第十九話「決闘に決着がつきました」
……え?
俺が探索者一位だってバレてる?
まあ同じ名前だし、そう思われても仕方がないんだろうけど……。
何とか粘ってみようと俺は口を開く。
「……あの、人違いじゃないか? だってほら、同姓同名なんてざらにある話だし」
「つい先日、あなたのご自宅にダンジョンができたことまで調べているので、言い逃れは出来ませんよ」
……マジかよ。
それは確かに言い逃れできない。
「くっ……。な、何が望みだ? 俺の家か! 俺の家が欲しいのか!」
「うーん、あなたの一軒家には興味ないですね。まあダンジョンは少し気になりますが」
「なんだとっ! 俺の愛しの一軒家に興味がないだと!」
「……どっちなんですか。ともかく、私が興味あるのはあなた自身です」
思わずアリエスの言葉に激高してしまうが、その後に言われたセリフに首を傾げる。
「俺に……? それはどうしてまた?」
「私はですね、自分より強い人が好きなんですよ。でも私より強い人は一人しかいなかった」
「……レイナか」
「ご存じでしたか。しかし彼女は女性です。恋愛対象にはなりません」
どうやら好きというのは恋愛的な意味で好きということらしかった。
これは困ったことになった。
――が、俺がやることは一つに決まっている。
どうやって負けようかというので迷っていたのだ。
しかし彼女は俺の心を見透かしたように言った。
「あ、ちなみに手を抜いたらあなたのダンジョンが特別であることを全世界に公表します。探索者ランキング第四位で英国の古い王族の血筋の私の言葉は、それなりに影響力があると自負しておりますので」
きたねぇ……。
俺の愛しの我が家を人質に取りやがった。
これでは手を抜くことは出来ない。
「でも俺が勝ったら、その……なんていうんだ? 求婚的なことをされるのだろう?」
「よく分かっておりますね。そうです、あなたが勝ち次第、私はあなたと籍を入れるつもりです」
愛が重い!
この子、絶対に愛が重い系だ!
「ふふっ、大丈夫ですよ。私はそれなりに可愛いですし、献身的です」
まあ可愛いのは認めるけどさぁ……。
その献身的がどのくらい度が過ぎているのかが気になる。
彼女は俺の頬に手を当てて、耳元で囁くように言った。
「楽しみですね、決闘をするのが。どうぞ私をその圧倒的な力でねじ伏せてください」
……怖いよ、この人。
俺はガクガクと震えながら、車が決闘広場に向かうのを待つのだった。
***
決闘広場は探索者ギルドが管理しているダンジョンの一つだ。
そこではVRのようにステージに自己が投影され、そのアバターは自分のステータスを参照している。
俺たちはステージ脇にあるゴテゴテした椅子に座り、ステージにアバターを投影した。
アリエスはその小柄な体躯に似合わず大剣使いらしく、その手には身の丈ほどの剣が握られている。
そしてそれを肩に担ぐと、獰猛に笑った。
「さて――早速始めましょうか」
ワクワクとした弾む口調でアリエスは言う。
しかしふと、俺が剣を持たないことに首を傾げた。
「あら、剣は使わないのですか?」
「ああ、俺は基本魔法主体だからな。剣は使わないんだ」
「なるほど。やはり先ほどのダンジョンでは手を抜いてましたね」
アリエスは納得したように頷いた。
そして大剣を構え、再び言った。
「では――いきますよ」
言うや否や、地面を強く蹴り、彼女はもの凄い勢いで突っ込んできた。
うん……俺からすればやはりそこまで速くはない。
アリエスは思いきり大剣を振るうが、軽々と避けられた。
そして避けながら、俺は竜魔法の『咆哮』を使う。
これは山梨に行ったときに試しに使ったが、相手の行動を一時的に阻害する魔法のようだ。
「……なっ!? う、動けません!」
「なあ、これで諦めてくれないか? ほら、俺だって女の子に攻撃したくないし」
俺はそう言うが、彼女は全身に力を入れて動こうとする。
咆哮を食らってまでもちょっとずつ動き出す彼女に俺は思わず目を見開いた。
流石はランキング四位とでも言うべきか。
いや……この場合はその執念を褒めるべきなのだろう。
そんなことをしていると咆哮の拘束時間が終わる。
すぐに再び地面を蹴って突っ込んでくる彼女に、俺はまた避けると仕方なく魔法を使った。
ジリリと火花が俺たちの間に生まれたと思うと、一瞬にして空間が爆ぜた。
その『大爆発』をもろに食らい、彼女の格好は散々なことになる。
……見えちゃいけないところまで見えそうなんだが。
だがアリエスはそれすらも気にせず、獰猛に笑って言った。
「……ふふっ。やっぱり、流石に勝つのは厳しそうですね。でも、私の全力を越えなければあなたは私に相応しくありません」
いやいや、相応しくあろうとか思ってないから。
そう突っ込みたくなるのを我慢して、俺は彼女のアクションを待った。
アリエスはトントンと軽く跳ねると、ググっとしゃがみ込んで、一気に飛び出してきた。
先ほどよりもよっぽど速く、おそらくこれが彼女の全力なのだろう。
「やぁあああああああああああああ!」
叫びながら、アリエスは大剣を思いきり振り下ろす。
しかし――現在のレベル差が倍くらいあるので、俺はそれすらも軽々避けれてしまった。
まあ大剣を振り下ろした衝撃波で地面がベコッとへこみ、俺は思わず冷や汗をかいたが。
なんつー威力をしてるんだ……。
あれをまともに食らったら、いくら俺でも怪我はするぞ。
だが避けれたので無問題。
俺は爆炎魔法の最上位技『業火の海』を使用する。
ゴウッと一瞬にしてステージが火の海に沈み、アリエスはその体力を全て減らしたらしい。
一瞬で決着がつき、俺のアバターも消え、現実に戻ってくる。
「……やっぱり負けてしまいましたか」
俺の座っている椅子のほうまで歩いてきながら彼女は言った。
悔しそうな口調だったが、その表情はどこか晴れやかだ。
そして俺にニコリと微笑みかけると、さらにこんなことを言うのだった。
「それでは――これからよろしくお願いしますね、旦那様」




