。びっくりした」

「……それで。第何位が入れ替わったんだ?」


 そう尋ねたガイラムにレイナは淡々と答える。


「第一位」

「……そうか、レイナもとうとうアリエスに抜かれたか」


 アリエス・ハーベスタは現在、第二位の探索者である。

 ガイラムは彼女にレイナが抜かれたものだと思っていた。


 しかしレイナは首を振ってこう言った。


「いいや、私はアリエスに抜かれていない」

「……は? いやいや、レイナを抜けるのはアリエスくらいだろう?」

「私もそう思っていた」


 そう言ってレイナは自分のスマホをガイラムに見せた。


「…………はあ!? レベル231だって!? レイナの1.5倍もあるじゃないか!」

「そう。しかも昨日まではランキング圏外だったはず。少なくとも私は名前を見たことがない」


 そこに書かれている名前は斉藤レン。

 ガイラムも初めて見る名前だった。


「何なんだ、こいつは……。サイトのバグか?」

「それはありえない。今までの精度の高さは異常だったもの」


 ガイラムもそう口にしながら自分でもありえないと思っていた。

 しかしバグだと思わないと信じられないほどのレベルの高さだった。


「意味が分からないな、これは」

「そう。だから私はこの男を探しにいく」

「……まあ、何か秘密は持っているはずだな」


 そしてレイナは立ち上がると、他のパーティーメンバーにも声を掛けに行った。

 ガイラムはそんな後ろ姿を見ながら、リーダーがいなくなった後のパーティーをどうするか、考えるのだった。



   ***



——とある上位探索者視点・その3——


 アリエスはイギリスの古い王城にてティータイムを楽しんでいるところだった。


「……え? ランキングが更新されたですって?」


 慌てたようにやってきたメイドの言葉に、アリエスは上品に首を傾げる。

 ランキングが更新されるのは十年ぶりで、彼女は困惑してしまう。


「はい、アリエス様。第一位が入れ替わりました」

「……え? 第二位は私だったはず。それはレイナのレベルが落ちたり、死んだりしない限りありえないわよ」


 レイナが死んだとは考えにくい。

 人類最強の女性なのだ。

 現在彼女たちは最高峰ダンジョン《深淵迷宮》に潜ってるとはいえ、階層更新をしようとしているわけでもないので、死ぬとは到底思えなかったのだ。


「現在第一位は斉藤レン。レベルは231です」

「…………え?」


 そのメイドの言葉に固まり、飲もうとしていた紅茶を溢してしまう。

 しかしそんなことには気にも留めず、アリエスはメイドからタブレットを奪い取った。


「……本当だわ。このランキングが間違っている……わけはないわね。私のレベルもしっかり表記されているし」


 ということは、この一瞬でレベルを231まで上げた人間がいるということだ。

 それは恐ろしいことで、探索者にとっては希望にもなり得ることだった。


「それに地味に第四位も更新されてるわね。エレナって人間も初めて見たわ」


 エレナの方もレベルが147。

 アリエスが149だから、ほぼ差がないと言ってもいいだろう。


「これは荒れるわね」

「そうですね。……アリエス様。いかがいたしますか?」

「そりゃ決まってるわ。至急、彼について調べるのよ」


 こうして様々な強者たちが斉藤レンという名前を知り、彼についての情報を求めた。

 そんなことになっているとはつゆ知らない彼は現在、家のソファでテレビを見ながらケタケタ笑っているのだった。

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