第三十二話「アベル・ガードナーと戦いました」
「くくくっ……貴様は俺に負け、その強さの秘密を明かすことになるだろう」
試合開始直前、アベルは俺に向かってそう言ってきた。
しかしランキングで負けているということはレベルで負けているということで、本当に俺に勝てる見込みはあるのだろうか?
もしかすると何かしらの秘策を用意しているかもしれない。
少し気を引き締めていかないとな。
「そろそろ試合を開始しますがよろしいでしょうか?」
審判員にそう言われ、俺たちは頷く。
そして頭上に浮かぶ巨大なディスプレイにカウントダウンが表示された。
そのカウントダウンに被さるようにコメントが流れていく。
――おっさんVSおっさん。
――斉藤さん頑張ってくれよなー。
――ぱっと見で完全に斉藤さん負けてるけどな。
うるせぇ、俺がアベルに見た目で劣るのは分かってるっての!
そんなことを思いながらも俺は自然体で立つ。
するとアベルがにやりと笑い、こちらを見てきた。
「武器は持たないと……。なるほど、やはり魔法主体というわけか」
「まあそうなるな。そう言うあんたこそ、曲剣とはまた珍しいものを……」
そしてカウントダウンがゼロとなり、大きく鐘の音が鳴った。
瞬間、アベルは思いきり距離を詰めてきた。
「魔法主体なのであれば、距離を縮めてしまえば問題ない!」
しかし俺は近づいてくるアベルに《竜魔法》の咆哮を使う。
それで動きが阻害されると思っていたのだが――彼は構わずに突っ込んできた。
「ふははっ! 俺に魔法は効かないのだ! 暗黒迷宮の第十二層のレアドロップである魔除けの鎧を纏っているのだからな!」
なるほど、だからレベル差があっても勝てると見込んで試合を仕掛けてきたのだろう。
しかし舐めて貰っちゃあ困るってもんよ。
今度は《雷刃》で雷の剣を作り上げると、それでアベルの振るった曲剣を受ける。
バチバチと雷撃がステージに走っていく。
「雷魔法だとッ!? そんな魔法は聞いたことがないッ!」
「俺のオリジナルだからな。そりゃないだろ」
言うとチッと舌打ちをしてアベルは俺から距離を取った。
しかし……魔法が効かないのは少し面倒くさいな。
でも全魔法を防げるとは思えないし、高火力で行けば通るのではないだろうか?
そう思い、《竜魔法》のレベル5で手に入れた《竜の息吹》を使用する。
俺の頭上に竜の頭が浮かび上がり、その口元にもの凄い魔力が集まっていく。
ギュイィイイイイイイイン。
それを見たアベルは驚愕の表情を浮かべて叫んだ。
「何だその魔法はッ!? もの凄い魔力が集まっていく!?」
頭上に浮かんでいるスクリーンに映るコメントたちも驚いているようだった。
――すげぇ……魔力量で空間が歪んでいるみたいだ。
――竜の頭が見えるぞ! 何だありゃ!
――かっけぇ! あれがランキング一位の力なのか!
――オラ、なんかワクワクしてきたぞ!
アベルは慌てたように地面を蹴り、俺のほうに駆け出してくるが、もう遅い。
俺は魔力を練り上げて、とうとう竜の息吹を発動した。
ドゴォオオオオオオオオオオオン!
地面を削りながらその光線が吐き出され、アベルに一直線に向かっていく。
「うわぁあああああ! やめろ、やめろぉおおおおおおお!」
しかし発動してしまったものはもう止められない。
その竜の息吹はアベルを完全に飲み込んで、粒子として消し去った。
「しょ、勝者斉藤レン! 圧倒的な勝利でした!」
なんかあっけなく勝ってしまった。
……こんなので良いのだろうか?
しかしコメント欄はとても盛り上がっているみたいだった。
――さすがランキング一位! 強すぎる!
――あんな冴えないおっさんがかっこよく見えるぜ!
――斉藤レン最強! 強すぎ!
――あんなの見せられたら俺たちも頑張りたくなっちゃうよなぁ。
いやぁ、褒められると照れますねぇ。
そしてヴァーチャルステージから現実に戻ってきて、椅子から立ち上がる。
するとスタッフが寄ってきておれにこう言った。
「斉藤さん! とりあえず勝利者インタビューの後、決勝戦となりますが、よろしいでしょうか?」
「そうか……まだ決勝があったんだった。――まあ、いいよ。まずはインタビューね」
そしてインタビュー用の会場に連れて行かれ、インタビュアーと向かい合う。
「早速インタビューをしていきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わんぞ」
「ありがとうございます! ではまず初めの質問ですが、え、ええと……す、好きな女性の好みって何かありますでしょうか?」
「…………へ?」
よく見ると女性インタビュアーの頬が少し赤らんでいるような……?
何で!? もしかして俺にもモテ期がついに来てしまったのか!?
そう思わず舞い上がっていたが、コメントを読んで一瞬にして冷静になる。
――ガラガラガラ(心の壁が壊れていく音)
――クソッ! 悔しいがあんなのを見せられたらモテるのは仕方がないよな!
――それな。斉藤が俺たちとは別の次元にいることを知らしめられたぜ……。
いやいや! 俺もただのおっさんだから!
あんまり特別視しないで、恥ずかしい!
ここで変に彼女にアピールしたら絶対に好感度下がるよなぁ……。
てか、これ以上女性が身の回りに増えるのは勘弁願いたいし。
そう思って、これはその質問にこう返すことにした。
「いや、俺は自分の内面を知ってくれる人しか好きになりません(キリッ)」
――かっけぇ……。
――ここで女の子に靡かない! 硬派を感じるね!
――ポポポポ(好感度が上がる音)
――流石だな。経験の豊富さ、それによる余裕を感じるね。
……俺は魔法使い一歩手前なんですが!
そんな経験の豊富さがにじみ出ることなんて決してあり得ないのですが!
そんなことを思いながら、俺はインタビューを進めていくのだった。




