第二十四話「車を買いに千葉に行きます」
さて、新しい住居者を迎えた次の日、俺は新しい車を見に千葉まで行くことになった。
やっぱりここはお得に中古車を選んだのだが、それが千葉にあるというのだ。
「というわけで、今日は千葉に行きます」
「おー、いいですね千葉!」
ワクワクした感じでユイは言った。
「車ならいくらでも買ってあげますのに。そんなに自分で買うのに拘るのですね」
「ああ、当たり前だろ。こういうのは自分で買わないと愛着が湧かないんだ」
アリエスはよく分からなそうに首を傾げるが、やはり根っからのお金持ちは感覚が違うらしい。
エレナはこの間買ってあげた自分のスマホで地図を見ながら言った。
「千葉ってこの半島になっているところよね? かなり遠回りしなきゃいけないじゃない」
「ふふふっ、実はそうでもないんだよな、これが」
「……どういうこと?」
「東京湾アクアラインという、海を渡れる道路が存在するのさ!」
そう言うと彼女はほへーと感心そうな声を上げて拙い手でスマホを操作する。
「ああ、この線になっているところが道になっているのね」
「そうだよ。ほら、海の上にも道があるだろ」
「本当ね。へぇ、凄いわね。流石は現代だわ」
そんな俺たちのやり取りを見ていたアリエスが首を傾げる。
「思ったんですけど、エレナさんって現代人っぽくないですよね。田舎生まれですか?」
「あ、ああ、ええとだな、それに関してはいつか教えるよ。いつかな」
一緒に住むなら、ダンジョンのことも彼女に教える必要があるだろうし。
そのときに一緒にエレナの出自に関して伝えればいいだろう。
よく分からないと言った感じでアリエスは首を傾げたが、いつかは教えてくれるだろうと思ったのかそれ以上は聞いてこなかった。
「ともかく、今日は千葉に行くぞ! ほら、軽自動車に乗り込めー」
「軽自動車で行くのですか? ロールスロイスに乗っても構いませんが」
「いやいや、あんなので行ったらオーナーがビックリするだろ」
あなた、他に車要りますか?(眼鏡クイ)
みたいになりかねない。
それにあの車の威圧感ヤバいからな、乗っていて心臓に悪いのだ。
「まあ乗りたくないのでしたら、軽自動車でもいいのですけど」
「乗りたくないってわけでもないんだがな。今日は軽の気分なんだ」
少し落ち込んだ様子で言ったアリエスにそうフォローすると、俺は立ち上がって車庫に向かった。
俺の後ろからついてくる三人はバチバチと睨み合い、こんな駆け引きをしていた。
「それで、誰が助手席に乗るか、ですよね」
アリエスの言葉にユイとエレナは反応する。
「そうね……助手席が一つ、後部座席が二つ、だものね」
「……ここは絶対に譲れません」
確かに後部座席は酔いやすいが、そんなにみんな三半規管が弱いのだろうか?
背中でバチバチと睨み合っているのがよく分かる。
「それで、どうするのでしょうか? やっぱりここはじゃんけんにしますか?」
アリエスの言葉に二人とも頷く。
そしてじゃんけん大会が急遽始まり――。
「最初はぐー、じゃんけん、ぽんっ!」
それから何度かあいこの後、助手席にはアリエスが座ることになった。
「ふふっ、これが愛のなせる業です。ごめんなさいね」
ドヤ顔で言っているのが見なくても手に取るようにわかる。
そしてようやく車庫に着くと、俺たちは決まった席に座った。
「じゃあ、さっそく出発するぞー!」
「おおー!」
俺の言葉にユイが元気いっぱい手を上げて、俺は車を発進させるのだった。
***
高速に乗り、東京湾アクアラインに入った。
「うわっ、急に暗くなったわね」
トンネルを潜っていくとエレナがびっくりしたような声を上げた。
どうやらウトウトとしていたらしい。
「ああ、トンネルに入ったからな」
「これってもしかして、今海の下にいる感じなの?」
「そうだぞ。海の下に穴を掘ったんだ」
エレナの疑問にそう答えると、彼女は感心そうな声を上げた。
「へえ……凄いわね。現代人は色々なことを考えるのね」
「ああ、そうだな。でも凄いのはこの先だぞ」
やっぱりアクアラインはトンネルを抜けた先が一番凄いからな。
それから暫く車を走らせて、トンネルを抜けるのを待つ。
「おっ、ようやくトンネルが終わりそうだぞ」
遠くに外の光が見えている。
またウトウトし始めていた三人はその俺の言葉を聞いて目を開いた。
「あら、本当ですね。アクアラインは私も初めてですので、楽しみです」
アリエスは弾むような声で言った。
そして車はトンネルを抜け、海の上に出た。
ぱあっと視界が開け、周り一面に海が広がる。
「わぁ……綺麗ですね」
「そうね、これは壮観ね」
感動している二人に、ユイは胸を張って言う。
「ふふふっ、私はこの景色を知っていましたからね。もう驚かないのですよ」
それから海ほたるパーキングエリアに辿り着くと、俺たちは展望台に向かう。
海と東京、そして千葉まで見えて、もの凄い景色だ。
暫くその景色を堪能すると、俺たちは食堂でお昼ご飯にするのだった。




