第三十話「探索者頂上決戦が始まります」
とうとう『探索者頂上決戦』の日がやってきてしまった。
この日の為にちゃんとダイエットはしてある。
大勢の前に出ていくのだからな、出ていた腹くらいは引っ込ませておかないとな。
ちなみにダイエットをしているとエレナからは――。
『そんな一週間程度で腹がへっこむとは思えないのだけど。そもそも戦いに行くのなら、ちゃんと栄養は取ったほうがいいと思うのだけれど』
とか言われていた。
しかぁし! こんな情けない腹の状態で人前に出るわけにはいかない!
おそらく俺の友人とか、田舎の両親とかも見ているはずだし。
例えばこれで大スターにでもなったとして、腹が出てたらやっぱり恥ずかしいだろ。
――ピピッ。
よしっ! 体重を二キロも撃破したぞ!
うん、鏡を見ても少しスリムになった気がする!
「なあ、アリエス。俺、最近痩せたと思わないか?」
階段を下りていき、リビングでぐうたらしていたアリエスにそう尋ねてみる。
他の二人は多分まだ寝てるか、準備してるかだろう。
「旦那様はもとから太ってはないですよ」
「えっ? そ、そうかな。へへっ、そうかもな」
アリエスの言葉に嬉しくて思わず舞い上がってしまいそうになるが、ふとそれがお世辞だということに気が付いてしまう。
彼女は何というか……俺に惚れている可能性が少なからずあるからな。
恋愛フィルターがかかっている可能性がある。
というわけで、次に下りてきたユイに聞いてみる。
「なあ、ユイ。最近俺、痩せたと思わないか?」
「えっ? レンさんはそもそもあまり太ってないと思います! 多分!」
あ、多分が付いた。
ユイは嘘をつけないタイプの人間だからな。
やっぱりちょっとは太ってたということだろう。
というわけで、自分の現状を客観的に再認識した俺は、最後の追い込みとして腹筋を始める。
「よしっ! まだまだ痩せるぞぉ!」
「が、頑張ってください!」
ユイに励まされながらも、リビングで熱中して筋トレをしていたら、いつの間にか下りてきたエレナに俺は冷たい目で見られていて、こう言われるのだった。
「レン。どんなに頑張ってもそんな短時間で、その少し出てきたお腹はへっこまないわよ」
***
さて、俺は黒の高級外車を走らせて東京都内にある決闘広場に向かっていた。
そこで『探索者頂上決戦』の撮影が行われるらしい。
決闘広場にはもの凄い人が集まっていて、気後れしながらも一番偉そうな人に話しかけた。
「あのー、俺斉藤レンっていうんですけどー」
その偉そうな人は女性だった。
テキパキと周りに指示を出していて忙しそうだったが、俺に気が付くとすぐに反応した。
「あっ! 斉藤さんですね! 初めまして、夕焼テレビのプロデューサーです。天月アカネです」
そう言いながら彼女は俺に名刺を渡してくる。
俺は探索者としての名刺とかは持ってないから、受け取るだけ受け取って財布に仕舞った。
「ええと、控室を用意してあるので、とりあえずそこで待っててもらえますか? おーい! ハルカちゃん! 彼らを控室まで案内してあげてー!」
アカネさんがそう叫ぶと、まだ若い女の子が一人寄ってきて言った。
「はい、アカネさん! なんでしょうか!」
「ハルカちゃん。こちらが斉藤レンさんだから、控室まで案内してあげて」
「畏まりました! どうぞ、こちらです!」
そして俺たちはハルカさんに続いて控室に向かう。
その間、彼女から今日の説明を受ける。
「ええと、今日は生放送となっておりまして、最初にお二人のインタビューから始まります。そして試合については三点先取となっていて、先に三回勝ちをもぎ取ったほうが決勝進出になります」
「……決勝? ってことはアベル以外にも出場者がいるのか?」
「はい。その方はどうやら斉藤さんと戦いたいらしく、熱心に番組に電話してきていました。一応素性はシークレットとなっておりますので、最後までお楽しみにしていてください」
……熱心に電話してきていたとか怖すぎるだろ。
どんだけ戦闘狂なんだ。
シークレットというのにそこはかとない不安を感じるが、今はどうしようもない。
「ああ、それと、こちらがインタビュー内容となっておりますので、お読みください」
そう言いながら一枚の紙を渡してくるハルカさん。
俺はそれを受け取り、読んでみる。
好きな食べ物から、今日の意気込みまで、色々な質問が書かれていた。
「なるほどな……。とりあえずこれを考えておけばいいんだ?」
「はい、そうですね。それでは後ほどお呼びしますので、ぜひゆっくりしててください」
そして控室に入れられると、ハルカさんは慌てたように戻っていった。
どうやらこの控室は俺専用らしく、まだ誰もいなかった。
アリエスは慣れているのか落ち着いているが、エレナとユイはどこか落ち着かなさそうだ。
「き、緊張しますね……! 私が出場するわけではないのですけど!」
ユイは硬く緊張した声で言った。
それにエレナも頷き答える。
「そうね。……何故か私までも緊張してきたわ」
「なんでお前たちが緊張するんだ……。ほら見ろ、俺なんて超リラックスしてるぞ!」
そう言いながら俺は椅子に座り、足を組み、リラックスしていることをアピールした。
しかし思わずエレナに呆れたようにこう言われるのだった。
「レン。あなた、足が震えてるけど、それでも緊張してないって言える?」




