第三十九話「最上級ダンジョン・暗黒迷宮」
次の日、目を覚まし大理石の階段を下りていくと、ユイがぼけっと突っ立っていた。
何をしているのだろうと首を傾げて顔を覗き込むと――。
「……寝てる。立ちながら寝てやがる」
俺は彼女の頭を軽く叩いて起こすと言った。
「立ちながら寝るな。しかも階段の途中で寝るとか危ないぞ」
「……はっ! わ、私は寝てませんよ!」
嘘つけと思うがここはユイの顔を立ててやるために頷いた。
「そうだよな、こんなところで流石に寝るわけないよな」
「そ、そうです! 流石にこんなところで寝る人なんていません!」
そんな会話をしていると寝ぼけ眼をこすりながらエレナが下りてきて言った。
「朝からテンション高いわね……。私は眠いったらありゃしないわ」
「あんなフカフカのベッドだったのにまだ眠いのか」
「だからよ。あんなベッドだったからもっと寝たいと思ってしまうのよ」
なるほど、確かにそれも一理ある。
そして俺たちはようやく階段を下り、リビングの扉を開けた。
「あらあら、昨日はゆっくり眠れた?」
「遅かったじゃないですか。今日は暗黒迷宮に行くのでしょう?」
もうレーアとアリエスは起きていて、紅茶を飲みながら待っていた。
待ち方さえも優雅すぎる……。
流石セレブたちは俺のような小市民とは違う感性をしているらしい。
紅茶とかペットボトルか紙パックのものしか飲まないというのに。
「ああ、おはよう二人とも。すまんな、ベッドが気持ちよすぎてつい寝過ぎてしまった」
俺が言うと、レーアは立ち上がり紅茶を淹れながら微笑み口を開いた。
「あらあら、それなら良かったわ。ベッドが合わなかったらどうしようかと思っていたの」
「あんな心地良いベッドは初めてだったわ。私にはもったいないくらいよ」
エレナはそう言いながらリビングの椅子に座る。
俺とユイもそれに続き椅子に座ると、アリエスが言った。
「それで旦那様。今日は何時頃にダンジョンに向かうのですか?」
「そうだなぁ……朝食を食べて少ししてからかな」
そして俺たちはレーアの淹れてくれた紅茶と、おそらく料理人が作ったのであろうサンドウィッチを食べて朝を過ごすのだった。
***
そうして俺たちは昼前くらいにロス郊外にある『暗黒迷宮』にやってきた。
迷宮入り口にはたくさんの武装した探索者たちに溢れ、ごった返している。
世界に三つしかない最上級ダンジョンの一つということもあり、みんな猛者の雰囲気を湛えていた。
「凄い人ですね……!」
ユイはキョロキョロと辺りを見渡しながら言った。
俺はそれに頷き答える。
「世界中から猛者が集まってきているからな。そりゃそうだろう」
「確かに強そうな人ばかりですね!」
俺たちは入り口で探索者カードを見せてダンジョン内に入っていく。
中は庭のダンジョンと同じ形式なのか、石レンガに囲まれた空間が広がっていた。
「なるほどな……庭のダンジョンと同じように階層ごとに雰囲気が変わる感じか」
「そうね。中級以下のダンジョンみたいに一つのテーマが決まっている感じではなさそうね」
俺の言葉にエレナも頷きながら同意した。
ということは最初の敵は――。
「やっぱりスライムが出てくるよな」
しかし普通のスライムとは違って、特殊個体のようだ。
三体出てきたのだが、炎を纏っていたり、緑色だったりと、属性が付与されているみたいだ。
「普通のスライムよりは強そうだが、まだまだ負ける気はしないな」
最上級ダンジョンと言ってもまだ第一階層だしな。
そこまで敵も強くないか。
そう思っていると、ユイが一歩前に出て言った。
「この『アルティメット・レイピア』の試し斬りしてみても良いですか?」
「お、いいね。さっそく使ってみよう」
俺の言葉にユイは嬉しそうに剣を構えるとスライムと対峙した。
やっぱり試用場で使ったと言っても、実戦で上手く使えるとは限らない。
ここでその武器に慣れていくのも大切だろうな。
「――やぁっ!」
ユイは思いきり踏み込むと、鋭くその細剣でスライムを貫いた。
一撃でその炎スライムは粒子となって消え、他のスライムたちが警戒態勢に入る。
そしてそのスライムたちは魔法を使ってユイに攻撃するが、彼女はそれを軽々と避けながら一体ずつ倒し粒子にしていった。
「……やっぱり特殊スライムといっても練習にもなりませんね」
「そうだな。もっと深くまで潜っていってみるか」
そして俺たちはドンドンと潜っていき、一瞬で第五階層まで辿り着くのだった。




