第二話「時間も止まり、体力も減らないらしい」
さて、そのことから考察し得る現象は――。
『このダンジョンでは時間停止し、その副作用によって俺の体力も減少しない』
ということだった。
さらに拡大解釈すれば、老化や空腹なども起こらないと考えてもいいだろう。
このダンジョンにとって俺は『外の世界』のものであり、ダンジョン内では『時間が停止している』と考えるのであれば、それはあながち間違いではないと思われる。
「いよっしゃあ! ってことはここに潜り続けてれば俺は会社に行かなくて済む!」
しかも食費も浮くのでお金を稼ぐ必要もなく、老化も起こらないので一生潜っていられる。
「神か!? このダンジョン神か!?」
俺からすれば一生ゲームをし続けられる環境を手に入れたと同義。
そうなればとりあえず、最下層に辿り着くまで潜るしかないよなぁ!
そうワクワクしながら俺は再び意気揚々とダンジョンに潜り込む。
もちろん武器はまだバールのようなものだ。
これしかないんだから仕方がないだろ、本当は俺もかっちょいい直剣とか欲しいけどさ!
「さてさて、まずはスライム狩りをしてレベル上げからだな!」
ふふふっ、こう見えても俺は始まりの街でレベルをカンストさせていたタイプの人間なのだ。
社畜根性もあり、そういった気の遠くなるような単純作業は得意中の得意だった。
さて、いっちょレベリングでもすっか!
俺はバールのようなものを片手に、スライムたちに向かって突撃するのだった。
――それから体感10時間後。
俺はそこそこレベルが上がっていた。
「ステータス!」
そう唱えるとブンッという音とともに目の前に一枚のウィンドウが表示される。
――――――――――
名 前:斉藤レン
年 齢:27
レベル:11
体 力:120
魔 力:110
防御力:30
筋 力:40
知 力:55
幸 運:100
スキル:《ステータス閲覧Lv.1》
耐 性:《打撲耐性Lv.1》
――――――――――
ステータスが見れるようになったのは、おそらくレベルが2になってスキル《ステータス閲覧》を手に入れたからだろう。
ダンジョン攻略の授業でもレベル2になればステータスが見れるようになると言っていた気がする。
それに加え、ステータスが見れるようになって判明したことがまだあった。
このダンジョンでは俺の時は止まっている――つまり体力や魔力も無限に使えるということだ。
どんだけスライムの攻撃を食らっても体力は減らないし痛くない。
魔力は魔法スキルを持っていないからまだ分からないけど、体力と同じ扱いだろう。
そんな中でレベルが上がっていくのは、これは勝手な憶測だが、多分レベルという概念が体力や魔力と違って俺に依存しない――つまりシステム依存の数値だからだろう。
要するに――体力や魔力というのは俺自身に振り分けられたパーソナルデータで、レベルというのはシステム側が操作し管理しているオープンデータということだ。
「くくくっ……そうと分かれば怖いものはない! いざ下層へ出陣じゃあ!」
すでに見つけてあった下層への階段を俺はブンブンとバールを振り回しながら下っていく。
そこには同じような石畳の床や壁が広がり、松明がチラチラと瞬いている。
しかし待ち受けていた敵はスライムではなく、ゴブリンだった。
「てめぇらなんか全く怖くねぇ! ぶっ潰してやる!」
バールを振り回しながらゴブリンたちに近づき、バシバシと叩きまくる。
俺自身もゴブリンたちに攻撃されているが、はははっ全く効かないぜ!
どうやらこのダンジョンの魔物からすると、俺は時が止まった存在なので不干渉となるらしい。
そして何度も叩いていたら、ゴブリンたちも粒子となって消えていく。
「はははっ! 効かなければどうということはないっ! ……って、ん?」
そう上機嫌に叫んでいると、俺はゴブリンの一匹が何かドロップしたことに気が付いた。
近づき見てみれば、それは錆びた直剣だった。
「おおっ! ようやく武器を手に入れたぞ! これでようやく探索者らしくなったな!」
バールのようなものはその辺にポイして、俺は直剣を構える。
「やはり武器があると気が引き締まるな。これで俺の最強伝説が始まった気がする」
まあ気がするだけなのだが。
俺は再び意気揚々とダンジョン探索を開始し、第二層も難なくクリアしていくのだった。
***
それからさらに24時間が経過した。
俺は現在、第五層にいる。
敵はブラッドラビットという兎型の魔物だ。
こいつはすばしっこく、なかなか攻撃を当てるのが難しかったが、慣れれば簡単なものだ。
それにスライムやゴブリンたちとは比べ物にならないくらい経験値が美味い。
現在の俺のステータスは――。
――――――――――
名 前:斉藤レン
年 齢:27
レベル:34
体 力:410
魔 力:380
防御力:48
筋 力:108
知 力:151
幸 運:188
スキル:《ステータス閲覧Lv.1》《剣術Lv.3》
耐 性:《打撲耐性Lv.3》
――――――――――
こんな感じになっていた。
うんうん、かなり上がったほうだと思う。
このレベルが外ではどれくらいのランクになるのかは分からないが、いい感じに成長しているのではないだろうか。
ふふふっ、楽しいなぁ!
こうやってダンジョンやステータスを攻略していくのは子供の頃にハマっていたゲームを思い出す。
まだダンジョンというものが生まれておらず、ゲームの世界でしか楽しめなかった時代だ。
俺は本当は探索者になりたかったのだからな。
結局、安定を取って会社勤めになったが、やはり根本からこういうのは好きだったのだろう。
「よっしゃあ! ドンドン進んで行くぜー!」
そう言いながら剣を掲げると、俺はズンズンとさらにダンジョンを攻略していくのだった。
――それから一時間ほど第五層を歩き回っていたらボス部屋らしきものを見つけた。
重厚な石の扉が目の前に聳えている。
こうなると少し躊躇してしまうよな。
全く体力が減らないと言っても、ボスともなるとちょっと怖い。
しかし! そんなことでめげる俺ではない!
レベルも上がり気が大きくなっていた俺は、勢いよくボス部屋の扉を開け中に入り込むのだった。
***
ボス部屋の中には少し大きめなゴブリンがいた。
まあ第二層にいたゴブリンよりかは一回りデカいが、それくらいだ。
見た目も持っているこん棒みたいな武器も何ら変わりがない。
「……ビビッて損した気分だ」
俺は錆びた直剣を構え、そのボスゴブリンと対峙する。
「ぐぎゃぎゃ!」
ボスゴブリンも俺に気が付き、こん棒を構えた。
……うん、構えも第二層のゴブリンと全く一緒だ。
なら先ほどの感覚で戦えば簡単に勝てるだろう。
――それから十分で俺はボスゴブリンに勝利していた。
「あっさりし過ぎだろ、おい。いくら攻撃が効かないからって簡単すぎないか?」
そう思うが経験値がとても美味しかったから良しとしよう。
俺がステータス画面を確認していると、奥の扉がぎいっと勝手に開いた。
「おっ? もしかして次の階層があるのか?」
ボス部屋だったからこれでお終いかと思っていた。
でもまだ続きがあるらしい。
ステータス画面を閉じ、俺は先に進んでみることにした。
するとその先は以前とは打って変わって、整備されていない本物の洞窟といった感じだった。
どうやらここからが本番らしい。
ワクワクと緊張を胸に、俺はさらに先へと進んで行くのだった。