第六話「いったん外に出てみることにしました」
「エレナのステータスはどんな感じになった?」
草原で焚火をしながら休みつつ、俺はエレナにそう尋ねた。
「ええと、今はこんな感じよ」
そう言って彼女は自分の前にステータス画面を表示させ、俺に見せてくる。
――――――――――
名 前:エレナ
年 齢:18
レベル:29
体 力:240
魔 力:220
防御力:60
筋 力:90
知 力:86
幸 運:210
スキル:《ステータス閲覧Lv.1》《剣術Lv.1》
耐 性:なし
――――――――――
ちなみにステータス画面は他人に見える状態と見せない状態で切り替えられる。
今このダンジョンには俺たちしかいないので、見える状態にしていた。
「おお、結構上がったな。まあ――俺の五分の一くらいだがな! はははっ!」
「……レンに敵わないのは当たり前よ。経験値集めをやっていた時間が違うのだから」
むすっと膨れながら彼女はそう言った。
美少女だから拗ねた表情も似合う。
……って、そうじゃなくて。
「エレナは俺に比べて筋力値が高めだな。ってことはおそらく剣士向きなのだろう」
「そうなのかしら? 確かにレンは筋力よりも知力のほうが高いものね」
それに俺にはスキル『爆炎魔法』があるからな。
このダイアモンドソードは譲ってもいいかもしれない。
間違いなく俺みたいな男よりも、エレナのような美少女のほうが似合う剣だしな。
「というわけで、これからはこの剣を使うといいよ」
そう言ってダイアモンドソードを手渡すと、彼女は驚いた表情をする。
「いいの? こんな高級そうなもの」
「まあいいってことよ。仲間が強くなって困ることはないしな!」
俺の言葉に彼女は納得したのか頷いて、大切そうにその剣を抱きしめた。
「ありがとう。大切に使わせて貰うわ」
「その代わり、背中は任せたからな!」
俺がそう言うと、エレナはふふっと微笑みこう言った。
「任されました。レンも私の背中を守ってよね」
「ああ、任せろ! 全員ぶっ倒してやる!」
そして俺たちはさらに討伐効率を上げながら、ついつい再び20時間ほども経験値集めをしてしまうのだった。
***
「さて……ようやく第十五層まで来たな」
第十一層から第十五層までは全て草原だったが、出てくる魔物はエンシェントウルフとかジェネラルオークとか、以前までだったらボス部屋に出てきてもおかしくないくらいの強さになっていた。
この魔物たち、かすかに残る教科書の記憶によると、全てBランクを超えてた気がするんだよなぁ。
まあ俺たちには攻撃が効かないし、時間をかければ絶対に倒せるので無問題だったが。
「十五層ってことは、そろそろボス部屋があるのよね?」
「今までの感じだったらそうだな。五層ごとにボスが配置されていたからな」
そんな会話をしつつ、俺たちは草原を歩く。
すると上空から鳴き声が聞こえてきた。
見上げると、そこにはワイバーンよりも一回り大きい、ドラゴンとも呼べる魔物が飛んでいた。
「おお……あれはサラマンダーってやつじゃないか?」
「ワイバーンと何が違うの?」
「まあ主な違いは大きさと火を吐くかどうかだった気がする!」
俺の言葉にエレナは興味深そうにサラマンダーを眺めた。
そいつは俺たちに気が付き、近づいてくると、思いきり火の球を飛ばしてきた。
「あら! 本当に魔法を使ってくるのね!」
何故かエレナは嬉しそうにそう笑みを浮かべると、ダイヤモンドソードを取り出して構えた。
――ザンッ!!
彼女が飛び出し火の球に対して剣をふるうと、その魔法は真っ二つに斬られ空中で爆ぜる。
「おお……すげぇ……。いつの間にそんな技を覚えたんだ?」
「剣術のスキルがレベル8になったら勝手に覚えたわ。『魔法斬り』って名前らしいわよ」
そのまんまじゃないか。
「しかし俺も剣術スキルはレベル10だけど、その技は覚えなかったからな。やっぱりエレナのほうが剣の才能があるみたいだな」
そう褒めると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
ちなみに俺たちの現在のステータスはこんな感じだ。
――――――――――
名 前:エレナ
年 齢:18
レベル:129
体 力:1450
魔 力:1109
防御力:490
筋 力:1720
知 力:970
幸 運:570
スキル:《ステータス閲覧Lv.3》《剣術Lv.8》
耐 性:《打撃耐性Lv.8》
――――――――――
――――――――――
名 前:斉藤レン
年 齢:27
レベル:198
体 力:2306
魔 力:2897
防御力:560
筋 力:2160
知 力:3270
幸 運:987
スキル:《ステータス閲覧Lv.5》《剣術Lv.10》《爆炎魔法Lv.9》
耐 性:《打撲耐性Lv.10》《炎耐性Lv.2》
――――――――――
俺もエレナもかなり成長したと思う。
しかしやっぱり俺は知力のほうが高く、エレナは筋力のほうが高い。
そして俺は《爆炎魔法Lv.9》で覚えた技『混沌の嵐』を使用し一瞬にしてサラマンダーを消し去る。
相手も火属性っぽい魔物だから効かない可能性も考えたが、簡単に討伐出来てしまった。
そういえばパーティーなるシステムを見つけ、俺たちはパーティーメンバーとなっている。
このパーティーメンバーになると、経験値が勝手に働き毎に分配されるらしい。
サラマンダー分の経験値が分配され、俺たちはさらに第十五層を探索し始めるのだった。
***
それから第十五層のボス部屋を見つけ、ヒュドラと対峙する。
ぱっと見の見た目はすごく強そうで、一瞬ヒヨってしまうが。
しかし——もちろん攻撃は一切効かないので難なく倒してしまった。
「うーん、ここも楽勝だったな」
「そうね、手応えは一切なかったわね」
俺とエレナはそんな会話をしながら開いた扉の向こう側に入る。
するとそこは次の階層に向かう階段ではなく、転移ゲートが設置されていた。
「あれ、このダンジョンはこれでお終いか?」
「……見て、レン。一応この先もあるみたいよ」
エレナは転移ゲートのその先を指さす。
そこには確かに、次層へ続くのであろう階段が設置されていた。
「ってことは、ここがセーブポイントみたいなものか」
「セーブポイント?」
「ああ、そうか。エレナはゲームもしたことないのか」
不思議そうに首を傾げる彼女に俺は軽く説明してあげる。
ゲームのこと、そしてセーブというシステムについてとか。
「へえ……現代ではそんな遊びが流行っているのね。凄い進歩だわ」
「まあこの百年で凄い進化を遂げたからな、人類は」
そんな会話をしつつ、俺たちは転移ゲートに近づいた。
おそらくここの青白く光っている台の上に乗れば、地上へ帰れるのだろう。
「疲れもないしまだまだいけるけど、流石に地上が恋しくなってきたな」
「私もそろそろ現代の地球を見てみたいわ」
意見が一致し、俺たちは地上へ上がることにした。
俺が先にその台に乗り、地上へと転移する。
するとダンジョン前に転移され、まだ日が出てきたばかりであることや、そして先ほど犬の散歩をしていたおばさんが近くにいることを確認する。
やっぱり時間が止まっていたみたいだ。
良かった、これで浦島太郎みたいになってたら終わってた。
そして数秒後にエレナも地上に出てくる。
「……へぇ。これが2021年の地球なのね」
田舎から都会に出てきた出稼ぎ娘のようにキョロキョロと辺りを見渡すエレナ。
俺はエレナに向かって手を差し伸べると、こう言うのだった。
「ようこそ、現代へ。もうエレナはあのダンジョンに囚われなくていいんだぞ」
彼女は俺の手を取って、心底嬉しそうに微笑むのだった。