第二十三話「もう一人住居者が増えました」
第二十五層のヒト型ボス、イフリートを倒した俺たちは地上へ出てくる。
そして魔石を売って大金を再び手に入れた俺は、リビングでパソコンを見ていた。
「また何か買おうとしているの?」
そんな俺にエレナは近づいてきて尋ねる。
「ああ、流石にあの軽自動車じゃ二人が手狭だと思ってな。大きい車が欲しいんだ」
「……私たちをダシにして散財しないでくれる?」
呆れたように言うエレナを気にせず、俺はひたすらサイトを眺めていた。
すると、外からザワザワとした喧騒が聞こえてきて、その後すぐにインターフォンが鳴った。
それに対してユイが出る。
「はぁい、こちら斉藤です」
勝手に斉藤を名乗っているが、まあこれはいつものことなので気にしない。
しかしインターフォン越しに聞こえてきた声に、俺は思わず立ち上がってしまった。
「私はアリエス・ハーベスタと言います。ええと、この声は旦那様の妹さんでいいのでしょうか?」
「あ、あ、あ、アリエスさん!? どうしてアリエスさんがここに!?」
あ、そう言えばユイは探索者オタクだったな。
彼女が現ランキング四位の女性だとすぐに気が付いてしまったみたいだ。
「あら、驚かせてしまいました? 私はこの間旦那様――レンさんと婚約しましたので。どうぞお見知り置きを」
そう言われユイはパクパクと口を開閉していた。
エレナはジトッとした目でこちらを見てくる。
「え、ええと、これはだな……」
「言い訳はしなくていいわ。それよりも早く出てあげれば?」
もの凄く冷たい声で言われ、俺は渋々と玄関に向かった。
本当は顔を合わせるのも怖いんだがなぁ……いろんな意味で。
そして玄関を開けると、アリエスがいきなり胸に飛び込んできた。
「ああ、会いたかったです、旦那様!」
「……だからぁ! 俺はあんたの旦那になったつもりはないって!」
引っ付いてくるアリエスを引きはがしながら俺は叫ぶ。
背中からの視線が痛いほど伝わってくるので、振り返るのも怖い。
……どうしろっていうんだ、この魔法使いになりかけの俺に。
てか、彼女はどうやら白いロールスロイスで来たらしく、家の周りにも人だかりが出来ている。
ご近所さんたちはザワザワと俺たちを見て好き勝手言っていた。
「やっぱり斉藤さんって女たらし……?」
「美少女女子大生、銀髪美少女だけでは飽き足らず、美少女令嬢にまで手を広げたと言うの……?」
……そんな噂になってるのかよ、俺。
心外すぎる。
それにユイは別に女子大生ではないからな。
年齢的にはそうだけども。
何とかアリエスを落ち着かせると、俺は慌てて家の玄関を閉めた。
これ以上の醜態をご近所さんに晒すわけにはいかない。
「……で、何しに来たんだ?」
「あら、献身的な妻が旦那様に会いに来るのに理由がいりますか?」
「…………本音を言え、本音を」
俺が言うと、アリエスははぁっとため息をつき言った。
「本音なのですけどね。……まあ、用件は他にもありますけど」
そしてふと真剣な表情になると俺たちを見渡した。
「国際探索者連合が旦那様のことに気が付き、対策を打とうとしております」
「え、マジかよ……。どんな対策なんだ?」
「ええと、それはですね――可愛い女性を送り込んで篭絡しようとしているらしいです」
……また女性かよ。
思わずうんざりした表情になる。
アリエスは喋りながら憤慨するように声を大きくしていった。
「旦那様に近づき、あまつさえ篭絡しようとするなんて! 許せません! 旦那様の愛する人は私一人で十分なのです!」
怒るとこ、そこ?
俺が呆気に取られていると、彼女はさらに言葉を続けるように口を開く。
「ともかく、近づいてくる女性には気を付けてください。……そのお二人は大丈夫な人なのですか?」
「ああ、二人は大丈夫だぞ。もう俺の友達というか、家族みたいなものだからな」
俺の言葉に二人とも微妙そうな表情をする。
何でだ? やっぱり女心とは分からんものだ。
俺が首を傾げていると、二人してはあっとため息をついた。
うーん……やっぱりよく分からん!
「そう言うわけですので、当分は私もこの家に住みます。いいですよね?」
「え? き、聞いてないんだけど。てか、もう部屋ないぞ?」
「ああ、それに関しては大丈夫です。私は旦那様と一緒に寝るので」
いや、それは俺が大丈夫じゃないんだが。
思わず口元を引き攣らせていると、エレナが冷たく言い放った。
「住むとしてもあなたはリビングに決まってます。まあ、そもそも住むことを許可しませんが」
するとアリエスはニヤリと企むような笑みを浮かべて言った。
「いいのですか、そんなことを言ってしまって?」
「ど、どういうことよ……?」
エレナの疑問にアリエスはちっちと指を振って言った。
「それはですね、私がいなければこの家は国際探索者連合に取られてしまうかもしれません」
「そ、それはダメだっ! それだけは絶対にダメだ!」
アリエスの言葉に俺は思わず叫んでいた。
彼女はふふっと勝ち誇ったように笑うとこう言った。
「では私が住むことを許可してくれますよね? 旦那様」
「……はあ、分かった。いいだろう、許可する」
というわけで俺たちは新しい住居者を迎えることになった。
結局、彼女はリビングで寝ることになったけどな。
ちなみにアリエスは開いていたノートパソコンの画面を見て、いくらでも車なら買うと言ったが。
こういうのはやっぱり自分で買うから愛着が湧くのではないだろうか。




