第十七話「経験値蓄積ペンダント」
昼下がりの午後、俺は出品サイトを眺めながら唸っていた。
「うーむ、これどうすっかなぁ……」
そんな俺にソファでゴロゴロしていたユイが寄ってくる。
ちなみに彼女は住んでいたアパートを撤去してうちに住み着いている。
どうせうちにいるんだし、家賃がもったいないということになったのだ。
「どうしたんですか、レンさん」
「いや、これを落札するか迷ってるんだけど」
ノートパソコンに映し出されたサイトには『経験値蓄積ペンダント』と書かれている。
説明欄を見てみると、どうやら経験値を無限に蓄積できるペンダントらしい。
その経験値はいつでも取り出せて、しかも他人に渡したりもできる。
まあ普通は経験値は自分で使うものだから、需要はあまりなさそうだが。
「五百万ですか……。流石に高すぎますね」
そうなのだ。
これはアメリカの《暗黒迷宮》の第十五層でのレアドロップらしいのだ。
だから需要がなくてもコレクターが買うかもしれない。
「でもこれを使って庭のダンジョンに潜れば時給は十万。投資には十分なんだよな」
それに加え、スキルレベルも上げられるし、経験値も貯められる。
間違いなくリターンの方が大きい。
「でも五百万なんだよなぁ……」
庶民の俺には流石にこの金額は荷が重過ぎる。
しかし迷っていれば、いつかは売れてしまうだろう。
俺たちの様子を見て、コンビニから帰ってきたエレナも寄ってきた。
「二人して何を見ているの?」
「これなんだけど……」
「ふーん、五百万ね。でもこれを買えばもっとお金が手に入るんでしょ?」
そう言われ、俺は意を決する。
いくら迷っていたってしょうがないからな。
ここは男だ、腹を決めて買ってしまおう。
「よ、よし……買うぞ」
そして俺はぽちっとBUYボタンをクリックした。
するとすぐに購入完了画面に移った。
「買ってしまった……。ああ、五百万が……」
しかし今さら後悔しても遅い。
それから出品者とやりとりをしていく。
どうやらその出品者は日本にいるらしく、直接受け取ることになった。
……まあ五百万の物が宅配で送られてくるのも怖すぎるしな。
***
そして二日後、俺は出品者と会うべく渋谷駅のハチ公前まで来ていた。
エレナとユイは家でお留守番をしている。
しかしあんなものを出品する人ってどんな人なんだろうな?
やっぱり強面の強そうな人なんだろうか?
そう思って待っていると、広場の横に高級外車の筆頭、ロールスロイスが停まった。
そこから出てきた女性は海外の人で、とても綺麗な人だった。
彼女はなぜか一直線に俺の方に向かってくる。
そして俺の前で立ち止まるとこう尋ねてきた。
「あの……あなたが斉藤レンさんですか?」
「……へ? ま、まあそうだけど」
「良かったです。ええと、出品をしましたアリエス・ハーベスタと言います」
こんな美人さんだとは思わなかった。
しかもめちゃくちゃ立ち振る舞いが上品だ。
「あ、ああ。一応お金は持ってきたが……」
俺が言うと彼女はにこりと笑ってこう言った。
「——ここでは目立ちます、とりあえず車に乗りましょ?」
そう言われ、ようやく俺は周囲に見られていることに気がついた。
確かに目立っているが、全部このアリエスのせいだろう。
そして彼女にエスコートされて俺は車に乗る。
エスコートの仕方も品があって、しかも慣れている感じがする。
……あぶねぇ、危うく惚れてしまうところだった。
車の後部座席のに座ると、隣にアリエスが座ってきた。
ちなみに専属運転手もいるらしい。
まあ当たり前だろうけど。
そして車が発進すると同時に、アリエスがこう尋ねてきた。
「あの……どうしてこれを購入しようと思ったのですか?」
やっぱり聞かれるか。
しかし本当のことを話すわけにはいかないので、俺は適当にお茶を濁した。
「まあ、コレクションみたいなものかな」
「そうですか、なるほど。まあ悪い人ではなさそうなので、良かったです」
でも悪い人はこんな無意味なペンダントに五百万もかけないと思うけどな……。
そう思いつつ、俺はお金の入ったアタッシュケースを彼女の方に差し出す。
クレジットとかはそこまで上限が高くない。
だってこの間までただのサラリーマンだったんだぜ。
だからこうして現金にしてきたんだが。
俺が差し出したアタッシュケースを彼女は受け取らず、微笑んで言った。
「あなた、交渉ごとが苦手でしょう?」
「うっ……確かに苦手だけど、どうしてそう思ったんだ?」
交渉とかが得意なら会社で上司に虐められたりしないからな。
俺の疑問にアリエスは微笑みながら答えた。
「だって、このままアタッシュケースを私が受け取るとしましょうか。そしたらあなたは私のペンダントを受け取る。しかしそれが偽物だったら? もしかしたら最悪、渡されないかもしれない」
……確かに。
そこまで頭が回っていなかった。
「やっぱり、あなたは悪い人ではなさそうね。それではこれがペンダントです。——が、本物かどうかを確かめてもらいたいので、ダンジョンに行きましょうか」
そして車は都心にある小さなダンジョンに向かうのだった。




