第十六話「最弱の新城はリベンジします」
「愛しの我が家に帰ってきたぞぉおおお!」
次の日、俺たちはレイナと別れ都心まで帰ってきた。
久しぶりの我が家になんか安心感を覚える。
そして俺たちは現在、リビングでテレビでも見ながらリラックスしていた。
俺とエレナは一緒にソファに座ってテレビを見、ユイはキッチンでお菓子作りをしている。
今までお金がなくお菓子作りとかできなかったらしいので、とても楽しそうだ。
「あっ、そうだ。レンさん」
ふとユイがキッチンから声をかけてくる。
テレビを見てケタケタ笑っていた俺は、いったん笑い終わると聞いた。
「――どうした? なんか足りない材料でもあったか?」
「いえ、そうではなくてですね。明日は《青のダンジョン》に行きたいです」
「《青のダンジョン》? 何でまた」
俺がそう首を傾げると、彼女は決意のこもった声で言った。
「私は今まで最弱だと言ってきた人たちに、強くなったことを見せつけたいのです」
「あー、なるほどなぁ。それだったらいいぜ、別に。行こうか」
すると彼女はぱあっと表情を明るくする。
「ありがとうございます! ふふっ、これで私も最弱じゃありません!」
やっぱりユイは最弱と呼ばれていたことを気にしていたのだろう。
まあ……誰だって気にするだろう、そんなあだ名をつけられたら。
ここでそのことを清算しなければ、ずっと心の中にしこりとして残ってしまうはず。
だったら俺は彼女に出来るだけ手を貸してあげたいと思った。
「とと、もうそろそろクッキーが焼き終わりますよ!」
その言葉にエレナの瞳がきらりと光った。
そしてキッチンのほうを向いて言った。
「楽しみね、クッキー。私はもうお腹がペコペコだわ」
「さっきお昼食べたばかりじゃないか……」
つい一時間ほど前に家系ラーメンを食べたというのに、腹が減るのが早い。
「ふふっ、食事とお菓子は別腹なのよ。聞いたことないかしら?」
そう微笑しエレナは言った。
流石は女の子である。
俺はまだお腹いっぱいだなぁとか思いながらも、結局クッキーたくさん食べてしまうのだった。
***
二週間ぶりくらいにやってきました《青のダンジョン》。
俺たちが中に入るとみな興味深そうにこちらを見てきた。
やっぱり前に来た時にいた人たちも多いみたいだ。
コソコソと話し合いをしている。
「おい、見ろよ。最弱の新城が帰ってきたぞ」
「本当だ。どうせ強くなれなかったから、帰ってきたんだろうな」
「最弱だからな。あの男でも手が付けられなかったに違いない」
好き勝手言ってくれる。
心配になってユイの顔を見ると、やっぱり緊張した表情をしている。
俺は小さい声で彼女にこう囁いた。
「大丈夫だ、ユイ。お前は中級ダンジョンすらも攻略しただろ? それにエンシェントウルフだって何度も倒してきたはずだ」
俺の言葉に彼女はこちら見て頷いた。
その表情はもう覚悟が決まっていた。
彼女はずっと使ってきていた細剣を引き抜くと、構えた。
対峙するのは三匹のゴブリンたち。
興味深そうに周囲の人間が集まってきている。
「では――いきます!」
ユイが言った瞬間、彼女は地面を蹴り上げて一瞬でゴブリンたちに接近した。
その勢いのまま剣を振り、コンマ秒でゴブリンたちを粒子に変えていた。
「おい……! なんだ、あれは! 速すぎて見えなかったぞ!」
「あれが本当に最弱の新城なのか!? メチャクチャ強くなってるじゃねぇか!」
「誰だよ、最弱とか言ってたやつ! やっぱり俺たちの新城は最強だったんだ!」
なんか最後に手のひら返しが酷い奴がいるが。
ともかく、ユイが強くなったことは周囲にちゃんと伝わったらしい。
ユイは成し遂げたような表情をして汗をぬぐっている。
……そんなに汗が出ているようには見えないけどな。
しかしそんな野次馬たちの注目はだんだんと俺に向き始めた。
「てか、あの新城をあそこまで育てたあの男もヤバくないか?」
「確かに、そうかも」
「あの男にあやかれば俺たちも強くなれる……?」
おおっと雲行きが怪しいぞ……?
「じゃ、じゃあ。俺たちはこれで……」
そう言って逃げ出そうとするが、じりじりと周囲の人間が迫ってくる。
くっ……マズい。
こんな大量の人間を家に招待したら、間違いなく愛しの我が家が汚れる。
「たっ、退散だぁ!」
そして俺たちは慌てて軽自動車に乗り込むともの凄い速度で帰るのだった。
もちろん、法定速度は守ってな!
***
その日の晩、お風呂に入った後、ユイがソファに寝ころんでニマニマしてスマホを見ていたので、気になってチラリとそのスマホの画面を見てしまった。
それはとあるネット掲示板のスレッドだった。
タイトルは――。
『《青のダンジョン》最弱の新城が最強の新城だった件について』
……うん、見なかったことにしよう。
分かるぞ、その気持ち。
エゴサとか、やっぱりしたくなっちゃうよな。
なんか見てはいけないものを見た気がして、俺は罪の意識でそっと記憶を奥底にしまうのだった。




